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忘れないよ

作者: 絵空雅貴

 注釈 この手紙は出さないでください。

 そんな一文から始まった、ある人への

 感謝を綴った便箋が1枚


 春の風に、ひらひらと

 なびいているのは

 ボクの心もまた

 同じようなものでしょうか


 浮かんでは消えてしまう

 淡く脆かった感情が

 時間が経つほどに

 だんだんと強くなるものだから

 手元に残しておきたくて


 ボクは筆を走らせた


 溢れ出る感情のまま破顔して

 その人はいう

 幸せそうな顔でいう

 それが、ボクの心に刺さった

 刺さったって痛くもない

 むしろ心地がいい

 その言葉が脳裏を離れない


 あなたはボクの大切な人

 やさしさを、ぬくもりを、無条件で理屈なしの愛をくれた人


 この時期の樹木に咲く花が

 目を閉じたら浮かんできた銀河の中を駆ける鉄の塊が

 幻想的に美しく輝く

 そんな中にあなたがいる


 これまで経験してきた数多の思い出が

 止めどなく蘇ってきて

 ボクはなんとも言えない

 やさしい気持ちになるけれど

 言葉になんてできない

 できそうにない


 もしかしたら言葉に意味がないのが真実で

 だからボクは泣いている

 3月に咲くあの花や

 有名な空想の素敵な列車に

 感動して溢れた感情が涙に変わり

 言葉になんてならない

 

 ただ、感謝

 ありがとうの一言しか出てこない


 子供の頃

 姿が見えなくなると

 居なくならないでって追いかけてた

 ボクの中では

 時に親を超えてかけがえのない存在でした


 なんとなくすべてが嫌で家を飛び出した日に

 追いかけて

 つかまえてくれたのは

 いつもあなたでした


 あの頃

 あなたがいなかったら

 ボクはこの世にいなかったでしょう

 消えてしまったに違いないのです

 だから、ボクはあなたに助けられました


 無条件で

 理屈なしに

 ボクたちのことを愛でてくれて

 本当に、本当にありがとうございました、と


 孫一同

 感謝をしていますが

 果たしてこの手紙は届いているのでしょうか

 


 甘えさせてくれて

 ありがとう


 ボクは

 幸せの中で育ったことを

 振り返る日々の中で

 今日の嵐のように

 強く、強く実感します



 これは3月のある日のこと

 儚く散る桜のように

 夜空を駆ける、あの銀河鉄道に乗って


 無償に愛でてくれたおばあちゃんは

 いってしまった



 家のテーブルの上に

 ただ1枚の便箋が残っている


 書き終えたボクは筆をしまいながら言う


 これ読んだらどんな顔するかな、って

 

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