始まり
「ここまででいいですか?」
「いいわよ、ありがとねえ」
俺から荷物を奪い、すたすたと去っていくおばあさん。どうやら、何ももらえないらしい。
はあ。まさか、駅の階段を上り切るまでの間だけ持つつもりだった荷物を家の前まで運ばされるだなんて思いもしなかったぜ。俺があのクソ重いにもつを持って階段を上り終えた後、明らかに俺の疲れた顔を見てから、何も言わずそのまますたすた歩きだしたときはびびった。
「はあ…………。今日は本当に踏んだり蹴ったりだな」
特に、今日は。折角の有給だってのに、まさか2時間も婆さんに付き合わされるとは。まあ、特にすることもなかったしいっか。最近運動不足だったし、少しはいい刺激になったのではないだろうか。
そう思いなおして、大通りに出る。そして、横断歩道が赤の状態になって、暇になる。
ふと気になり、その通りに面している公園を見やる。こんな所に公園なんて作ったら危ないんじゃないか?そう思いながらも、何もできないので何も言わない。そして、ふと気になり公園内にいる子供たちの遊びを見る。どうやら、野球をしているらしい。危ないな。
お、打ったぞ!飛んだ、飛んだ!!追いかける外野手!!おっと、飛びすぎじゃね?
そう思った矢先、公園を出る外野手の子供と野球ボール。そのまま勢いは落ちずに前に出続ける。そして、その先は大通りの道路。さらに、トラック。
「危ない!!」
気づいた時には、痛みが走っていた。恐らく、跳ねられたのだろう。はあ。本当に、なんて日だ。踏んだり蹴ったりすぎるだろ…………。死ぬのかな?俺。こんな若いのに?まあ、もう仕方がないか。てか、トラックの運転手も、きちんとブレーキ掛けろや…………。おか、しい、だ、ろ…………。
あれ?生きてる。生きてる!!!!救急車でも呼んでくれたのかな!!生きてる!!
なんか、不気味な部屋だけど、まあいいや。多分夢だろう。夢?走馬灯か?いや、は?
そして、見覚えがあるか、周りを見渡してみる。しかし、見たこともないところだった。
辺り一面、不気味なほどに薄暗く、その明るさに合わせたような、灰色の壁紙。
恐らく立方体のような構造をしている部屋だ。しかし、その大きさは、以前見た東京ドームを軽く超えるような広さだった。
そして、特筆すべきが、その部屋の大きさに見合ったサイズのモニターだ。現実世界では、あんなデカいテレビを目にすることもなかっただろう。
さらに、もう一つ驚くべき点が。人が滅茶苦茶いるのだ。ぱっと見、100人は軽く超えてる。滅茶苦茶広い部屋なのに、大量の人が居ると分かったのだ。もしかすると1万人とかもいるかもしれない。俺と同じように、辺りを見渡している奴らがいる。ただ、喋り声や歩く音と言った、音がしない。
そう考えながら、周りを見渡していると、突如としてモニターが付く。
そこには、顔を隠すほど大きい、狐の面をつけ、頭皮が見えないほど大きい、パーカーのフードをかぶり、皮膚を見せないためか、スーツのズボンは当たり前で、茶色の革靴も履いていて、挙句の果てには手を隠すために白の手袋まで着けている。
悪趣味だな。
うおっ。ってか、なんかデスゲームみたいだな。何故か謎の部屋に集められるところとかも。
「皆さん、おはようございます。突然ですが、皆さんは死にました」
は?なにいってんだこいつ。
「信じられないでしょうが、本当です。そして、あなたたちの『肉体』は死亡しました。しかし、その
肉体に宿る魂は、生きています。今回は、あなた方の魂に刻まれた肉体を再現いたしました。なので違和感はないはずです。そして、今回の本題です」
まるで、死ぬことがよくある事のように言うが、というか、まじでどういうことだよ。状況説明できてなさすぎだろ!せめてヒント出せよ!
まあ、言いたいことは分かる。恐らく、俺は死んだけど、魂は生きていると。まあ、転生系でありがちな設定だな。よく分からないけど、本当に転生したなら、面白いかもしれないな。
「今回皆さんに一時的に生き返ってもらったのは、デスゲームに参加していただく為です」
はあ?運よく死を免れたと思ったらすぐ殺されるって。リスキルじゃねえか。