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アフタヌーン ティー  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
24/30

24. ★ そよぐ柳葉。ゆらめく篝火・下 (令和十年八月二十七日・日曜)

 ――――。


「やだ! やだ! やだあああぁ! 来ないでってばぁ! うひいいぃ!」

「「「「「 待ちやがれぇ! この女がぁ! 」」」」」


 いなくなったと思われた穂花は、まるで子ネズミのように走り回っていた。雑兵たちは何とか捕まえようと追い回すが、ひらりひらりと踊るように逃げる穂花を捕まえることが出来ない。

 だが、適当に逃げ回っていた穂花は、ついに追い詰められてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。うっそぉーっ! なんでぇーっ!」


 穂花が追い詰められた場所は、焼きそばとヘリウム風船の屋台の間。


「「「「「 もう逃がさねぇぞコラアァ! 」」」」」


 雑兵たちは鼻息を荒くし、穂花を威嚇。近くの柳の葉はいくつも連なり、そよいでいる。


「(ま、まずいよね、これ! わたし、死んじゃうの? いやーっ! カッコイイ彼氏とも付き合ってないし、もっと美味しいもの食べたいし、海外旅行も行きたいな。それから、えーと・・・・・・)」


 窮地だというのに、なぜか笑顔の穂花。雑兵は「犯しちまえ」と一気に鼻の下を伸ばして突撃。


「へ? うひゃああぁっ! やめてぇーっ! くるなーっ! わーわーわーわーわーっ! わあああああ!」


 穂花はまるでだだっ子のように騒ぎ、屋台の間からさらに奥へ行き、木製フェンスを背にして固まった。前からは、いやらしい目をした雑兵たちが一人ずつ、狭い屋台の間を進んでくる。

 咄嗟に穂花は、「やめてぇー」と叫びながら隣の屋台に逃げ込み、そこに置いてあった鍋蓋と、焼きそば鉄板用の金属製フライ返しを手に取った。雑兵たちは「ガキかよ」と笑いながら近づく。

 次の瞬間、穂花に襲いかかろうとした雑兵の一人が、吹っ飛ばされた。その勢いで何人かの雑兵は一緒に後ろへどさりと倒れる。


「「「「「 な、何だァ! 」」」」」


 仲間が突然、何かをされて吹っ飛ばされたことに驚き、雑兵たちは混乱。


「はー、はー、はー・・・・・・。・・・・・・くるなーっ、て・・・・・・言ったじゃんーっ!」


 雑兵たちが目を向け直すと、そこには鍋蓋を額の上に構え、フライ返しを前に突き出して構える、涙目の穂花がいた。その姿はまるで、古代ローマの剣闘士のようである。


「な、なんだこの女! てめ・・・・・・」


 雑兵の一人が穂花に突っかかろうとした瞬間、その男は横から強烈な打撃を受け、屋台を三つ貫いて吹っ飛んでいった。他の雑兵は「何だ!」と狼狽えて驚く。


「ワタシの教え子に、乱暴しないでちょうだいねぇッ!」

「こ、こざさせんせーっ!」


 雑兵を吹っ飛ばしたのは、小笹だった。追い詰められていた穂花を助けるべく、体当たりにも似た凄まじい威力の前蹴りで男一人を蹴り飛ばしたのだ。

 小笹は、すぐ近くにあった別な屋台の鍋蓋と小さなしゃもじを手に取った。


「渡良瀬さん! ワタシが教えた『ティンベー』と『ローチン』の技法、しっかり応用できたじゃない。くすっ! 稽古したことが咄嗟に出るなんて、大したものよ」

「な、なんかもうー、自分でもよくわかんないけどー・・・・・・身体が覚えてたってことですかね!」


 小笹は「そういうことねッ」と笑い、「さぁ、まだまだ気は抜けないよ」と穂花の前で鍋蓋としゃもじを持って構えた。

 沖縄空手に伝わる古武道の武具であるティンベーとローチンを、身近な道具で代用。穂花も、鏡写しのように同じ構えを取った。


「「「「「 しゃらくせぇぞ、オラアァ! 」」」」」


 雑兵たちの振り回すヤクザパンチを、小笹と穂花は鍋蓋で頭部をカバーしながら前転で躱し、後ろからしゃもじやフライ返しで急所を突いて相手を次々と倒す。

 戦況を察した雑兵たちは「抜くぞ!」と言って匕首を腰元から出し、それを振りかぶって襲ってきた。

 小笹と穂花は、鍋蓋で刃を受けると同時に、相手の腹部へしゃもじやフライ返しががめり込むほどの強烈な突きをお見舞い。亀の甲のティンベーで受け流し、手槍のローチンで同時に突くという基本的な技を、そのまま活かして戦っている。


「ひいぃ! こ、こざさせんせーっ! わたし、もう戦えなぁーいっ!」

「戦えてるよッ! とにかくっ、ワタシたちはこの状況から、自分の身をしっかり守らなきゃ命が危ないね! こういう状況はもう、ひたすら戦って守り抜くしかないの」

「で、ですけどぉーっ! 相手、ヤクザ屋さんだらけだしぃ、もうやだーっ!」

「泣いてるヒマはないよ渡良瀬さんッ! ほら、危ない! 避けなさいッ!」


 穂花の眼前に、雑兵の匕首がきらりと光っていた。小笹のフォローでその刃を「うひー」と叫んで紙一重で躱した穂花は、何を間違えたのか、鍋蓋で相手を思いきり殴り倒した。

 小笹は「使い方違うんだけどなぁ」と、苦笑い。

 優璃、月花、小笹、穂花の四人によって、三百人以上いた構成員たちはあっという間に半分ほどまで倒されていた。その驚異的な戦闘能力に、団は「どうなってやがる!」と戦慄の表情。

 ステージ上から全体を見ている蛇腹は、篝火の明かりに照らされ、「ひゅほほほ!」と笑った。


「も、元締・・・・・・。このままではっ・・・・・・まずいのでは! 次々と、うちの組員が・・・・・・っ!」

「なぁに、大丈夫。この程度、ボク様の想定内ですぞ? ま、思ったよりは、やりますがなぁー」

「そ、そうなの・・・・・・ですか? そ、想定内とは。元締、さすがです!」

「ボク様は三十年以上前、当時、最悪最狂の集団と言われた組織に所属していたのです。下っ端中の下っ端でしたがね。・・・・・・団には、『デスアダー』って組織の話は、してなかったですかな?」

「あ、いや・・・・・・それについては、ちょっと・・・・・・・。最狂の集団・・・・・・だったのですか?」

「ひゅほほほ! デスアダー総帥は絶対的なカリスマでした。だが、ちょうどあの常盤優璃のような輩と戦い、天に召されてしまった。それ以後、自然消滅です。・・・・・・ま、古い話ですよ。今となっては、そこに所属していた者は、ボク様のみ。・・・・・・同じ轍は踏みません。いや、まったく!」

「は、はぁ。・・・・・・と、とにかく元締なら、あんな女連中、軽く潰せますよ! 絶対に!」


 蛇腹は、目を細めずに嗤っている。その視線の先には、戦い続ける優璃の姿があった。


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