『追放された伯爵令息、辺境で猫獣人の少女に愛される』――愛されることで、戻れなくなった
雪と静けさしかない辺境で、彼はひとりきりになるはずでした。
けれどそこで出会ったのは、怯えながらも必死に生きようとする猫獣人の少女でした。
守るつもりで差し出した手は、いつの間にか離せないものになり、
一緒に眠る夜は、少しずつ当たり前になっていきます。
寒さも孤独も、寄り添えば耐えられる。
そう信じられるほど、日々は穏やかで、満たされていました。
これは、追放された伯爵令息が
「居場所」を得て、「家族」を持ち、
毎日毎晩、確かに愛されながら生きていく物語です。
雪が降る日だった。
王都の冬は、飾り立てられるほどに冷える。白い息を吐くたび、息だけが先に外へ逃げていくような気がした。ノアは広間の中央に立たされ、耳に入ってくる罵声を、ただ遠い音として受け取っていた。
「辺境の金を横流しした」 「獣人と通じた」 「王家に刃向かった」
証拠は薄く、告発は粗く、針の穴のような矛盾がいくつもある。けれど、その矛盾を指摘する時間は与えられなかった。弁明しようと口を開けば「往生際が悪い」と笑われるだけだった。
王は言った。感情の欠片もない声で。
「エーベル伯爵家次男ノア。爵位の継承権を凍結し、辺境への追放を命ずる」
それだけで終わった。裁きの場は、終わらせるために用意されていた。
ノアは膝をついた。悔しさよりも先に、理解が来た。ここは正しさを測る場所ではなく、消すべき者を消す場所だ。父も兄も顔を伏せている。救いはない。なら、せめて――誰にも噛みつかないように、静かに出ていく。
「承りました」
その一言が、やけに広間に響いた。誰かが満足そうに頷いたのが見えた。ノアはその頷きの意味を、まだ知らない。
*
辺境は、地図の端にあった。
王都で「灰の谷」と呼ばれるそこは、国境のさらに向こう側に迫る山並みの影に埋もれ、ほとんど人の往来もない。与えられたのは小さな小屋と、最低限の食糧と、雪が溶けるまでの薪。あとは――生きるだけだった。
ノアは思ったよりも平気だった。失ったものは多い。けれど、失うことに慣れていたのかもしれない。貴族の次男はいつだって余り物だ。役に立てと言われ、黙って従い、時に誰かの都合の良い器になる。
ここには都合がない。命令もない。責め立てる声もない。静けさだけがあった。
初めての夜、ノアは火の前で手を温めながら、笑ってしまった。何もない、というのは恐ろしいはずなのに、息がしやすい。
――ここで、ひとりで、生き直せる。
そう思った翌朝だった。
小屋の外、雪の上に、小さな影が倒れていた。人ではない。黒い毛並みの耳が、頭の上に伏せている。背中からは細い尻尾が伸び、震えている。体は痩せ、肩は硬直し、唇は青かった。
ノアは迷わなかった。
雪を払い、身を屈め、抱き上げる。軽すぎて胸が痛んだ。布で包み、火のそばへ連れていく。水を温め、少しずつ口に含ませる。指先で頬を叩いて呼びかける。
少女は薄く目を開けた。金色の瞳が、怯えた獣のように揺れた。
「大丈夫だ。ここは……安全だ」
自分の声が、妙に柔らかいことにノアは気づいた。誰かに向けて「大丈夫だ」と言ったのは久しぶりだった。
少女は唸り声を上げ、逃げようとする。けれど体が言うことを聞かず、ただ指先がノアの服を掴んだ。抓るように、縋るように。
「怖くない。……君を追い出したりしない」
そう言うと、少女の耳が微かに動いた。
ノアは毛布をもう一枚かけ、火を強くした。彼女の呼吸が落ち着くまで、何度も同じ言葉を繰り返した。ここにいていい。怖くない。大丈夫だ。
その日から、ノアの辺境は「ひとり」ではなくなった。
