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完璧な朝食

明かされた犯行(?)動機。

ご飯にみそ汁、だし巻きたまごに鮭、のりにほうれん草のおひたし。

日本人が愛してやまない朝食が、私の前に並んでる。


パ、パーフェクトッ!!



「主任!あなたは、すぐにお嫁に行けます!!」

どんな姑さんだって、この朝食には文句は言えまい・・・。


「そう?みらい的には僕みたいなお嫁さんはどう??」


「会ってすぐに黙って俺についてきて下さいって言います!」


「強引なんだか謙虚なんだかわかりずらいプロポーズだね。」


笑って主任はお箸を私の手元に置き

「さぁ、召し上がれ。」と言った。


その言葉に待ってましたとばかりに、私は手がジンジンするぐらい勢いよく両手を合わせ、


「いただきます!」


と叫んだ。




しばらく、私の食べっぷりを眺めていた主任はおもむろに話しかけてきた。


「・・・みらいはさぁ、逃げようとか思わないの?」


ん?あ、このだし巻きたまごバカうまっ!


「さっき、僕はみらいを勝手にここに連れてきちゃったって言ったでしょう?そんな危ないヤツの出した食事を食べちゃっていいの?」


「例え、何を盛られていようとも鮭に罪はありません!」

人を憎んで、鮭を憎まずですよ!


私の言葉に主任は声をあげて笑った。

「うん。確かに鮭に罪はないよね。」


私は箸をおき、主任と向かいあった。


「それに、記憶が曖昧なので事実はわからないですけど、主任は私に危害を与えるつもりはないと思ってます。」


「なぜ?」


「だって、主任が本当に私に何かしようとしてたなら、二人きりで残業してた時にもできたでしょう?」


「・・・ワイルドなこと考えるねぇ・・・。」


ワイルド?私に何するつもりだったんですか、主任。


「それに、この部屋の中でも何もされてないと思いますし。」


体には何の異常もないし、気分も悪くない。

服装だって、上着は脱がされていたけど、他は昨日のまんまで寝かされていたし。

脱いで確認することはできないけど、そういった行為のあとも・・・


「うん、してないよ。」


視線で自分の体をたどっていた私に穏やかな声がかかる。


「運ぶ時と上着を脱がした時以外ほとんど君に触れていない。」


おっ当たった!


「せいぜい髪と顔に何度か触れただけだよ、ここでね。」


とゆるやかに弧を描く自分の唇を指した。


っ!?

「やってるじゃないですか!!」


思わず大声がでた。

だって、く・・・唇でって!!

アウトですよね!?


「その程度で我慢した僕をほめてほしかったのに・・・。」


しょんぼりと言う田所主任。

たれた耳が見えてきそうな様子だった。

だが、ほめるかっ!!


「主任!なんで・・・っ!」


私にそんなことをっ!と続けようとした私の言葉は、主任の心の底から嬉しそうな表情を見て飲み込まれた。



「あぁ・・・すごく嬉しいなぁ・・・。


 みらいが僕だけを見て話してくれてる。僕の言葉に感情を返してくれてる。


 それが、とても嬉しい。」


本当に幸せそうに彼は言った。

つげる言葉がでてこない私の視線を捉えながら彼はつづける。


「こんなことしてごめんね。でも、どうしても君の世界に入りたかったんだ。


 僕を見てほしかったんだ。」






主任の言ってることが理解できない。


私は主任のことを無視したことなんてないし(できない)、昨日だって主任と言葉を交わしたはず。

主任が実は透明人間とかでなければ、ちゃんと主任を見てたはず。


「理解できないよね。少し言い方を変えようか・・・。

 

 みらいは僕のこと上司としてしか見たことないでしょう?」


えっと・・・それは・・・


「いいえ!普通の上司ではなく、主任は笑顔が素敵で優しい上司だと心から思ってます!」


だから、安心して下さい!


「うん、ありがとう。でも、男として・・・いや、一人の人間としてさえ見たことないでしょう?」


・・・え?

だって主任は主任で。

それ以上でも以下でもない。

主任の顔が苦しげにゆがむ。


「否定できないでしょう?話すことは、仕事についてだけ。


 それ以外の会話や接触は南さんに丸投げして逃げてたもんねぇ。」


主任の言う南さんとは、会社で私が一緒に行動している子だ。

ふわふわした可愛い子で、男性社員に大人気。

性別によって接し方や話し方がガラッと変わるので、同性には、あまり好かれていないけど。

ある意味とても潔い彼女のことが私は嫌いじゃない。

まぁ彼女は多分、私を比較対象と利用しているだけだろうけど、人(主に男性)とのコミュニケーションが苦手な私も彼女を男性応対係として利用しているので、特に何とも思わない。

そんな友だちではないけど、ギブアンドテイクな関係が彼女とは形成されていた。

仕事以外の会話は彼女にふり、私は逃げる。

それを悪いことだと思ったことはなかった。だって、ほとんどの男性社員は、私と話すより彼女と話す方が嬉しいはずだ。


なのに・・・。

目の前の男性は、そのことにとても傷ついてるように見えた。


「逃げられた側のことなんて考えたことないでしょう? 

 勇気を振り絞って話しかけても、すぐにみらいは逃げて、どうでもいい子に延々と話しかけられる僕の気持ちなんて考えたこともないでしょう?それも何度も、何度も。」


私を責めるように主任は言う。

というか、どうでもいい子って・・・。

最近、南ちゃん主任をロックオンしてたのに・・・。

私が逃げた後も、南ちゃんと笑顔で話して続けてたから、これは主任も南ちゃん狙いか?と思ってたのに。


「だから、昨日二人きりで仕事してた時、ご飯食べてる時、みらいが僕を見て話してくれることが嬉しくて、どうしてもこのまま二人きりでいたかった。南さんとか、南さんとかがいない所で。」


・・・本当に南ちゃん嫌いなんですね、主任・・・。



「だから、やっちゃった☆」



えへって感じで、もうちょいで三十路な男性が可愛らしく笑う。



うん。なにを?とか絶対に聞くまい。




読んで頂きありがとうございます。次話から、本格的に緊張感のない攻防戦が始まる予定です。

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