第10話「朝の光と新しい誓い」
数日後。
宮廷内には、新たな噂が駆け巡っていた。
「宰相閣下が、専属の薬師を正式にパートナーとして迎えたらしい」
その噂は瞬く間に広まり、多くの貴族たちを驚愕させた。
身分違いも甚だしい。しかも相手は男だ。
しかし、アレクセイの態度は毅然としていた。
彼は公式の場で、僕を隣に立たせ、堂々と宣言したのだ。
「この者は私の番であり、なくてはならない存在だ。文句がある者は前に出ろ」
その圧倒的な迫力に、誰も反論できる者はいなかった。
僕は緊張でガチガチになりながらも、彼の手を握りしめて立っていた。
オメガであることは公表していない。表向きは「特別な才能を持つベータの薬師」として紹介された。
それでも、一部の鋭い者たちは気づいているかもしれない。
けれど、アレクセイがそばにいる限り、誰も僕に手出しはできないだろう。
執務室の窓辺で、僕は外の景色を眺めていた。
今日は晴天だ。
青空が広がり、庭園の花々が鮮やかに咲き誇っている。
以前のような閉塞感はない。
世界が輝いて見える。
「何を考えている?」
背後からアレクセイに抱きすくめられる。
彼の腕の中にすっぽりと収まり、僕は心地よい体温に身を委ねた。
「……幸せだな、と思って」
素直な感想を口にすると、彼はくすぐったそうに笑った。
「私もだ。お前がいなければ、私は今頃、孤独に押しつぶされて死んでいたかもしれん」
大袈裟な、と笑おうとしたが、彼の目は真剣だった。
「ありがとう、ルチアーノ。私を見つけてくれて」
逆だ。見つけてくれたのは彼のほうだ。
でも、そんな細かいことはどうでもよかった。
今、こうして二人でいられることが何よりの奇跡なのだから。
「これからも、ずっとそばにいます。あなたの薬として、そして……番として」
僕が誓うと、彼は満足げに頷き、僕の額に口づけを落とした。
「ああ。離すつもりはない」
その言葉は、どんな契約書よりも確かな約束として、僕の心に刻まれた。
宮廷の陰謀や、世間の目など、これから先も多くの困難が待ち受けているだろう。
でも、二人なら乗り越えられる。
冷徹な宰相と、偽りの薬師。
奇妙な出会いから始まったこの恋は、やがて国をも動かす大きな愛へと育っていくのだった。




