閉じられたドア
ゆるく立ち向かってます。
目の前で微笑んでいる男性から目をそらすため、とりあえず私は無言で食べていた。
えぇ、残すなんて選択肢ありませんよ、もったいない。
そんな私を見ながら主任は頬杖ついてニコニコしている。
「ふふ・・・僕が作った食事をみらいが食べてる。何だかドキドキしちゃうなぁ。」
なんでっ!?
思わずみそ汁ふきだしそうになったじゃないですかっ!!
今の主任は変だ。変すぎる。
いつもは、穏やかだけどビシッとしたできる男って感じなのに。
今の主任はネジが緩みまくってるような気がする。
それも、緩んじゃいけない部分のネジが。
今すぐそのネジを締めなおさなければっ!!
手遅れになる前に!!
私は、よくわからない使命感に燃えた。
確かに私は主任を男性として見てなかった。
でも、上司としての主任は優しくて頼れる人。決して嫌いだったわけじゃない。
そして、これからも嫌いになりたくない。
主任はどうか主任のままで。
笑顔が素敵な優しい上司に戻って頂きましょう。
さて、その為にはどうしたらいいでしょうか?
おいしいみそ汁を飲みながら考えてみよう。
・とりあえず叩いてみる
いや、主任は壊れたテレビじゃないし。
それに、今の主任と直に接触するのは大変よろしくない気がする。
無意識で主任をじーっと見ていたら、主任はポッと頬を赤く染め言った。
「みらい・・・。みらいにそんなに熱く見つめられたら・・・僕は・・・っ!」
何だか主任がハァハァいってます。
潤んだ瞳に、上気した顔。
とても官能的な表情ですが、なぜ今?
作戦を実行する前から失敗のようです。
主任なかなかやるな・・・。
・仕事の話をしてみる。
仕事をしている時の自分を思いだすかも知れません。
やってみましょう。
「そういえば、主任。昨日の夜、二人で作成した書類ですが・・・。」
少し落ち着いてきた主任に話しかける。
「ん?あぁ、あれね。本気出せば、もっと早く出来てたんだけどね。みらいと一緒にいたかったから、わざと、ゆっくりやったんだ。」
思わぬ暴露をされました。びっくりです。
私としては手伝って頂けただけで、十分ありがたいのでそれはいいのですが・・・
本気出したら、もっと早く出来ただなんて・・・。
主任どんだけ優秀なんでしょうか。それとも、私がダメすぎるんでしょうか。
あ、なんだか落ち込んできました・・・。
返り討ちにされ、失敗です。む、無念。
ダメージ回復をはかるため、私は食事を再開し、残さずきれいに全ていただきました。
安原みらい、復活です!
「主任、ごちそう様でした!!全部、本当においしかったです!」
「よかった。僕もおいしそうに食べるみらいを見て、大満足だよ。」
本当に嬉しそうに主任が言う。
なんで、この人はこう恥ずかしいことをサラッと言えるのでしょうか。
赤くなった顔を見られないように、私は立ち上がり、食器をキッチンに運ぶ。
流し台に食器を置き、腕まくりをした。
「主任。台所お借りしますね。」
「え?いいのに。僕がやるよ?」
「いいえ。ごちそうになったんだから、これくらいやらせて下さい。」
ここは、譲れません。
そんな私の思いを読み取ったのか、主任は苦笑し言う。
「それじゃ、お願い。」
その言葉に私も笑って
「はい。」
と答えた。
食器を洗い終えた、私が手を拭いていたら
「みらいが僕の家のキッチンに立ってる・・・。ふふ、新婚さんみたい。」
と両手で頬杖ついて、私を見ていた主任が言った。
いけない。主任の状態が悪化して来てる気がする。
作戦再開です!
・全部、お酒のせいにする。
昨日の夜、主任も飲んでたし、可能性はないわけじゃない。
そう、今の主任は酔ってておかしいってことにしましょう!
無理があるとか言わないで!!
「もう、主任ったら二日酔いですか!?」
「僕はザルだから、そもそも酔わないよ。」
撃沈です。
かくなる上は・・・
・何事もなかったかのように帰る。
これしかないですね。
敵(?)前逃亡とは、何とも情けないですが、相手が強すぎます。
ここは、勢いにまかせて退却させて頂きましょう。
「へぇーそうなんですか。あ、もうこんな時間っ!主任、泊めていただいた上に、おいしい朝食まで本当にありがとうございました!このお礼は、後日必ずさせて頂きますので!それでは、失礼します!!」
ノンブレスで言ったので息がきれた。
それでも、立ち止まらず玄関に向かう。
そんな私の背中に主任の声がかかった。
「うん。気をつけてね。」
その言葉に、心から安堵した。
やっぱり、主任は主任だったんだ。
もう急ぐ必要はないと、ゆっくりドアを開けた・・・
開いたと思ったドアは、すぐに閉じられた。
私が開けた、何倍もの強い力で。
目の前には閉められたドア
私の顔のすぐ横にドアを押さえる主任の腕。
そして、耳元に主任の唇。
「ねぇ、逃がすわけないでしょう?やっと捕まえた僕のみらいを。」
艶めいた声にびくつく体。
誰か・・・瞬間移動できるエロい声した上司様の攻略方法を教えて下さい・・・(泣)
なにやら、たくさんの方に読んで頂いているようで嬉しい限りです。次話は、主任のターンです。セクハラ三昧になる予定です(おい)。