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第001話 父の話

目の前に落ちていた物を見て、少女は言った。



「嫌だわ。またこんな所にゴミを捨てていったりして。ウチはゴミ捨て場じゃないってのよ、まったく!」



少女はそれを拾い上げると、くしゃくしゃっと丸めて服の中に押し込んだ。

簡素なドレスを身にまとった少女は、銀色に輝く髪を風になびかせ歩き始める。

国内でも珍しい銀色の髪は、太陽の光に当たると尚輝いた。



「エミリアー、そろそろお昼の時間よ。どこにいるの?」



中庭の方から少女―――エミリアを呼ぶ声がして、エミリアは振り返る。



「お姉さま、こっちよ。正門のところにいるわ」



エミリアが叫ぶと、一人の女がこちらに向かって歩いてきた。

エミリアの姉、フローラだ。

フローラはエミリアとは違って、髪の色は柔らかな栗色。

優しげな容貌と相まって、ふわふわとウェーブした髪型がよく似合う。

しかも美人で、気立てもよく、なにより優しい。エミリア自慢の姉だ。



「まぁ、こんな所で何をしていたのかしら。また家を抜け出そうと考えていたのではないでしょうね?」

「違うわよ。馬鹿ね、お姉さまったら。抜け出すんだったら正門なんて使うわけないじゃない。人気のない南門を利用するわよ」

「…そう、ならこれからはジダンに南の門を見張らせなくちゃね」

「あっ……」



完全なる墓穴である。

姉とは違い、活発で天真爛漫な性格のエミリアは、小さな頃からよくいたずらをしては両親や姉を困らせてきた。

今年で16歳になる今でもその性格は変わらず、両親の悩みの種なんだとか。


特に最近のブームは、家を抜け出し、町娘に扮し町を散策すること。

しかし、くしくも髪の色が一般的ではないのですぐにバレてしまうのである。

領主であるウォーカー家の娘が銀髪であることを町の皆は知っているし、天真爛漫だということも知っている。

だからこそと言うべきか、貴族でありながら飾らない彼女は町人に絶大な人気がある。



「おや、お二人ともここにいらっしゃいましたか。探しましたよ」

「ジダン!」



金色の髪がよく似合う、見目麗しい青年が二人の元へ歩いてきた。

ウォーカー家専属の騎士で、エミリアのお世話係(というよりお目付け役)も兼任している、ジダン・ハーレイである。



「ねぇジダン。今日はせっかく天気もいいし、また剣の稽古をつけて頂戴よ」

「またですか?駄目です。危ないですから」

「どうしてよ。私、これでも上達してきてるじゃないの」

「だからですよ、エミリア。手加減できないくらい上達しているから危険なんです」



なんてことを言われて、エミリアはちょっとだけ眉を寄せた。

普通なら喜んでいいはずなのだが、エミリアはそんな手に騙されたりはしない。



「嘘ね。どうせお母様あたりから言われているんでしょ?」

「……………」



図星らしい。

わかり易くも、ジダンはご丁寧にエミリアから視線を外し空中に泳がせている。

そんなジダンの様子に、フローラは口元に手を当てクスクスと笑い、エミリアは呆れ顔でジダンに言った。



「ねぇ、ジダン。あなた、もう少し嘘つくの上手になった方がいいわ。それじゃバレバレだし、なによりちょっと可愛過ぎよ」

「……余計なお世話です。というより、エミリアが嘘つくの上手すぎるんです」

「あら、私は嘘なんてついてないわ。話をちょっとはしょったり、大げさにしたりしているだけよ。全くのでたらめは言ってないわ」

「………………」

「あら、何よその目は?」



その時、エミリアは将来大物になるんじゃないかと、ジダンは思ったという。




◇◆◇◆◇




それは、家族での夕食の時間のことだった。



「今宵、お前たちには大事な話がある」



父が真剣な顔でエミリアとフローラを見た。

母も手にハンカチを持ち、なにやら口元に当てている。

何事かと思った。



「急にどうしたのよ、お父様。もしかして、領地剥奪とか!?もしくは爵位の剥奪!?まさか処刑なんて言わないわよね??!!」

「話が飛びすぎだ、エミリア。私がそんなヘマすると思うか?」

「思うわ。だってお父様ったらこの前、庭園で猫を見たとき犬だとおっしゃったじゃない。あの時はとうとうボケが始まったんだと涙がこぼれたわ」

「あ、あれは、たまたまそう見えただけだろう。もう随分前の話だ」

「つい3日前ことよ!」

「……とは言っても、たったそれだけの事だろう?」

「いいえ、お父様。まだあるわ。そうアレは昨日の…」

「もういい」



父は気を取り直すかのように「うぉっほん」咳払いをすると、再び真剣な顔に戻る。



「お父様、そんな真剣なお顔やめてください。笑ってしまいそうよ」

「エミリア、お前はもう黙っていなさい。それと、この顔は雰囲気作りだ。我慢しなさい」



そして父は、大事な話とやらを話し始めた。




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