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わかれ道

「そうか。スタンピードを、一人で…………」

「はい。僕には、それだけの力があります。そして、冒険者ギルドとの予定が合い次第、ランクを上げてもらえるそうです」

「そこで、Ⅽランクになっちゃいそう?」


 その時、母上は悲しそうな顔をした。そして、俺は改めて考える。

 王様の子供とはいえ、自分の息子を死の危険に晒す、自分の手に届かないところに行ってしまうのは、怖いのではないか、と。


「はい。母上。僕は、規模が小さかったとはいえ、一人でスタンピードに関わる魔物を全滅させたんです」

「そう。じゃあ、それに見合うランクを着けてもらいなさい」

「ありがとうございます!!」


 母上も、先生から話を聞き、覚悟はしていたらしい。それでも、やはり歯切りが悪いのは…………、


「そして、今日を貴方の命日にしなさい」


 …………、え?いやいや、え?親子愛って素晴らしい、って感じじゃないの?え?

 突然の殺人予告?うっそだろ?


「最近、第4王子様と第5王子様のご様子がおかしい。多分、何かを企んでるに違いない。だから、スナップドラゴンは、ここで死ぬ。そして、これからは新たな名を先生から授かりなさい」

「え、それって……………」

「いいから。そして、貴方は絶対に、スナップドラゴンとしての人生をなかったことにして、新しい人生を歩みなさい。貴方は、いつか、こうなると思ってた。小さいころから、他の王子様とはちがって、冒険に興味があって。それに、魔法の才能もあった。どんどん強くなっていく貴方は、私の自慢の息子だった。だけど、そんな貴方は、今日で終わり」

「そん、な…………」


 そんな、そんな。自分の中の、もう一人の自分が、泣いている。なんで、なんでと。そりゃあそうなるだろう。10歳のガキが急に体を乗っ取られて、そのまま体を操られ、母親と引きはがされるのだから。

 まあ、俺の為には仕方がないけど。


「あ、そうね。貴方は、記憶の杖を持っていたわね?あれは、記憶を収納できる機能もあるの。それで、記憶を消そうじゃいない」


 その場合、俺の中の元来のスナップドラゴンの人格はどうなるのだろうか?


 そして、母上はそばにいた自分専用のメイドさんに俺の部屋にある木の棒を丁寧に持って来いと頼む。


「母上、いままで、ありがとうございました…………」

「貴方は、11歳の誕生日の日から、別人のように変わったわね?」


 その言葉に、ヒヤッとする。


 ばれているのか?いや、そんなはずはない。だとしたら、何故?ただ単にそういう話題?

 そんな、ネガティブ思考が、頭の中をかき混ぜる。


 すると、食堂の扉が急に開く。その音に、少しの冷静さを取り戻す。


 いけないけない、今、取り乱したらバレる。確実に。


「持ってまいりました」

「あら、早かったわね、ご苦労様」


 そういい、その、俺の記憶を閉じ込めるための木の棒を見る。

 見ていると、母上が目をつぶり、魔力を木の棒の中に入れているのが分かる。


「どうしたのですか?」

「ああ、そうね。貴方の記憶を消すために、魔力を注いでるのよ。もうできたわ。これを、握ってみて」


 そういわれ、握らなくても良いはずなのに、母上の言葉には謎の強制力があり、木の棒を、握る。




「今、貴方の11歳の誕生日前日までの記憶が、段々と無くなっていくわ」

「そ、そうなんですね。では、私はもう行きますね?」

「ええ。行ってらっしゃい。でも、その前に、私の話を、少しだけ聞いてほしいの」

「はい。分かりました」

「貴方は、これから悲しんだり、喜んだり、時には死にかけるときもあるでしょう。特に冒険者になれば、ね。そして、その時はどんなに最善の選択肢だと思ってそれを選んでも、選択をすれば後悔は絶対に生まれる。だけど、強く、心を強く持てば、後悔が減るかもしれない。喜んでる時は、高揚感が増し、悲しんでいる時にはその悲しみも増えても、後悔は残らない。死にかけの時でも、生き残って、笑い話に出来るかもしれない。だから、最後に、一つだけ言わせて。貴方の選択に、後悔をしないで」


 今、出ていくという選択をするのにも、後悔は絶対生まれる、って言いたいのか。

 まあ、当たり前っちゃ当たり前だろうな。人間は、選ばなかった無限の可能性を考えて、みたいな感じになることも多いから、それを防ぐためかな?


「ありがとうございます。では、行ってまいります」

「いってらっしゃい。今まで、ありがとうね」

「はい。僕こそです」

「じゃあ、表門から出るとバレるから、私の部屋の地下通路から出なさい」


 母上はそう言うと、従者に僕を案内させる。


「なぜ、母上が直接案内をしてくれないのですか?」

「貴方は、今日で行方不明になるのですから、その直前に私が居るのは変でしょう?」

「なるほど、たしかにそうですね。つかぬ事をお聞きしました」

「最後の、会話なんだから。そんな硬くならないで?」

「は、はい。わかり、ました…………」


 目の前に居る、この女性は、確か母親だった気がする。記憶が、曖昧だ。


「記憶が無くなっていってるのね。じゃあ、本当に、さようなら」


 母親?はそう言うと、手を振っている。そして、僕も手を振り返す。

 すると、母親は少し寂しそうな顔をしていた気がした。

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