*
少女は、言葉をあまり持っていなかった。
最初の数日は、目が合うだけで肩を震わせ、耳を倒し、尻尾を体に巻きつけた。ノアが近づくと呼吸が速くなる。けれど離れると、もっと不安そうにして、小さな手が毛布の端を探した。
ノアはゆっくり距離を詰めた。水と粥を作り、木の実を潰し、体を温め、傷を洗った。何か言葉を強いることはしなかった。大丈夫だ、だけを置いていった。
三日目の夜、彼女は初めてノアの火のそばに自分から近づいた。膝の横に座り、耳を揺らしながら、ちらりと見上げる。
「……のあ」
聞き取れるほど小さな声だった。名前を呼んだのか、ただ音を真似たのか分からない。それでもノアは笑って頷いた。
「そうだ。ノアだ。君は?」
少女は困った顔をした。言葉の代わりに、自分の胸元を指差す。
「……り、ね」
リネ。そう聞こえた。
「リネ、か。綺麗な音だ」
そう言った途端、リネの尻尾が一度だけふわりと動いた。嬉しさを隠そうとして失敗したように見えて、ノアは胸の奥があたたかくなるのを感じた。
その夜から、決まったことがある。
リネは必ず、夜になるとノアの寝台に来た。別の毛布と寝床を用意しても、そちらへ行かない。火が落ちる前にノアの腕の内側へ潜り込み、耳をぴくりと動かして、落ち着く場所を探す。
最初は戸惑った。けれど彼女の体温は低く、手を離せば震えが戻る。ノアは結局、腕を回し、背を撫で、耳の付け根を指でなぞった。
「毎晩、ここがいいのか」
リネは小さく頷いた。金色の瞳が、眠気の底でとろりと溶ける。
「……ここ、いい」
その一言が、辺境の夜を変えた。
ノアは、夜ごとに愛されていると感じた。抱きしめるのは自分なのに、抱きしめられているのは自分のほうだった。誰かがそばにいるだけで、心がほどける。誰かが眠りに落ちるまで自分を必要としてくれる。それだけで、人は救われるのだと知った。
*
季節が巡った。
雪が溶け、谷に水が走り、草が芽を出し、また白が戻る。ノアは薪を割り、畑を耕し、狩りを覚えた。リネは少しずつ言葉を増やし、笑い方を覚え、泣くときはノアの胸に顔を埋めるようになった。
不思議なことに、この土地は静かすぎるほど整っていた。人の住まいがないはずなのに、石畳の欠片が雪の下に眠り、谷の奥には苔むした祠がある。風が乱れず、獣の気配が常に周囲を巡っている。守られている、という感覚。
ノアはそれを「辺境の古い名残だろう」と片づけた。考えすぎは癖になる。ここで暮らすのに必要なのは、明日の薪と今日の食糧と、夜の火だけだ。
夜は相変わらず、リネが来る。
眠る前、必ず耳を撫でる。髪を梳く。額に口づける。彼女が安心するまで、同じ呼吸を重ねる。
「今日も一緒だよね」
そんなふうに確認されることが増えた。ノアが笑って「当然だ」と返すと、リネは尻尾を絡めるようにして、胸の上へ頬を寄せる。
「昨日も一緒だった」
「昨日も、今日も、明日もだ」
その言葉に、リネは目を細めた。泣きそうなほど嬉しい顔をして、それから安心したように眠った。
ノアはその寝顔を見て、思った。王都にいたころは、こんなふうに誰かの幸福を守る日々を、自分が持てるとは思わなかった。
そして――気づけば、家族になっていた。
小さな命が増えたことを、ノアは「いつの間にか」としか語れない。暮らしは連続で、夜は優しく、朝は慌ただしい。泣き声に起こされ、笑い声に救われ、肩に小さな手が乗るだけで、生きている実感が湧く。
リネは子を抱いてよく言った。
「ノアがいるから、ここは生きてる」
ノアは意味を深く考えず、ただ頷いて、二人の背を抱き寄せた。
*
復権の知らせは、ある日突然、雪の切れ間に差し込む光のように訪れた。
