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糖分過多な誘惑

休戦ではなく、作戦を変えたようです。

下を向き、ぎゅっと目をつぶる。

体は硬直し、全身から汗が溢れだすのを感じた。


主任によって私は完全に追い詰められた。

身体的にも、精神的にも。

逃げなければと思うのに、主任からどう逃げていいのか、わからないっ!


わけのわからない恐怖に泣き出しそうになる。


・・・やだっ!



すると・・・主任が動いた気配がした。


体がビクつく。


また何か言われるのだろうかと思っていたら、目の前から主任の気配が消えた。

おそるおそる顔をあげ、目を開けると主任は3歩ぐらい離れた場所からこちらを見ていた。


・・・本当に瞬間移動できるんじゃないないだろうか・・・この人・・・。


「ごめん・・・。怖がらせちゃったね。」

申し訳なさそうな顔で主任が言う。


「みらいが可愛いすぎて、つい・・・。」

自分の両頬を手でおさえながら言う主任、乙女のような動作なのになんでこの人こんなに色っぽいんでしょうかね。

ていうか、つい・・・であんなことしないで下さいっ!


「・・・お詫びにみらいが好きなもの何でも作ってあげる。なにがいい?」

食べ物でつれる女だと思われているようですね。

失礼にもほどがありますよ!

いくら食い意地のはった私でも・・・


「なんでもいいよ。そうだねぇ・・・甘いものでも作ろうか?」

甘いものですとっ!?

女の子が体重を気にしつつ、それでも食べずにはいられないアレですか!?


「うん。クッキーとかドーナツなら作れると思うよ?」

朝ごはんだけでなく、スイーツまで作れるなんて・・・。

本当にできた嫁・・・じゃなくて人ですね。

というか、クッキーにドーナツ・・・。

お、おいしそうじゃないですか・・・。

むぅ。


「・・・本当に作れるんですか?」

主任の顔を窺いながら尋ねる。


「もちろん。」

主任はにっこりと笑う。

完璧なその笑顔が勝利の笑みだと私は気づかなかった。


こうして、私は再び主任の部屋に戻ったのです。




主任は腕まくりをし、腰に黒いエプロンを巻いた。

何を着ても(無駄に)似合う人ですね。


主任は台所から色々な道具や材料を取り出し、机に並べていく。

本とかを全く見ることなく、動く様子から主任が日常的に料理している人だとわかる。

あっというまに、机の上は料理番組のような状態になった。


「さて、準備はできた。本当にドーナツでいいの?みらい。」


「はい!お願いしますっ!!」

クッキーじゃ満足できないんですよ!


「了解。みらいも手伝ってくれる?」


「えぇっ!?」

主任のなにげない言葉に私は固まった。

いえ、手伝いたくないわけではないんです・・・心から手伝いたい・・・です・・・でも・・・。


「主任・・・。私、どうしようもなく料理が下手なんです・・・。」


恥ずかしくて、泣きそうになりながら告白した。


砂糖を塩と間違えるなんて可愛いものじゃなく、根本的にダメなんです。

魚だろうと肉だろうと焼けば原型が何かわからなくなるほど真っ黒になるし、シチューを作れば魔女が作ってそうな緑色の液体になるし、変な匂いするし。

何かを作ろうとして、食べ物になったことがないのです・・・。

そんな私に母は食材が無駄になると台所に入ることを禁じました。


私の話を主任は黙って聞いてくれた。

それから・・・

「じゃ、僕と一緒に作ってみよう。」

とあっけらかんと言った。

でも・・・


「・・・材料が無駄になるかもしれないんですよ・・・?」

自宅ならまだしも、人様の家の食べ物を無駄にするのは、ひどく心苦しいのですが…。


「大丈夫。僕がちゃんとフォローしてあげる、絶対にね。だから、一緒に作ろ?」

主任は私に手を差し伸べた。

私はその手をじっと見る。主任となら、ちゃんとできるかもしれない・・・。


私は主任の手をとった。

「よ、よろしくお願いします。」



「それじゃ、僕が横から材料を入れるから、みらいは混ぜてくれる?」


「はいっ!」

安原みらい、全力で混ぜさせてもらいますっ!!


