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5.美少女失踪事件

 九月になり、不可解な出来事続きの夏休みが終わった。

 

 ナギサは小学校二年生として、俺たちと同じ学校に通うようになった。

 

 勉強に関しては、最初は少し苦戦していた様子だったものの、ひらがなやカタカナ、簡単な漢字の読み書きは出来るし、足し算引き算も理解出来ているらしい。


「コウキお兄ちゃん! 見て見て! 作文で花丸をもらえたの!」


 帰り道、ナギサは国語のノートを広げて見せてきた。

 作文のテーマは好きな食べ物で、一番好きなのは『お母さんが作ったアサリの釜飯』だと書いてあった。


「そうやなぁ! 母ちゃんの作る釜飯は、出汁が効いてるし、あれなら人参が入ってても、食べられるからなぁ!」


 頭を撫でて褒めてやると、ナギサは嬉しそうに笑っていた。



 ある日の休日。

 この日、俺たちはいつもの仲間で、公園に集まっていた。

 

 肝試し以来、ナギサはアキラに仲間として認められた。

 言い出しっぺの自分が、ビビって逃げてしまったんやから、認めんわけには行かんかったんやろう。


 アキラと一緒に逃げ出した、サトル、ツヨシ、ケン⋯⋯

 本来なら、こういう薄情な奴らと友だちを続けるのは、こっちから願い下げや。

 けれども、この狭い村では、そうもいかん。


 俺らもいつかは漁師になって、一生ここで、コイツらと生きていくんやから。

 

 俺たちはあの日、人間の死体を見たけど、そのことは親にも友だちにも、誰にも話さなかった。

 

 神社で肝試しをしていたなんて、親には口が裂けても言えんし、万が一あれがヤバいもんやったとして、誰かを巻き込んで、話を大きくしたくなかったから。


「ほな、鬼ごっこしよか〜ジャンケン、ポン!」


 こちらの気も知らないアキラの仕切りで、最初の鬼を決める。


「⋯⋯⋯⋯なんや、俺か」


 ジャンケンに負けた俺が鬼になった。


「うぇ〜い! 逃げろぉ〜!」


 アキラ、サトル、ツヨシ、ケンは蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。


「ナギサちゃんも逃げな」


 その姿に呆気に取られたのか、ボケっとしているナギサに、マモルが声をかける。 


「あっ、そうか」


 ナギサはマモルに手を引かれて逃げ出した。


「1、2、3、4⋯⋯⋯⋯」


 マモルの父ちゃんのあんな姿を見たあとやから、マモルの顔をなかなか直視出来へんけど、マモル本人には特に変わった様子はない。


 マモルの父ちゃんがつぶやいていた、ミサキって言うのはマモルの母ちゃんの名前や。

 マモルを家に残して、一人で墓参りしとったんか⋯⋯?


「71、72⋯⋯⋯⋯」


「おい! コウキ! お前、なんぼまで数える気やねん! はよ、追いかけて来いや!」


 アキラに怒鳴られ、我に返る。


「すまん! 今から行くで!」


 近くで俺をおちょくっていたケンに向かって、全速力で近づき、あっさり捕まえることができた。


「よっしゃー! ケンが鬼〜!」


「おうおう。やったるで!」


 ケンは、マモルのおかげで遠くに逃げられたナギサに向かって、一直線に走って行った。


 今までは最年少のマモルが真っ先に狙われるのが慣例だったところに、更に年下のナギサが加わったことで、ターゲットが切り替わったらしい。


 それからも、ナギサは集中的に狙われた。

 いつまでも誰のことも捕まえられないナギサを気遣って、しばらくしたら、俺かマモルが捕まってやって、今度は俺らが残りの四人の誰かを捕まえる。

 

 マモルは気弱やけど、心優しい男でもあるからな。

 

