旅の条件
「先生、俺、旅してみたいです」
俺、ずっと前から考えてたんだ。旅してみたいなって。
だって、異世界の醍醐味って、旅とかだろ?大体。
「そうか…………。でもなぁ…………、君のお母様が許さないだろうし、君は王子なのだから、利用価値も高く、誘拐をしようと企む輩もいるかもしれないぞ?」
「で、でも!!旅してみたいんです!!」
もし、王族に生まれていなかったら、俺は自由に旅出来ていたのに!!
「でもなあ…………。うーむ…………」
あ、これはもう一押しで行ける奴だ!!
「俺の実力がどこまで通じるのか、試してみたいんです!!」
「そうか、そうか。確かに、私もお前くらいの年の頃はそんな事思ってたかもしれないな!じゃあ、今日中に君の母上に相談してみるよ!!じゃあ、今日はもう解散でいいかな?」
「はい!!ありがとうございます!!」
ちょれー。だけど今回はそのちょろさに助けられたぜ。
なんとしても異世界で旅したいからな。
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「あ、そうだ。スナップドラゴン、後で、部屋に行くからね。別に、何もしなくてもいいから、私が行くという事だけ覚えておいて頂戴」
夕食を食べ終わった後に、そういわれる。
多分、冒険者として旅をしたい、という事についてだろう。
この前、冒険者登録をして、偽名でギルドカードを作った時だって、渋ってたのにこんなの認められるはずないだろうな。
でも、もしかしたら、何かの間違えでワンチャン行けるかもしれない。それに賭けるしかない、か。
「分かりました。お待ちしております」
そういい、食堂を後にするのだった。
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「入るわよ?」
ようやくその声が聞こえたので、返事をしてドアを開く。
「ようこそ」
そして、母上を部屋に入れる。
「やっぱり、貴方だけには貧乏性がうつったかしら?」
俺の部屋を見渡した母上が言う。母上からすると殺風景らしいが、俺から言わせてみれば超贅沢な部屋にしか見えないんだけどな。まあ、前世ではキッチンと部屋が合体してるみたいなボロ屋だったから、それに比べれば、とんでもなく豪華なのである。
まあ、一般人と小国とはいえ、王族の生活を比べちゃいけないんだろうけど。
「いえいえ、僕にはとても贅沢すぎる部屋ですよ」
「あら、そう?」
「ええ。とても」
そして、そのまま互いに何も話さずに過ぎていく時間の中で、ついに母上が口を開く。
「冒険者として旅をするっていう話なんだけど、条件があるの」
お?真っ向から否定しないってことは、今の母上は機嫌がいいな?
「なんですか?」
「それは、この前作る事を許可したギルドカードのランクを、Cにすること」
「母上、それは…………!!」
「ええ。難しいっていう事は百も承知。だけど、そのくらい強くなければ、許せない。」
確かに、Cランクともなれば、立派な中堅冒険者だ。ここから先のランクからは、死亡率がぐっと下がる…………、らしい。
だけど、いや。だから、Cランクっていうのは意外と強いのだ。
それこそ、Cランクの人を誘拐しようとしたり、暗殺しようとしたりするとギルドが直接重い罰を与えるのだ。
そして、冒険者ギルドにおけるCランクの人数は1万人前後。
冒険者ギルドに登録されている人数が100万人を余裕で越している事を考えると、その凄さが分かるだろう。
「Bランクからは格が違うんでしょ?だから、Cランクになれたら、旅するのを許してあげるわ」
「でも、それはすごく難しくて、」
「でも!そのくらい強くなくては、この国の未来を命の危険に晒せないの」
「それは…………」
「分かって頂戴。もし、従わないのなら、それでもいいわ。ただ、帰って来た時に貴方はいなかったことになる。それは、私も嫌だ。だから、従ってちょうだい。いいわね?」
「は、い」
確かに、自分の子供が自分の手が届かないところで死ぬかもしれない、のか。
それを考えると、母上の言ってることも分からなくはない。
先生がいくら強くても、心配な物は心配なのだ。
そして、Cランクになるためには、大体10年は要すると言われている。
G、F、E、D、と続いてのC。ランクを一つ上げるのでさえ、依頼を完璧に10個こなさなければならないのだ。それも、自分のランクから±1までのランク指定の依頼だけ。いや、受ける分には下限は無いのだが、それはランクアップへの評価には入らない。
だから、ランクを上げれば上げるほど、ランクが上がりずらくなる、らしい。
逆に、自分の実力に見合っているランクまでは、簡単に到達できるという超頭良いシステムなのだ。