「そんなに力まなくていいよ。じゃ、はじめようか。」

主任が隣からどれも同じに見える白い物体を入れてくる。

・・・やばい粉とかじゃないですよね、これ。


「みらい、混ぜちゃって。」


「はいっ!」

行くぜ!!だぁぁぁぁぁっ!!


ガリッ


「・・・うん。みらい、力入れすぎ。」


ですよねー・・・。


「主任、やっぱり私には・・・。」

ドーナツのためにも、私は身をひいたほうが・・・。

すると、主任は私の後ろにまわって、泡だて器をもつ私の手ごと握って動かし始めた。


「こうだよ、みらい。」

な、なるほど。

「こうですね。」と私も真似して動かしてみる。主任はそれを見ながら「そうそう。」といってくれた。

主任はいい先生だったようです。逆の手を私の腰においてさえいなければ。

ですが、今はドーナツ第一です。多少のセクハラは、我慢しましょう。

そう・・・全てはドーナツのためです!


何度か材料を入れて混ぜる動作を繰り返したら、粉から粘土みたいになった生地を見て、私は感動していた。すごい!私、今料理してる!!しかも、今のところ上手くできているっぽい!!やりましたよ、主任!と主任を見れば、微笑ましげに私を見ていた。


「少しの間、冷蔵庫で生地を休ませよう。」

おやすみ、未来の私のドーナツ。

しっかり休んで、おいしいドーナツになるんですよ・・・。

主任がいれてくれたお茶を飲みながら、時が過ぎるのを待つ。

だけど、どうしても冷蔵庫が気になって、私は冷蔵庫の前に座っていた。そんな、私を主任は楽しそうに眺めていた。


そして、しっかり休んだであろう生地と再び対面した。


「僕は揚げる準備をするから、みらいは生地をドーナツの形にしてくれる?」


そんな重要な役目を私に!?

・・・正直、私には荷が重過ぎるのですが・・・私を信用してまかせてくれた主任のためにも、ここは一つ!

「・・・やってみます。」


慎重に見知ったドーナツの形を作りあげていく、どうやったってキレイなドーナツ型にはならなかったけど、できるだけのことをやった。


「・・・できた・・・。」

生地と格闘した結果、手だけじゃなく顔も粉まみれになってた。でも、それを気にすることなく主任にできたものを見せる。やばい、書類のチェックをお願いするとき以上に緊張する。これじゃダメってた言われたら、どうしよう・・・。


「うん、よくできたね。じゃ、揚げちゃおう。」

さりげなく褒めてくれた、主任の言葉が心から嬉しかった。


さすがに揚げるのは主任に任せたけど、その様子を私は隣でずっと見てた。

白かった生地がきれいな狐色になっていく。

揚げ終わると、それはもう完全にドーナツだった。


「みらい、仕上げに砂糖をまぶして。それで、できあがりだよ。」


できあがり・・・私が・・・。

少し緊張しながら砂糖を一掴みし、さらさらとふりかける。


そのドーナツを主任が一つ掴み、私の口元に差し出した。

「はい、みらい。」


私は一口だけかじった。

「どう?」


「熱いけど、とてもおいしいです・・・。」


「そう、よかったね。」

ドーナツを私に手渡し、主任は私の顔をタオルで優しく拭いてくれた。


その距離はさっきと同じくらい近かったけど、全然気にならなかった。

自分の手で、おいしいものが作ることができた・・・それが、嬉しすぎて。

それを手伝ってくれた主任に素直に感謝する。


「主任!一緒に作ってくれて、ありがとうございました。」

自然の満面の笑みになった私の顔を主任は惚けた顔で見ていた。



とりあえず、帰ったら一番にお母さんに報告です!!




読んで頂きありがとうございました!今回は主任の作戦勝ちですかね。次回は、彼女に立ち向かって頂こうと思います。

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