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13.平穏

 混乱に乗じて家を抜け出し、ナギサの手を引いて走る。


「ちょっと! あんた! 起きて! 山火事やで!」


「⋯⋯⋯⋯う〜ん⋯⋯⋯⋯」


 母ちゃんは父ちゃんを叩き起こすのに必死や。

 あのおっさんは、明日が休みやからって深酒でもしとったんやろう。


 約束の場所――港に着くと、ヤマザキさんとウシオくん、アキラとマモルが既にいた。


「よし、作戦通りだね。コウキくんたちは、その船に乗って。残りの船は動かないはずだから。幸運を祈ってるよ」

 

 ヤマザキさんはウシオくんと共に、隣の船に乗り込む。


「あ、いけない。あと、コウキくんにこれを。ユタカさんが渡して欲しいって。さすがに面と向かっては渡せなかったみたい。君たちにとって、残酷なことばかりだけど、真実を葬る資格は僕には無いから」


 ヤマザキさんは、俺を呼び寄せ、手に封筒を握らせた。

 その意味深な発言が示すものは何なのか、封筒の中身が何なのか、気になる所やけど、今は時間がない。


「ほな、俺が操縦するわ。本島を目指して、後は行けるところまで、海沿いを進もか」


 アキラは操縦席に腰掛けると、すぐに船を発進させた。

 猛スピードで進む船は、激しく揺れながら真っ暗な海の上を進む。

 煙を上げながら赤く燃える山が、見る見る遠ざかって行く。


 俺たちは生まれ故郷を捨ててしまったんや。

 両親も、友だちも。

 俺はいったい、今まで何を見てたんやろうか。

 なんでこんな事になるまで、気づかんかったんやろうか。


「ナギサ、マモル、急なことで悪かったな。けど、俺らもどうしていいか分からんかった。こうするしかなかったんや」

 

 戸惑う二人に、先ほどヤマザキさんとマモルの父ちゃんから聞いた話を伝える。


「そうやったんや。普通なら信じられへん話やけど、何となくそんなそぶりはあったから、納得できる。仕事中、このかまぼこみたいに、早う喰われてしまえばええのにって、言われた事は一度や二度やないし。そっか、あれはきつい冗談やなくて、本気やったんや」


 ナギサは手で口を覆いながら涙を流した。


「そんな酷いことまで言われとったんや⋯⋯それやのに守ってやれんで、ごめんな。けど、もう大丈夫や。コウキくんとアキラくんのお陰や」

 

 マモルは横からナギサを抱きしめて、頭を撫でた。

 今までずっと我慢していたものが溢れ出すように、ナギサの目から大粒の涙が止めどなく流れてくる。


 それから三時間くらい船を走らせ続け、薄っすらと空が明るくなり始めた。

 本島の海岸沿いをひたすら進むと、似たような漁村がいくつか見えた。


「これからどうしたら良いんやろか?」


「人が少ない村では余所者は目立つ。出来れば人が多い都会に行きたい所やけど、その前に燃料が切れるやろうな。船を一旦目立たん所に止めて、燃料を手に入れるか、足がつかんように車に乗り換えるか」


 アキラがリーダーシップを発揮してくれたお陰で、そこからの逃亡生活は順調だった。


 船を人気の無い磯に隠して上陸し、集落の外れに無人の山小屋を見つける事が出来た。

 

 磯で魚を獲り、山の木を切って薪を作り、長らく使われていなさそうな畑を手入れし、野菜を育て始めた。

 

「ほれ、新聞を手に入れたぞ」

 

 ある日、偵察から帰ったアキラは、机の上にそれを広げた。


(かがり)火島で山林火災。嵐のため被害最小限に――そうか。雨が降ったから自然と消火されたんか。ナギサが島を離れた途端に嵐とは」


 やっぱりナギサは聖女やったんやろうか。

 みんなして大切にしてやってたら、豊かに暮らせたやろうに。


「今のあの島の天気は分からんが、嵐が来とったんなら、追っ手もすぐには来んやろう。この様子やと、ウシオくんとヤマザキの方は、まだ時間がかかりそうやけどな」


 アキラは新聞を元通りに畳んで、棚の上に無造作に放り投げた。

 

「それで、これからはどうしたら良いんやろう? このままここで、みんなで暮らすん?」


 ナギサは少し肩の力が抜けたようで、表情が和らいだ。


 これからの事については、アキラとマモルが意見を出した。


「せっかく生活の基盤が出来た所ではあるが、ここに長く滞在するのはリスクが大きい。最初に言った通り、都会を目指すのが望ましいやろう。手持ちの金もそう多く無いから、働き口も必要や」


「ほな、港で燃料を分けてもろて、船でまた移動するん?」


「出来るだけ村人との接触は避けたいが、このままでは、やむを得んな。それか勝手に拝借するか」


「誰かのものを盗むのは、止めたほうがええんと違う?」


「お前は今更何言うとるねん。この山小屋やって誰かのもんやのに、勝手に住んどるんや。何より俺らは今、殺人鬼の集団から逃げ回っとんのやぞ? 甘ったれたこと言っとる場合か」

 

「そら、まぁそうやけど⋯⋯」

 

 ここを発つためには燃料が不可欠との結論に至り、アキラが港の様子を見に行くことになった。

 その結果次第で、村人と直接交渉をするか、盗む機会を伺うかを決める事になった。

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