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第012話 悪魔が笑う



「ジェ、ジェイド様!?」



女のひとりが、上ずったような声でその名を呼ぶ。何故だかとても慌てているような反応だった。

気になっている人物だったのだろうか?


・・・いや、ちょっと待って。今『ジェイド様』っていった?

私の勘が正しければ、もしかして・・・あのジェイド?



「あはは、どうしたのそんな情けない声出して。おばけでも見たような顔だ」

「な、何故このような場所に・・・?」

「何故って、ここは私の家だよ?家の者が庭を歩いていたらおかしいかい」



青年は歌うように言って、クスリと微笑を浮かべた。

むせ返りそうなほどの色気に、エミリア以外の女たちは秒殺だった。頬を赤く染め恥じらう姿は、さながら恋する乙女のようにも見える。

こう・・・黙っていれば彼女たちはそれなりに可愛く見えるのに。

あんな顔で弱者を追い立てていては、寄ってくる者も寄ってこないのではないだろうか。


それはまあ、置いておくとして。

先ほどの一部始終を見て、エミリアは確信に近いものを感じた。


あのジェイドという男、恐らく、この国の第一王子だ。

髪は長く美しい金白色、瞳の色もまた輝かしい金色で、それは天使のようにお美しいそうな・・・。

なぁんて噂は、つい最近侍女たちから仕入れたものだ。

その話を聞いたときは「天使のように美しい」なんて言い過ぎとも思ったが、なるほど。今なら頷ける。



「あ、あの、ジェイド様。こ、これにはワケが・・・」

「ああ、言い訳ならしなくていいよ。なんとなく想像つくから」

「で、ですが・・・っ」

「いいって言ってるのが、わからない?」

「っ―――!」



悪いように思われたくない女たちは、ジェイドに言いすがろうとした。

しかし、ジェイドの一言でそれは遮られた。


・・・どこが『天使』?

確かに見た目は天使のように美しくて神々しい感じがするけれど、あの目は完全に支配者の目だ。

直接言われたわけじゃないエミリアですら、彼の発する威圧感にゾクリと背筋が凍った。怖い、と一瞬でも感じたのだ。


(とんだ天使様だわね。ものっすごい殺気出してんじゃないの)


顔は笑っているけれど、瞳の奥がまるで笑っていない。

むしろ、凍えるほどに冷めた薄暗い光を宿しているような・・・そんな感じがする。



「今日は見逃してあげるから、もう行きなよ。まだ仕事の途中なんじゃないの?」



女たちは何かに蹴飛ばされたように、その場を立ち去っていく。

エミリアもそれに続いて立ち去ろうとしたとき、ジェイドに呼び止められた。



「あ、君はちょっと待ってくれるかな。話がある」



エミリアは内心舌打ちをしたくなった。


(冗談じゃない。私だけ残されたら、また変な噂が立っちゃうじゃない!)


聞こえないふりをして立ち去ろうか。

いや、そんなことをしてジェイドが腹を立てたら、そっちのほうが面倒だろう。

エミリアは渋々といった風に足を止めた。

その時、女たちが睨むようにこちらを見てきたが、ジェイドがチラッと流し目を送ると、女たちは慌てたように足を早めた。

ああ、また何か余計な噂が立ちそうだ・・・。



「・・・・・・何か、ご用でしょうか」

「ご用ってほどじゃないけど、ちょっと君と話がしてみたくて」

「私なんかと話しても何も面白いことなんてないと思いますが・・・?」



とにかく早くこの場から立ち去りたい。

なんだか、この人と長く一緒にいるのは危険な気がするのだ。

だからサクっと話を切り上げて、早々に帰りたかった。



「面白くないかどうかは私が決めるよ。だから君はそんなこと気にしなくていい」

「・・・・・・・・・」

「あれ、急にだんまり?私とは話したくないってことかな」

「・・・そんなことは」

「ない?なら君のその、可愛い声をもっと聞かせて欲しいな」



歯の浮くような恥ずかしいセリフを、ここまで見事に言いのける人は初めて見た。

普通なら若干の違和感を感じるものなのに、ジェイドの場合は板につきすぎて不思議とゾッとするあの感じは起きなかった。

ただ、やはり言われ慣れていない分、いろんな所がむず痒くなる。



「あ、そういえばもうあの嘘泣きはしないの?涙、止まっているけど」

「っ――!」



不意打ちで言われた言葉にエミリアは絶句する。

・・・バレている?



「何のことかわかりかねますが?」

「とか言いつつ、怖い顔をしているよ」



クツクツ、とのどの奥で笑いを噛み殺しながら、ジェイドはエミリアの頬に細く長い指を伸ばしてきた。

反射的にその手を避けようとして、ジェイドと目が合う。

ジェイドの瞳の奥に仄暗ほのぐらい何かを感じて、エミリアは動きを止めた。

その間、普通の人が二人を見ていたとしたら二人がただ見つめ合っていただけのように見えただろう。きっとエミリアが微かに動いたことすら気づかない。

しかし、ジェイドの瞳は全てを映していた。



「・・・あれ、逃げないんだね。意外に勘がいいのかな」

「・・・・・・・・・」

「逃げていたら君を捕まえるために首を絞めてしまったかもしれないね」



ゾッとした。

クスリと妖艶な微笑を浮かべながら、彼は殺人予告を口にするのだ。

それも実に楽しそうに。ただし、やはり瞳の奥は真っ暗闇のままだったが。



「何故私が君の嘘泣きを見破れたのか教えてあげようか」



今はこの美声が悪魔の誘いの声にしか聞こえない。

綺麗な顔で浮かべる微笑も、エミリアにはとてもほれぼれする余裕なんてなかった。

動揺を表に出さないように、平常心を気取るので精一杯だ。


ジェイドの指がエミリアの瞳のふちをゆっくりとなぞって、その指がそのままエミリアの唇へと落ちる。



「本当に怖くて泣いている人間ってのは、目の奥が不安や恐怖で揺らいでるものだ。ちょうど、今の君みたいにね」



にこりと今日一番の愛らしい笑みを浮かべて、ジェイドはエミリアの額に口づけを落とす。

予想外すぎて思い切りビクリ、と肩を揺らしてしまった。


何故そのタイミングでキス?

意味がわからない。

というか、ついさっき会ったばかりで額にキスって・・・どれだけ軽いんですかアナタ!


緊張とハプニングでエミリアは珍しく動揺していた。




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