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松谷湊

この世界に、僕_松谷(まつや)みなとは爆弾を落としてみることにした。



【2021 10/30】

――昨日午後6時30分頃、東京都新宿区、大阪府大阪市、愛知県名古屋市、福岡県福岡市、北海道札幌市に複数の爆弾と見られるものが発見されました。爆弾と見られるものは既に回収されており、現在、本物かどうか調査中です。警察は複数の犯行グループが、何かしらの悪意を持って行っていると見て、捜査を進めています。また、この事件で、半径100メートル以内に住んでいる住人が一時避難する事態になり、近隣住民からは不満の声が聞こえています。

「やあねぇ。今どき爆弾なんて、物騒だわぁ」

朝ごはんを食べながらテレビをぼうっと見ていると、母親がおばさんくさい大きな声で言った。

――[福岡市在住の女性(64)]「ほんと、迷惑にも程があります。私達が何をしたっていうの?爆弾が回収されて良かったわ」

――[札幌市在住の男性(36)]「僕は一人で二人の子育てをしないといけなくて。そんな中いきなり避難しろと言われて…。子供二人を抱えながら持ち物を持って避難場所に行くのは大変でした」

――[新宿区住在の男性(22)]「大学で講義受けてる最中にいきなり“避難しろ”ですよ。意味がわからないまま避難させられて、そんで何かと思ったら爆弾で。爆弾の所為で講義潰れちゃったんスよ。犯人早く捕まえてくれって感じです」

みんながみんなそれぞれの不満を取材班に吐き散らしている。それで何になるというのか。取材中永遠と愚痴を聞かせられる取材班の気持ちになってみろ。

「住んでいるのが茨城で良かったわ、本当に」

「それでも東京から近いんだし、絶対安全とは言えないんじゃない」

思わず言ってしまった。すると母親は確かに、と今更気づいたように言った。

先に行っていた通り犯人は僕だ。まぁ、僕一人だけじゃないけど。僕をリーダーとした、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌に住んでいる同じ中学三年生による犯行。この人たちは所謂、ネッ友だ。顔も名前も住んでるところも知らない。でも、だからこそやりやすいところもある。

「湊、ニュースが気になるのはわかるけど、学校ね」

そんなのわかってる、とは言わずに無言で制服に着替えてカバンを背負う。ここで反抗したら面倒になるのは目に見えている。

「気をつけてね、いってらっしゃい」

「いってきます」



教室に入るとクラスの話題は今朝のニュース一色だった。

「おっ、みっちゃんじゃ〜ん。おはよ!朝のニュース見たか?ちょーやべーよな!爆弾だってさ、いやぁ怖いね!」

僕の肩に腕を回しながら話しかけてきたのは日下部(くさかべ)駿呀しゅんや。運動神経が高く、リーダーシップもあることからバスケ部の部長を務めている。おまけに高身長で女子イチコロの顔のよさ。その反面、勉強は苦手なのだが、そんなところがギャップで可愛いと女子からは絶大の人気を博している。僕と駿呀は小学校からの仲良しで、最近このまま絡んでて良いものかと疑問をいだいている。だって、住む世界がまるで違う。

僕はいじめられているわけじゃない。けど駿呀みたいに人気があるわけでもない。至って普通の人間だ。ただ、僕のこの頭脳は自分でも良い方ではないかと思っている。テストは常に80点台だし、駿呀によく勉強教えてるし。

「あー、うん。ね、ヤバイよな。つか今どき爆弾なんてね?」

「マジそれなぁ!爆弾て!一昔前じゃんって感じ。ここが狙われなくて良かったわ〜」

「…もしかしたらもあるかもよ?だってここ、東京から近いし」

「うわ、怖いこと言うなよなぁ。…もしやお前が犯人かぁ?」

ニヤニヤしだしたと思ったらいきなり本当のことを言われ動揺する。でも、駿呀が知っている訳がない。からかってるだけだろう。

「…んなわけ!やめてくれよ、不審に思われるだろうが」

「うはは、冗談だって。んな真顔になるなよ!そもそも中学生が爆弾とか用意できっこねーじゃん、どっかの調子に乗った大人とかだろ、どうせ」

その一言と同時にチャイムが鳴って、僕たちは席に着いた。



「ねね、みっちゃん」

授業中、駿呀がシャーペンで僕の背中をつついた。1時間目は理科で、話してても先生はほとんど怒らないので僕たちは理科の時間しょっちゅう喋っている。

「俺さ、あの事件の考察まとめたんだけど」

あの事件は今朝のニュースでやってた爆弾のことだろう。考察…どこまで考えたのかはわからないが、僕がやったまではあの一部の報道だけじゃわかりっこないだろう。そもそも、失礼だけど駿呀は頭が悪い。上手く合わせとけばいい。

「何、どんなのよ。見せて」

駿呀は理科のノートを僕に渡した。そこには箇条書きで書かれた文字が並んでいた。

・湊に言った、調子に乗った大人が面白半分でやった説(だから爆弾はニセモノ)。

・政府もしくは日本に不満があった何者かがやった。

・大人の手を借りて未成年がやった(ほぼあり得ないけどないとも言い切れない)。

ざっと目を通したが、未成年が行ったメモにはかっこで ほぼあり得ないと書いてある。俺がやったなんて頭にすら無いだろう。

「へぇ、意外と考えたんだね、駿ちゃんのくせに」

「俺のくせにってなんだよ。爆弾は本物かどうか調べてるんだっけ。偽物であってほしいよな」

「…うん」

駿呀の言う通り、あの爆弾は偽物。でも、今回の爆弾は“おとり”のようなもので、別の場所に隠されてある爆弾はまだ見つかっていないし、本物。みんなにそれがわかるのは明日以降。

