第2話 不意打ち
追放の一軒から一晩経ち、グレアス達は各自の武器を構えながら目的地に向かっている。
グレアス達が受けている依頼・【強欲に満ちた南瓜宴】は、ギガントマキア荒野に二十体ほどのゴブリンと、ジャック・オー・ランタンが一体討伐する内容だ。
作戦としてはプラド・イーラス・アンヴィ・アヴァリーシアがジャック・オー・ランタンを、グレアス・ラピ・ロックス・アルブルはゴブリンを殲滅したのちにプラド達をサポートする。
一同は少し緊張する中、グレアスは昨日に感じた違和感について考えている。
(一瞬だけど、なぜかプラドが怪しく笑っていたし、背中がむず痒いし、何か嫌な予感がするな……)
「グレアス君、どうかしたの?」
グレアスが考えている中、ラピは首を傾げながら声をかける。
それに気づいたグレアスは少し頭を掻きながら言う。
「あぁ、ちょっと考え事を……」
「お前ら、そろそろ見えるころだぞ」
プラドはグレアスの言葉を遮るように言い、他の皆は一斉に黙って立ち止まる。
グレアス達から少し離れた広場には大量の怪物がおり、薄暗い緑の肌をし、赤い瞳をぎょろりと動かしながら辺りを見渡す怪物・ゴブリンで、歪な笑みを浮かぶカボチャから鎧のような四肢や頭が生え、カボチャの中から炎を灯し続ける怪物・ジャック・オー・ランタンがいる。
それを見た一同は無言でうなずくと、ラピが魔物の大群に向かって行く。
それを見たグレアスとアルブルはラピの後をついて行き、後衛の者は道が出来るまで待機する。
ラピは大量にいるゴブリンを双剣・陰陽刃で切り捨て、アルブルは自分の身程ある大盾で攻撃をガードし、メイスでゴブリンの頭を叩き潰す。
グレアスも手に持っている機械風の杖を握り、ゴブリン達に向けて詠唱する。
『力の根源よ。今一度、敵を倒す火の矢を放て! ファイヤー・アロー!』
詠唱し終えると、機械風の杖についてある水晶が光り出し、そこから大量の火の矢を放つ。
ゴブリン達は火の矢を貫かれて燃え、倒されたゴブリンが光の玉になり、腰についているマジックポーチに吸収される。
ジャック・オー・ランタンまでの道ができると、プラド達はジャック・オー・ランタンに向かいながら技を放つ。
「くらえ、激流剣!」
「水龍八海!」
「絶技・大蛇斬り!」
『心理よ。今一度、生に縛られた愚か者を裁く激流を放て! ジャッジメント・ハイドロポンプ!』
プラドはジャック・オー・ランタンの両足を、イーラスは胴体を、アヴァリーシアは両腕を攻撃し、アンヴィは詠唱して裁きの激流を放つ。
ジャック・オー・ランタンは裁きの激流をもろ受け、カボチャの体がひび割れて叫ぶ。
「グォォォォォォ!?」
ジャック・オー・ランタンは叫びながら、近くにいるゴブリンをアンヴィに向けて投げ飛ばす。
それを見たロックスは弓を構えて叫ぶ。
「させねぇよ! 爆裂矢!」
そう叫びながら技を放ち、矢がゴブリンに当たると花火のように爆発する。
ゴブリンを一通り倒したグレアスは杖をジャック・オー・ランタンに向けて詠唱する。
『力の根源よ。今一度、動きを封じる鎖を放て! チェーン・バインド!』
詠唱し終えると、ジャック・オー・ランタンの足元に魔法の鎖が放たれ、動けぬように四肢を拘束する。
ジャック・オー・ランタンは呻き声を上げながら鎖を引きちぎろうとする。
「グォォォォォォ!」
ジャック・オー・ランタンは鎖を引きちぎろうと叫ぶが、中々千切れずに苦戦する。
プラドはジャック・オー・ランタンの前に立ち、彼が持つ特殊系武器・ミソロジーバスターを高々と構えて叫ぶ。
「これで止めだ! 神剣・海神斬撃!」
プラドはそう叫ぶとミソロジーバスターの刃に海流を纏わせ、それを一気に振り下ろす。
海神の名を冠した技にジャック・オー・ランタンはもろに受け、身体がボロボロになった。
ジャック・オー・ランタンは呻き声を上げる。
「グゥゥゥ……」
すると手のひらから火の玉を灯し、それをカボチャの中に移すと赤く光り出していく。
それを見たアルブルは慌てて叫ぶ。
「マズイ、このままでは全滅になってしまうぞ!」
「クソッ! アンヴィ、急いでテレポートを発動するんだ!」
「分かっておる!」
アルブルの言葉にプラドはアンヴィに命令し、当の本人は答えながら詠唱する。
『力の根源よ。今一度、安全地帯に送る奇跡を起こせ! テレポート!』
「待って、グレアスが――」
詠唱し終えると、グレアスを除いた一同の足元から青白い光に包まれる。
だがラピはグレアスにテレポートの効果がかかって無い事を言おうとする。
しかし最後まで言う前に安全地帯に転移され、グレアスはどうして自分だけ転移されていない事に驚く。
「な、何で……!?」
グレアスはどうしてこうなったか考えるが、ジャック・オー・ランタンの肉体は徐々にひび割れて行き、赤黒い炎が漏れ出ている。
グレアスはいったん切り替え、自爆に耐えるために杖を握って詠唱する。
『力の根源よ。今一度、己を守る障壁を生みだせ! マジックウォール!』
詠唱し終えると、魔力で生み出された障壁で自身を守る。
それと同時にジャック・オー・ランタンは自爆する。
魔力の爆発と熱風が辺りを包み、グレアスも魔力の障壁で耐えていくが、爆発に耐え切れずに吹き飛ばされて叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
グレアスはそう叫びながらギガントマキア荒野の谷に深々と落ちていった。
ジャック・オー・ランタンの自爆を見たラピは悲痛な声で泣き叫ぶ。
「イヤァァァァ! グレアス!」
「クソッ! アイツがまだあそこにいるなんて」
「何と言う事だ……」
ラピの叫び声にロックスとアルブルは、グレアスを救えなかったことを悔しそうにする。
しかし三人を除いたプラド達は三人に聞こえぬように、別の場所で話していた。
「アンヴィ、よくやった。これでうちのごく潰しが消えて清々したぜ」
「それ程でもないぞ」
「だけど大丈夫なの? 雑魚を多く倒して、依頼が始まる前にバフをかけてくれたけど?」
プラドの言葉にアンヴィは喜ぶが、イーラスはグレアスがいなくなったことを心配する。
ラピとロックスとアルブル以外の一同は、最初っから約束を守るつもりはなかったのだ。
イーラスの心配にアヴァリーシアは鼻で笑いながら言う。
「大丈夫よ。それにバフなんて少しぐらい強化するだけでしょ?」
「それそうだね」
「アァ、この事は俺達だけ秘密だからな?」
アヴァリーシアの言葉にイーラスは嘲笑いながら頷き、プラドもアヴァリーシアの言葉に賛同しながら釘をさす。
この場にいる者たちは無言でうなずき、グレアスが死んだ事をギルドに伝えるために向かう。
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