谷に馬の蹄の音が響いた。人間の使者だった。王家の紋章を掲げ、厚い外套に身を包んだ男が、ノアの小屋の前で馬を降りる。
「エーベル伯爵家ノア殿に告ぐ。――冤罪が判明した。名誉は回復され、王都への帰還が許可される」
男は淡々と読み上げた。まるで、事務処理の続きのように。
「貴殿は伯爵家に戻り、凍結されていた権利も順次復旧される。……戻る準備を」
戻る。王都。家名。地位。復旧。
言葉だけなら、甘いはずだった。追放される前のノアなら、喉から手が出るほど欲しかったはずのものだ。
けれどノアは、すぐに返事ができなかった。
小屋の奥から、子の泣き声が聞こえた。リネがあやしている。小さな手がノアの服の裾を掴む感触があった。見下ろすと、子が不安そうな目でこちらを見ている。
ノアの胸に、静かな重みが落ちた。
戻る、とは何だ。自分だけが戻るのか。リネと子を連れて行けるのか。王都は受け入れるのか。あの広間で笑っていた者たちは、今度は「辺境で獣人と暮らした男」をどう見る。
何より――自分は、戻りたいのか。
ノアは使者の顔を見た。男は待っている。戻るのが当然だと思っている。
ノアはゆっくり息を吸って、吐いた。火の匂いがした。木の匂いがした。リネの体温の匂いがした。
「……私は、戻りません」
使者の眉が動いた。
「何を言う。これは王命だ。名誉が――」
「名誉は、もう十分です」
ノアは自分の声が驚くほど落ち着いていることに気づいた。怒りも、憎しみもなかった。ただ確信があった。
「私はここで、ようやく生きる場所を得ました。戻れば、また誰かの都合で消されるだけでしょう。……ここには、私の家族がいます」
使者は言葉を失い、やがて苦い顔で書状を畳んだ。
「後悔するぞ」
「しません」
ノアが言い切ると、奥からリネが出てきた。子を抱いたまま、静かにノアの隣へ立つ。金色の瞳が使者を見つめる。使者は一瞬、言葉を詰まらせた。何かを見たような顔をして、けれどそれ以上は言わず、馬に乗って去っていった。
馬の音が消えたあと、ノアはリネの肩に触れた。
「……怖かったか」
リネは首を振った。代わりに、ノアの手を強く握る。
「帰らない?」
「帰らない」
「よかった」
その一言だけで、ノアは胸が詰まった。正しい選択をした、と体が理解した。
夜、リネはいつもより早く寝台へ来た。子も、当然のように真ん中に入ってくる。狭い寝台で三人が呼吸を重ねる。リネはノアの胸に額を寄せ、囁いた。
「今日も……一緒」
「毎日だ」
「毎晩も」
ノアは笑って、耳の付け根を撫でた。愛されている。必要とされている。ここが居場所だ。
その幸福が、最終的な一手になったことを、ノアは知らない。
*
数日後、谷に別の一団が現れた。
人間ではない。猫の耳を立て、尾を揺らし、軽やかな足取りで雪を踏む者たち。獣人だった。彼らは武器を持ちながらも、敵意を見せない。むしろ、礼節が過剰なほど整っていた。
先頭にいた女が、ノアの前で膝を折った。
「番殿。王都へお移りください」
耳慣れない呼称だった。ノアが戸惑うと、女は表情を崩さずに続けた。
「この地は、あなた方を迎えるには寒すぎます。子らのためにも、中央へ」
「中央?」
「我らの王都、ルナアルカです」
リネが静かに頷いた。まるで、最初から決まっていた道を確認するように。
ノアは一瞬だけ迷った。ここで築いた小屋、この谷の静けさ。この場所の火。
けれど、子の手が自分の指を掴む。リネの目が「行こう」と言っている。家族を守るなら、温かい場所へ。安全な場所へ。
ノアは頷いた。
「……分かりました」
その瞬間、獣人たちの肩が、わずかに緩んだ。安堵に似た気配が流れた。ノアはそれを「歓迎」だと思った。