「犯人とかわかんねーのかね」

「どうだろ。新聞にも犯人の証拠となるものは今のところ見つかってないって書いてあったし…今も見つかってないのかな」

「犯人の証拠をいち早く見つけてとっ捕まえねーと、また今回みたいなことが起こるんじゃないの?」

「そう、だね。僕も早く平和な日常に戻りたいし、犯人が捕まってくれることを祈るよ。茨城に爆弾なんて置いてほしくないからね」

授業が終わるチャイムが鳴った。次は教室移動だからみんなに合わせて僕たちも立ち上がった。



今日は事件のことで持ちきりだったな。大丈夫だったけど、僕が犯人かってバレないかヒヤヒヤした。

「ねぇねぇねぇ〜!湊っち〜!」

学校が終わって一人で歩いていると後ろから走りながら僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、あぁ。楓さんに藍流さん。ふたりともどうしたの?」

「もーう、楓で良いってずーっと前から言ってるよね?3年間クラス一緒なのに、敬称とかいらないよ!」

そう言って彼女は可愛くぷくっと頬を膨らませる。僕の目の前にいる元気な彼女は如月(きさらぎ)(かえで)。地毛の焦げ茶のボブカットと背は平均より少し小さめなのが特徴。でも、それに見合わないくらい(いい意味で)パワフルで周りを元気にしてくれる。中学1年生の頃から活発で、その元気さを見た先輩たちから色々なスポーツ部の勧誘を受けていたがことごとく断っていたのを思い出す。彼女は運動が大の苦手だからだ。でも足だけは何故か速い。

「はぁ、はぁ…っ、ちょっと楓ちゃん、足速いよぉ…」

遅れてやってきたのが神川(かみかわ)藍流(あいる)。今年始めてクラスが一緒になった。彼女の特徴はポニーテールにしていても腰まで伸びる長い髪。解いたらふくらはぎまであるんじゃないかってくらいだ。運動も勉強も平均並みだけど、人の話を聞くのがうまくていつも彼女の周りには人が沢山いる。楓と違って大人しい性格だけど、自分の意見ははっきり言うタイプだから好感が持てる。ちなみに、楓とは幼馴染で元生徒会長。

「今日の朝のニュースあったじゃん?!あの爆弾ね!ななななんとぉ〜…偽物だって!さっきSNSで見た!」

そんなの知ってるし、というか僕が主犯だから知らないわけ無いんだけど。でもそんな事言えないからもう見たってことにする。

「あー、僕もそれ気になってて楓さんより先にSNSで見ちゃった」

「はぁ〜!?そうだったの?…ねぇ〜、あいちゃーん…走り損だよぉ〜!」

「だから言ったでしょ?湊くんは情報収集速いと思うよって」

「でもっ!今回は私が勝ったと!思ったんだよ!その投稿、されてから10分も経ってなかったし!」

楓は何事にも僕と張り合いたがるところがある。なんでかと聞いたところ、頭のいい湊っちに勝てたら優越感に浸れるから!とのことだった。しかし、ここ3年間今のところどんな勝負でも一度も負けたことがない。

「10分経ってから見てるの?僕はそのニュースのアカウントが何か投稿したら通知来るようにしてるからすぐ見れるんだよ」

「むむむ〜!そういうことかぁ!通知…盲点だった〜!さては楓が勝負しようとしてたこと、見破ったな!?」

「まぁ、そんなとこ」

まぁ本当の目的は本物の爆弾が見つかっていないか常にチェックするためなんだけど、楓がいい方向に持っていってくれたからそれに乗る。

「はぁ…、いつになったら湊っちに勝てるのかな。卒業までに1回でいいから勝ちたいよぅ」

「まぁまぁ。次は勝てるよ。ね?先回りが大事だよ」

「そうだ、先回り!湊っち覚えてろ!次は絶対に勝ってやるからな!」

しゅんとした(フリをした)楓を、まぁまぁと宥める藍流。そんな慰めも必要なかったかのように瞬時に100%の元気に戻るのが楓だった。もう大きな声を上げて僕に宣戦布告をしてくる。

「さぁ、勝てるかな?今のところ僕が全勝だけど」

少し挑発でもするとそれに噛み付いてくるのが楓の面白いところだ。すぐに威嚇した犬みたいに唸って「言ったね!?その余裕そうな表情を崩してやるんだから!」と指を指して言われた。

「あ、ちょっと楓ちゃん、私達もうこっち曲がるでしょ?」

「んわ、そうだね!あいちゃんが言ってくれなかったら湊っちの家で夕飯ご馳走になるとこだった!」

誰がご馳走すると言った。楓の元気さは良いところでもあるけどずっといると疲れる。

「早くしないと暗くなるよ。僕は送ってかないよ」

「湊っち冷たーい。ま、なんとかなるって!じゃ、またね!あいちゃん、帰ろっ」

「うん。またね、湊くん」

声を出す代わりに手を軽く振って再び歩き出す。みんなは僕が爆弾事件の犯人だって知らずに関わっている。昨日爆弾を仕掛けた時は、明日になって犯人が僕ってバレてクラス全員から無視された挙げ句警察に連行…なんて考えがあったけど、証拠となるような可能性のものや言動は可能な限り避けた。結果、証拠は全く出ていないらしいからとりあえず一安心だ。

「明日、か…」

明日の10月32日。同じ都道府県で本物の爆弾による爆発が起きる。

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