「コウキお兄ちゃ〜ん! マモルくん〜! 待ってよ〜!」


 ナギサは息を切らしながら、一生懸命、俺らを追いかけてくる。


 なんや、犬みたいで可愛いなぁ。


「ナギサ〜! もっとはよ走らんと、追いつけへんで〜! 足で地面を蹴るんや!」


 助言しながらも、程よいところで捕まってやる。


「やったー! 次はコウキお兄ちゃんが鬼!」


 俺を捕まえることができて嬉しそうな、ナギサの笑顔が眩しい。

 ほな、今度はサトルを捕まえようか。


 獲物を探すために辺りを見回すと、珍しい人物が居るのに気付いた。


「ほら、この子や。女の子やのに、男とばっかり遊んどる変な子は」


 こちらに向かって歩いて来たのは、同い年のアオイとカオリだ。


「兄貴の友だちと遊んでるとか、キモチワル!」


「たぶん、あれやろ。男好き」


 アオイとカオリは意地悪な顔をしながら、ナギサにいちゃもんをつける。

 ナギサは怯えたように、俺の背中に隠れた。 


「おい、お前ら、いきなりなんやねん。休みの日に誰が誰と遊ぼうが、お前らに関係ないやろ」


「うわ〜! シスコンや〜!」


「ほんまの兄妹じゃないから、余計にキショいわ」


 俺の発言は逆効果だったらしい。

 アオイとカオリは、余計に嫌そうな顔をして言い返して来た。


 こいつらやって、元々は俺らと一緒に遊んでたこともあったのに。


「はぁ? お前らは、ウチのナギサに何の文句があんねん。コイツは女やけど、男気があるんや。ほれ、帰った帰った」


 騒ぎを聞きつけたアキラが、リーダーらしくナギサをかばった。


「私らは、そんなんじゃ女社会でやってけへんって、忠告したってんねん」


「かわいこぶって、男に守ってもらって、お姫様かいな」


 不安そうにするナギサに、詰め寄るアオイとカオリ。


 アキラを以てしても、黙らんとは、恐ろしい女どもや。

 コイツらは何をそんなに怒ってるんやろうか。 

 女社会の同調圧力は、男には理解出来へん上に、恐ろしいと聞くからなぁ。


 言い合いがヒートアップして来た時。

 一人の美少女がこちらに向かって歩いてきた。


「あらあら、みんなして怖い顔して、大きな声で⋯⋯ケンカしてんの?」

 

 優しい声で話しかけてくれたのは、アキラの三歳年上の姉ちゃんだった。


「あぁ! ナナミちゃん! 聞いてよ! この子がな〜!」


 アオイとカオリは、興奮した様子で、事の経緯をナナミちゃんに説明した。 


「そうやったんやね。けど、女の子やからとか、男の子やからとか関係なく、みんなで仲良くしたらええんやで?」


 ナナミちゃんは、女神みたいに微笑みながら、アオイとカオリの頭を撫でる。


 二人は少し不満そうに、何かをぶつくさ言いながらも、ナナミちゃんのあまりにも眩しい笑顔に、照れたように俯いている。


「アオイちゃんとカオリちゃんも、本当はコウキくんたちに、仲間に入れて欲しかったんとちゃうの?」


 ナナミちゃんは、いたずらっぽい表情をしたあと、ウィンクをした。

 

「はぁ? 別にそんなんちゃうし!」


「ナナミちゃんの意地悪!」


 アオイとカオリは、顔を真っ赤にして叫びながら、逃げていった。


 

 なんや。

 俺らと遊びたいだけなんやったら、ナギサに嫌味言って回りくどいことせんと、普通に遊ぼうって言えばええのに。


「ナナミちゃん、ありがとう。助かったわ」


 さすがは器量良し、気立て良しのナナミちゃん。

 この世に聖女や天女なんてもんが居たとしたら、こんな姿をしとるんやろうな。


「いえいえ、たまたま通りかかっただけやから。それに、ナギサちゃんの気持ち、ちょっと分かるから」

 

 ナナミちゃんは、少し寂しそうに目を伏せながらナギサの頭を撫でた。

 どうやら美人には美人の苦労があるらしい。


「ありがとうございます。ナナミちゃん」


 ナギサがお礼を言うと、ナナミちゃんはナギサの頬を撫でた。



「姉ちゃんはこの冬、そこの神社で巫女さんをやるねんで!」


 アキラは自分の事のように誇らしげにしている。


「へぇ⋯⋯あの神社に巫女さんとかおったんやなぁ」


 普段は誰が管理しとるかも、よく分からんくらいやのに。


 それで、ナナミちゃんは、こんな誰も来んような所を通りかかったと。


「ナナミちゃんの巫女さん姿⋯⋯可愛いやろうなぁ!」


 鼻の下を伸ばしているのはサトルだ。

 

「確かに! 男たちが殺到しそうやな!」


「俺も絶対見に行く!」


 ツヨシとケンも興奮状態に陥っている。


 ナナミちゃんは、俺らみたいな子供から、いい歳したおっさん連中まで、何人もの男を虜にしてるからなぁ。


 いつも女の尻ばっか見とるウチの父ちゃんも、可愛い可愛いって、しょっちゅう言うとるし。

 

 そんな、みんなのマドンナであるナナミちゃんとの会話が、これが最後になるとは思っても見なかった。


 ナナミちゃんは巫女さん姿を見せることなく、冬になる直前、何の前触れもなく消息を絶った。 

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