本当は「確定」だった。
*
王都ルナアルカは、光の都市だった。
人間の王都とは違う。石と木と水が調和し、香が風に混ざり、夜でも街が呼吸している。獣人たちの視線が、ノアとリネに集まる。けれどそれは好奇ではなく、礼に近い。頭が下がり、道が開く。
住まいは宮殿に近かった。近すぎる、と感じるほどに。
「なぜ、こんな場所を……」
案内役は微笑んだ。
「中枢に近いほど、安定しますから」
意味が分からず、ノアは曖昧に頷いた。護衛はつかなかった。代わりに、誰もが道を譲り、誰もがノアを見守っている。守られているのではなく、観測されている。そんな感覚が、薄い膜のように肌にまとわりついた。
夜は変わらない。リネが来る。子が来る。毎晩、同じ寝台で、同じ火の匂いを作る。ノアはそれを「どこに行っても変わらないもの」として抱きしめた。
そして、儀礼の日が来た。
大広間。王座。光の柱。左右に並ぶ臣下。獣人たちは整然と立ち、ざわめき一つない。ノアはリネと並べ、と告げられた。並ぶ位置が、王族に近すぎる。
「……リネ、これは」
リネはノアの手を握った。指先が震えている。怖さではなく、覚悟の震えだった。
大扉が開き、玉座の前に一人の男が立った。王だ。銀の毛並みを持つ猫獣人の王が、ノアを見下ろして、静かに言う。
「よく来たな、番よ」
番。
ノアの心臓が跳ねた。呼称が、ここで確定した。
続いて、王の声がリネに向けられる。
「姫よ。お前の帰還を祝う」
姫。
ノアはリネを見た。リネは目を伏せ、耳を倒し、けれど手だけは離さなかった。
「……姫?」
リネは小さく頷いた。唇が震え、言葉がこぼれる。
「言えなかった。……言わないほうが、ノアが……楽だと思った」
「追放された私に、姫が――」
ノアが言いかけたところで、臣下の列が一斉に膝を折った。祈りのような沈黙が広間を満たす。ノアだけが立ったまま、取り残されたように見える。
案内役が、すぐ横で囁いた。
「番殿。どうか、恐れないでください。あなたは、必要とされています」
必要。
言葉が、胸の奥を冷やした。大切、と同じ顔をしていて、別の意味を持つ言葉。
儀礼は滞りなく進んだ。祝福の歌。子らに注がれる礼。王族よりも先に、子らの名が読み上げられる。「次代中枢」と、誰かが言った。
ノアは笑うことしかできなかった。ここで笑わなければ、家族が不安になる。リネの肩が固くなる。子が泣く。
夜、住まいに戻ると、リネは泣かなかった。代わりに、ノアの胸に額を押しつけた。昔、雪の上で倒れていたときのように。
「ノアは、怒る?」
「……怒れない」
「嫌いになった?」
「ならない」
それが本心だった。ノアはリネを愛している。ここまでの毎日毎晩が、嘘だとは思わない。抱きしめた温度も、眠りの呼吸も、子の笑い声も、全部本物だ。
だからこそ、言葉が出る。
「……なぜ、言わなかった」
リネはしばらく黙り、やがて、穏やかな声で言った。
「好きになったのは本当。でも……好きになる前から、ノアは必要だった」
ノアの背筋に、冷たいものが走った。
「必要、って」
リネは目を閉じた。祈るように、告白するように。
「この国は、中心を失うと壊れる。中心は、血だけじゃ安定しない。……番が必要。外の血が必要。境界を越えるものが必要」
ノアは息を呑んだ。
「追放された私が、都合がいい、と」
リネは首を振る。慌てたように。
「都合じゃない。……私は、ノアが優しいことを知ってる。疑わないことも。守ろうとすることも。だから――」
「だから、選ばれた?」
リネの唇が、かすかに震えた。
「うん」
沈黙が落ちた。火の音だけがした。ここは王都なのに、火の音が、辺境の小屋と同じように聞こえた。
