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14.兄の務め

 アキラが偵察に出た日の夜。


「なぁ、さすがに遅ないか? ヘマして捕まっとるんや無いやろうな」 


 アキラが山小屋を出てから既に十時間。

 なかなか帰って来ないことに、不安を覚える。


 偵察にしては張り切りすぎと違うか。


「どうやろう。隙があればそのまま盗んで来るって言ってたし、人が居なくなるのを待ってんのかも分からん」


「私たちも様子を見に行く?」


「いや、あかん。万が一、ここの村人がヤバい連中やった場合、全員で姿を現すのは危険すぎる。行くとしても俺だけや。とは言え、あの乱暴者のアキラがやられるってことは、相手も相当手強いぞ。武器になりそうなもんをかき集めとけ。ナギサ、お前もいざという時は、皿でも何でも投げて戦えよ。アキラが夜明けまでに戻らんかったら、俺が山を下りる。マモル、お前は死に物狂いでナギサを守れ」


 二人は俺の作戦に頷いた。


 結果的には、アキラは夜明けと共に帰って来た。

 最悪な奴らと共に⋯⋯


 縄で縛り上げられて、顔の原型がないくらいボコボコにされたアキラは、山小屋の前の地面に転がっていた。

 その後ろには、篝火島の連中。


 俺の母ちゃん、アキラの母ちゃん、駐在に、アオイとカオリ、そして、サトルとツヨシとケン。


 この場所を調べられたんは、恐らく駐在の情報網やろう。

 人殺しが起きてんのを見過ごしとったくせに、こんな時だけ仕事しやがって。


「ナギサちゃん〜! そこにおるんやろ! 出て来て! 一緒に帰ろ?」


「隠れても無駄や! この村には、もうこの小屋位しか、逃げ場所はないもんな」


 サトルとツヨシが叫ぶ。


「やから⋯⋯この村には、俺しかおらんって⋯⋯言っとるやろうが⋯⋯アイツらなら今頃、パクった車で移動しとるって⋯⋯」


 アキラはもう腹に力が入らんのか、か細い声で俺らの事を必死に隠してくれとる。


「はぁ? 誰がそんな言葉を信用するんや」


「こんな時まで偉そうにしやがって。けどもう、見る影もないなぁ」


 ケンが地面に転がるその背中を思いっきり踏みつけると、アキラは口から血を吐いた。


「ひぃ!」


 その余りにも酷い仕打ちに、ナギサから悲鳴が漏れる。

 必死の形相のマモルが、後ろからナギサを抱きかかえて口を塞ぐ。


「ちょっと、ケン君! ウチの息子のこと、殺さんといてよ!? もうウチにはこの子しか残ってないねんで! 絶対に連れて帰るんやから!」


 金切り声を上げたのは、アキラの母ちゃんや。


「ごめん、おばちゃん。つい⋯⋯」

 

 ケンはアキラの母ちゃんにヘコヘコした後、不服そうにアキラを睨みつけた。


「コウキ! 隠れてんと帰って来て! 今、家出なんかしとる場合やないんよ? あの火事の日、父ちゃんが死んでしもうたんよ? あのクソ女の夫に⋯⋯ユタカに殺されたんや!」


 母ちゃんは涙を流しながら叫ぶ。


 その言葉に、心臓が止まりそうになる。

 俺の父ちゃんが死んだ?

 マモルの父ちゃんに殺された?

 

「そこに一緒におるんやろ? 売女と人殺しの息子が! 残念やったなぁ! 女に現ぬかしとる間に、島に残った父親は死んだんやから! 逆恨みも良いところや! コウキ、あんたはそんな子らと関わったらあかん! 大人しくナギサを渡しなさい! その子は存在したらあかん子やの。男の子を三人も連れ出すような女がいたら、村は終わってしまうでしょ?」


 母ちゃんはマモルとナギサの事を罵った。


「父ちゃんが死んだ⋯⋯」

 

 マモルの表情が固まる。


「マモル、あんなん出任せや、俺らを逆上させようとホラ吹いとるんや。俺の父ちゃんも、マモルの父ちゃんも生きとる。騙されんな」


 意識が遠のきそうになっているマモルに喝を入れる。


「コウキ、あんたはその女に騙されとんねん! その女が来てからコウキは変わってしもうた」


「私らに見向きもせんくなって、その子のこと夢中になってお世話してたやん! まじないにかけられてるんや! お願いやから帰って来て!」

 

 怒りをあらわにするアオイとカオリ。

 般若のような恐ろしい形相で叫ぶ様は、子どもの頃から知っている姿とは、かけ離れ過ぎている。


「なぁ、コウキ、アオイちゃんとカオリちゃんは、コウキのお嫁さんになってくれるって言ってくれてんのよ? コウキは男の子なんやから、二人のお言葉に甘えて、結婚してもらいなさい。けど、女はあかん。女が何人もの男の子と一緒になるんは絶対にあかんよ」


 母ちゃんの言葉に頷くアオイとカオリ。

 それがあの村の女に当たり前のように染み付いている思想って事なんやろうな。


「なぁ、おばちゃん。もうええか? 交渉に応じへんのなら、この小屋ごと壊そう?」


「コウキは半殺しで勘弁したる代わりに、ナギサちゃんは俺らの好きにしていいんやんな?」


「そういう約束やったからなぁ」


 サトル、ツヨシ、ケンは腰のベルトからナイフを取り出した。


 ナギサは声にならない悲鳴を上げて、マモルにすがりつく。


 

 色々ゴチャゴチャ言われて混乱する頭を落ち着かせるために、ポケットから封筒を取り出した。

 

 マモルの父ちゃんが、ヤマザキさんを通して俺に渡したかったもの。

 封筒の中には二枚の紙が入っている。

 内容は、もう何度も確認した。

 

 一枚目の紙はナギサとミサキさんの間に血縁関係がある事を示していた。


 つまり、ミサキさんが亡くなった時に海に返された赤子⋯⋯それがナギサやったってことや。

 それが海の神かはたまた人魚に育てられたのか、成長した姿であの島に流れ着いたと。

 


 そして、二枚目の紙は⋯⋯

 ナギサと俺の父ちゃんの血縁関係を調べるものやった。

 父親がクソ下衆野郎やったという証明。


 俺に流れる不名誉な血。

 その半分をナギサと共有しとったとは。


「マモル、お前はナギサを連れて裏から逃げろ」

 

 お前らみたいな醜いバケモンが、美人の肉をなんぼ喰っても綺麗にはなれへん。


 それに、俺みたいなバケモンは、コイツらみたいなバケモンと戦うくらいしか使い道がないやろ。


「俺はナギサの兄ちゃんやからな。ほな、マモル。頼んだで」


 その理論やと、お前も戦えよと言いたくなるけど、そんなもん誰が得すんねん。


 DNA鑑定の用紙をビリビリに破り、燃えていない暖炉の灰の中に突っ込む。

 

「コウキお兄ちゃん! いや! 行かんといて!」


 引き止めるナギサの声を無視して、斧を片手に小屋を飛び出した。

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