第21話 抑止と大喧嘩
謁見の間から黒く長い髪が特徴の美女が出て、このままパーティー本部に戻ろうと歩みだす。
しかしラピが美女に声かける。
「おーい、アルカナおばさーん!」
ラピは手を振りながら呼びかけるが、アルカナと呼ばれた美女は呆れながら言う。
「ラピ、ココでは伯母様と呼びなさいって、いつも言っているでしょう?」
「アッ! ご、ごめんなさい伯母様……」
アルカナの注意にラピは慌てて訂正する。
それを聞いたアルカナはラピの頭を優しくなでて言う。
「フフッ、そこまで緊張しなくても大丈夫です。ですがグレアスという青年がジャック・オー・ランタンの戦いで亡くなったと聞きましたが……」
アルカナはグレアスの事に申し訳なさそうに聞く。
それを聞いたラピは大粒の涙を流して呻く。
「ウゥ……私が早くジャック・オー・ランタンの自爆を止めれば、早くプラドに追放を止めるように言っていれば……!」
「そうですか……好きに泣いてもかまいません。一人で無理しないでください」
「ウワァァァァン!」
アルカナの言葉にラピは大粒の涙を流して泣き叫び、アルカナは悲痛な泣き声を包み込むように抱きかかえる。
アルカナは泣き叫ぶラピを抱きかかえながら考える。
(しかしグレアスがジャック・オー・ランタンの自爆によって亡くなってしまうとは……覇王の剣が衰退していくのは時間の問題ですね)
アルカナは考えながらラピを抱きかかえる。
数分くらい経ってラピが泣くのをやめ、目じりの近くにある涙を拭きとってお礼を言う。
「伯母様ありがとう。ちょっとだけ心が晴れてきたよ」
「そうですか」
ラピの言葉にアルカナは甥っ子が心の枷が軽くなった事に喜ぶ。
ラピはお礼を言ってプラド達に戻ろうとするが、アルカナがラピを呼び止めて言う。
「待ってください。少し伝えたいことがあります」
「エッ?」
アルカナの言葉にラピは首を傾げて言う。
ラピは伝えたいことがあるなんて珍しいと思いながら、アルカナが言う伝えたいことを聞く。
アルカナの伝えたいことを聞いたラピは驚愕しながら叫ぶ。
「エッ!? でもそれは……」
「もちろん私の妄言かもしれません。ですが先ほど伝えたことを努々忘れないでください」
「ウ、ウン……」
アルカナの言葉にラピは少し驚きつつも頷く。
ラピがアルカナの下から立ち去り、アルカナはパーティー本部に向かいながら考える。
(まだ確信はありませんがグレアス・カルマが生きていれば、欲人発生の黒幕を見つけることが出来るでしょう。ですが今は来たる時が来るまで準備しておきましょう)
アルカナはそう思いながらパーティー本部に向かって歩む。
ラピがアルカナと話している時に、プラド達は王都一の治療院に行くための馬車に向かっている。
イーラに背負われているプラドは骨折の痛みに苦しみつつ、情けないところを見せない様に気を付けていると一組の男女がプラド達の前を阻まる。
男の方は白い短髪、鋭い蒼の瞳、体格は細マッチョで、女の容姿は男と似ていた。
プラドは一組の男女を見て、露骨に嫌気を出しながら言う。
「ゲッ、何でガルム兄妹がいるんだよ……」
プラドは露骨に嫌がりながら言い、それを聞いたガルム兄妹の兄・ゲリは今のプラドを見て鼻で笑いながら言う。
「ハッ! 頭と心でさえ病人なのに、ついに背負われるほど弱ってきたのか?」
「えぇ、女性に背負われるなんて情けないわね」
ゲリの挑発交じりの言葉に、妹のフレキが続くように言う。
それを聞いた額に青筋を立てて叫ぶ。
「テメェ等、調子に乗るのも――イテテテ!?」
プラドはイーラから降りてガルム兄妹を殴りかかろうとするが、骨折の痛みで動きが固まってしまう。
それを見たイーラは心配しながら言う。
「プラド君、無茶しちゃだめだよ!」
イーラはそう叫ぶと、アンヴィとアヴァリーシアは武器を構えて言う。
「貴方達、前から私たちに対する礼儀の無さに苛立っていたのよ」
「そうじゃ、こやつらの態度は前々から気に入らんのじゃ」
二人はそう言うとアヴァリーシアは装備している日本刀・斬月を抜刀し、アンヴィは杖を構えて詠唱する。
『真理よ。今一度、地獄の業火から生まれた弾丸を放て! ヘルフレイムショット!』
「速技・地蹴り斬!」
アンヴィは詠唱し終えると杖から業火の弾丸を放ち、アヴァリーシアは大地を蹴ってガルム兄妹を切り捨てようとする。
しかしゲリは腰に携えている神話から存在する武器・選定武器「干将莫邪」でアヴァリーシアの斬月を受け止め、フレキは背中に背負っている選定武器「雷帝之鎚」を振り下ろして業火の弾丸を消す。
アヴァリーシアは斬月に力を込めていくが、ゲリが持つスキル「強力者」を使って腕力と脚力を上げて受け止める。
アンヴィは魔法を打ち消されたことに対して舌打ちをし、無詠唱で業火・激流・大嵐・大地・万雷の弾幕を放つ。
しかしフレキは様々な属性の弾幕を見ても驚かず、雷帝之鎚の柄を強く握って叫ぶ。
「神鎚・風天破壊!」
フレキはそう叫びながら技を放ち、鎚に纏う嵐で弾幕を打ち消していく。
イーラも二人に助太刀はしたいが、けが人であるプラドを放り込む訳に行かない。
プラドはガルム兄妹が持つ選定武器を見て悔しがって呟く。
「クソッ! 俺もあれさえあれば……」
プラドはそう呟きながら悔しがる。
アヴァリーシアは一旦数歩下がって、斬月を握り直して叫ぶ。
「連技・霧雨!」
「神剣・四風神斬撃!」
アヴァリーシアはそう叫びながら技を放つが、ゲリも対抗するように叫んで技を放つ。
霧雨のような高速の突きと四方に来る風の斬撃がぶつかり合い、火花と突風が発生する。
技が打ち消され、アヴァリーシアはもう一度技を放とうする。
その時にロックスと来たばかりのラピが、アヴァリーシアとアンヴィとガルム兄妹の間に入って止める。
「ストッープ! そろそろココで止めていいだろ!?」
「そうだよ、このままだと大惨事になるよ!」
ロックスとラピの言葉にガルム兄妹は選定武器を下ろして言う。
「それもそうだな。フレキ、今日はここまでにするぞ」
「分かったわ、兄さま」
ゲリの言葉にフレキは頷いてこの場から立ち去る。
ロックスとラピは喧嘩を止めたことにホッとするが、逆にアヴァリーシアとアンヴィは苦々しさを残しつつ、治療院に行くための馬車に乗る。
ちなみにゲリが兄で、フレキが妹です。
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