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とあるOLの朝

あまり深く考えず読んでやって下さい。

はて、私はどうしてここにいるのでしょう?


「おはよう、安原さん」


そして、目の前で微笑んでいる(無駄に)爽やかな男性はなんなのでしょう?



一人混乱する私をよそに彼は言う。



「ところで、安原さんは朝食は和食?洋食?」




「あ、できたら和食で」



それが、見知らぬ部屋で目覚めた私の第一声だった。





「了解。ちょっと待っててね。」と優しく微笑み、彼は部屋を出ていった。




うん、とりあえずアレだ。現状を把握してみましょう。


本当は、やたらと心地よいこのベッドで二度寝という名の現実逃避をしたくてたまらないのだけど・・・。



なんだか、白いふかふかでもふもふな枕が私を呼んでいる気が・・・・・・。

 


・・・ちょっとだけなら・・・・・・・。


だめっ!

現実を直視してっ、私!!


とりあえず集中するため、よそ様のベッドの上で正座をして、私は何とか頭を動かし始めた。





わたくし、安原みらいは特に秀でたところのない地味な普通のOLであります。

本人が、こういうと謙遜していると思われるかもしれないけど、まわりからの評価も同じ。

そんな自分を否定する時期は、とうの昔に過ぎて、開き直りながら自分を生きております。

単調だけど充実しているといえなくない日々を過ごしながら。


そう、昨日までは。





日が沈んで、ちらほら帰宅する人が出始めた頃、私のデスクの上でそれは起こった。

いつも変な音をたてて働いてくれていたご高齢な私の相棒(パソコン)が、いきなりその全ての機能を停止したのである。折りしも、明日の会議の資料を作って、もうすぐ完成だって時に。


今まで、色々あったけど、それなりに仲良くやってきたじゃないですか・・・!

なのに、この仕打ちっ・・・!!

ひどいぜ、相棒・・・。


なにしても反応してくれない画面を見ながら、顔には出さずに、心で泣いていた私に


「あ、消えちゃったね。」


と声をかけてきたのは、いつでも柔らかな笑顔を浮かべている田所 満主任だった。

心は今だ折れたままだったが、社会人としてのプライドから何とか対応する。


「そのようです。他の課からあまってるパソコン借りてきます。なんとか今日中に仕上げますので。」


残業決定だぁ・・・


「じゃ、僕も手伝うよ。二人でやれば早く終わるでしょう?」


と微笑みながら言った。



か、神さま!!じゃなくて、田所さまっ!!

あぁ・・・今までなんか笑顔がうさんくさいとか思っててごめんなさい!!

これからは、私も他も女子社員とともに、その五月の風のような微笑みを崇めます!!!と思わず(心の中で)叫んだ。




田所主任の仕事っぷりは、それはもうお見事でございました。

私が予想していたより、かなり早い時間に仕上げることができた。それでも、完成した頃には私たち二人しか残っていないという状況になってしまった。

自分のせいで、残業させてしまったことに今更ながら申し訳ない気持ちになる。


帰る準備をしながら声をかける。


「田所主任、ほんとうにすみません。わたしのせいで…。」


「気にしないで。困ったときはお互い様だよ。」

と微笑んだ。


できた人だ・・・。

女の子が好きそうな甘いマスクで、常に微笑んでいるからもてるのだと思っていた。

でも、外見だけでもててるんじゃないんだな、この方は。


そんなことを思いながら、主任の顔をさりげなく田所主任を見ていると


「でも、おなかすいちゃったな。安原さんはどう?」


と尋ねられた。

これは、お礼をするチャンスっ!!


「主任!今日のお礼に、ぜひとも私にご馳走させてください!!」


力強く言った私に、最初は彼も遠慮していたが、何とか説得し了承してもらった。

上司と二人きりで食事に行ったことなどないので、どこの店に行ったらいいか少し悩んだけど、結局よく行く洋食屋さんにした。


そこで田所主任とご飯を食べて、勧められたので少しお酒も飲んで、主任は意外と聞き上手で・・・・。


で・・・?


でっ!?



そこから先の記憶がでてきません・・・・・(泣)




「田所主任っ!!」


キッチンに繋がるドアを勢いよく開けた私に、特に驚いた様子もなく彼は微笑む。


「うん?まだゆっくりしてていいのに。今、鮭を焼いてるからね。もう少し待ってて?」


「あ、はい。」


鮭かぁ・・・楽しみ・・・


ではなくてっ!!


「主任!昨日、私は酔いつぶれてしまったんでしょうか!?」



そうとしか考えられない。

お酒は、あまり好きじゃないから、たまにしか飲まない。

でも、今までは酔いつぶれたことなんてなかったのに・・・。


主任にまた迷惑をかけてしまった・・・・・・。


ありえない失態に、情けない顔をしているであろう私を見て主任は・・・



ぷっと吹き出した


「なるほど。君はそう考えるんだね。」


予想外の反応に私は呆気にとられた。


「うん。確かにそういう考え方もできるね。」


他にどう考えればいいのでしょう?

主任の言葉が理解できず、私は首を傾けた。



「そうだね。例えば、安原さんがお手洗いに行ってた時に、僕が飲み物に薬を入れちゃったとかね。」


は・・・い?


「そして眠らせ、タクシーを呼んで、自分の家にお持ち帰りしちゃったとかね。」



いや、そんなことは・・・

「ない・・・ですよね?」


肯定してほしくて、すがるように彼を見る。

彼はゆっくり微笑んだ。


「君は本当にいい子だね、みらい。」


名前を呼び捨てにされたことさえ、気づかないほど完璧な笑顔で


「あ、鮭が焼けたよ。とりあえず、朝食しよう?」





見知らぬ部屋で男性と二人きり。しかも、彼は犯罪(?)をほのめかすようなことを言う。



・・・ここで、私がとるべき行動はひとつ・・・っ!!





「はい!喜んで頂きますっ!!」



だって、ほら鮭食べたいじゃないですか。







読んで頂きありがとうございました。どんなに素敵な笑顔でも彼の言ってる(やってる?)ことは犯罪ですので絶対真似しないで下さい。

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