ノアは問うべきことを、ひとつだけ選んだ。
「復権の話を断ったのは、私の意志だ。……その瞬間、何が起きた」
リネは、泣きそうな顔で笑った。慰めの笑顔だった。許しを乞う笑顔だった。
「あなたが断った瞬間、契約は完成したの」
ノアは言葉を失った。契約。完成。自分が選んだと信じていたものが、最終確認だったということ。
それでも、胸の上で眠り始めた子の体温がある。リネの手がある。今ここで立ち去れば、彼らはどうなる。
――自分がいないと、壊れる。
その言葉が、優しさの顔で首を絞めた。
「……怖がらないで」
リネが囁く。いつもと同じように、耳の付け根に指が触れる。
「ここは安全。みんな、あなたを大切にしてる」
ノアは、思わず笑ってしまいそうになった。大切。必要。安定。完成。
言葉が全て同じ温度で並んでいるのに、意味が違う。
「壊れたら困るだけ?」
ノアが冗談めかして言うと、リネは一瞬だけ言葉に詰まった。答えが出ないのではなく、答え方を探している顔だった。
その沈黙が、何よりも誠実だった。
ノアは、結局リネを抱きしめた。いつも通りに。毎晩と同じように。胸の奥が痛いのに、それでも手は離せなかった。
愛している。守りたい。家族だ。――それは全部、本当だ。
だから逃げられない。
*
翌朝、ノアは庭に出た。
空は澄んでいた。王都の中心は温かい。辺境の寒さはもうない。子らは笑いながら走り回り、獣人たちが優しく見守る。リネは窓辺で手を振っている。いつもの顔で。
この光景は、幸福そのものだった。
ノアは、自分が今も満ちていることに気づく。怖さはある。違和感もある。それでも、失いたくないものが目の前にある。誰かに奪われたくない。
王都の書庫では、古い文書が整理されていた。
王家の印。境界条約。灰の谷に関する付記。そこに、短い一節が残っている。
――境界安定のため、貴族男子一名を献上する。
――名目は追放。理由は問わない。
――返還は不可。契約の完成は、本人の意思による拒否をもって確定する。
ノアはそれを読まない。読む必要がないほど、今が満ちているからだ。
彼は今日も夜になれば、いつも通り寝台に戻る。リネが来て、子が来て、耳を撫でられ、体温を確かめられ、息が重なる。
毎日毎日毎晩、愛される。
愛されることと、戻れないことが、同じだったとしても。
ノアは、きっと笑う。
「ただいま」と言って。
彼は、最後まで不幸にならなかったと思います。
裏切られたとも、騙されたとも、感じていなかったでしょう。
毎晩そばに誰かがいて、名前を呼ばれ、必要とされ、抱きしめられる生活は、彼にとって確かな幸福でした。
だからこそ、この物語は少しだけ歪んでいます。
守られていることと、管理されていること。
愛されていることと、固定されていること。
選んだつもりでいたことと、選ばされていたこと。
その境界は、とても薄く、そしてとても優しい形をしています。
彼が拒まなかったのは、弱さではありません。
彼は最初から、誰かを守ることでしか自分を保てない人間だった。
だからその役割を与えられたとき、疑うより先に受け入れてしまったのです。
恐ろしいのは、誰も悪意を持っていないことです。
少女も、王も、国も、ただ「必要な形」を選んだだけでした。
そして彼もまた、「愛される形」を選んだだけでした。
幸福のまま終わる物語ほど、残酷なものはありません。
それが檻であっても、檻だと感じない限り、人はそこを居場所と呼びます。
彼にとっては、最後までそれが“家族”でした。
読んだあなたにだけ、ほんの少し、違う景色が見えたなら――
この物語は、きっと正しく終わっています。




