19. ★ ビッグイベントのご案内 (令和十年八月二十六日・土曜)
――――。
「相変わらずかわいいなぁー。こんにちは、エナガさん。今日も来たよー」
優璃は窓際席から、外の軒先に吊された鳥カゴのエナガへ笑顔で声をかけている。
「小鳥好きだよねぇ、ユリって」
箏音は、そんな優璃の姿をを微笑みながら見ている。
「昔からだねー。ゆりちゃんって、手乗りインコ飼ってたんだけどねー・・・・・・」
穂花はカウンター席で、グラスの氷をからからと回しながら、話す。
「飼って『た』?」
月花は小さなテーブル席から、穂花の言葉に反応する。
「うん。おしゃべりもするかわいいインコだったんだけどね、一昨年の冬に眠るように亡くなっちゃったんだって・・・・・・」
「そうなのか。それは、かわいそうに・・・・・・」
「それじゃ、ユリがああやって小鳥に話しかける気持ちも、わかるなぁー」
「鳴瀧氏は? ペットだのを飼ったことは?」
「あたし? あたしは小さい頃に、コオロギ飼ってたくらいかなー。ツキカは?」
「・・・・・・ううーん。・・・・・・(あれは、ペットと言うのだろうか? でも、飼ってたよな)・・・・・・」
「え? なになにー? つきかちゃん、何飼ってたの?」
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・。いや・・・・・・じいちゃんが、カキとエビ、をさ・・・・・・」
「「 カ、カキと・・・・・・エビ? 」」
「いや、ちゃんと成長するんだよ? じいちゃんが、毎日、海に行ってエサもやってあれこれと面倒を見てだな・・・・・・」
身振り手振りで説明を加える月花。その話に、穂花は苦笑いで「それはペットじゃなく、養殖だよ」と小声で呟いた。
* * * * *
「あっ、いらっしゃいませーぇ!」
「ひゅほほ。また来てしまいました。このお店が、非常に気に入ってしまいましてな」
「あ、ゴンさんだぁ!」
昨日、優璃たちと歓談した、ゴンというあの男性客が現れた。月花は読んでいた本をぱたりと閉じ、「このお客さんが・・・・・・」と呟いて、穂花の方を見ている。
「あれれ? 昨日一緒だったお姉さんは、今日はいないのですか?」
ゴンは穂花に、そう尋ねた。
「ゆりちゃんですか? いますよ、そっちにー。・・・・・・ゆりちゃん、ゴンさんが来たよ」
エナガに夢中だった優璃は、穂花の声でドアの方へ目を向けた。
「あ、こんにちは。昨日は色々とありがとうございました」
「ひゅほほほ。いや、まったく。お邪魔して申し訳ないですな。・・・・・・実は、今日は皆様に、ちょっとしたお誘いのご案内をお持ちしたのですよ」
ゴンは店内にいる者全員へ、カラフルなチラシとチケットを配付した。
「えー、すごぉい! なになに? 『ロート・アイゼン 結成二十五周年記念イベントフェスティバル』? へー。ゴンさんって、もしかして、イベント会社の社長さんとかなんですか?」
「・・・・・・ひゅほ! まぁ、そんなようなものですな。賑やかなイベントを指揮もするし、たくさんの人やお金を動かす仕事は、慣れておるのですよ。いや、まったく」
穂花はゴンに渡されたチラシを眺め、「すごーい」と目をキラキラとさせている。
箏音と月花も同じようにそれを眺め、「なんか面白そうかも」と話している。
「あの、場所が書いてないみたい・・・・・・なんですが、どこで?」
優璃は首を傾げて、ゴンに問う。
「ひゅほほほ。いや、これは失礼! いや、まったく。会場案内を入れ忘れるとは、これは参ったもんだ! ・・・・・・場所は、この店のすぐ後ろですよ。そこに、大きな公園があるでしょう」
ゴンは窓の外を指差し、頬をぷるると震わせ、にこっと笑った。
「箏音。公園が・・・・・・あるの? 私、気付かなかったけど」
「うん、あるよ! 店からだと木が邪魔してちょっと見えないね。『柳公園』っていう、柳の木に囲まれた公園があるんだー。この季節だと、柳の葉がサラサラと揺らいで、落ち着いた感じだよー」
「そうなんだぁ! ・・・・・・そこで、このイベントをやるんですか。ええと・・・・・・明日の午後?」
「ひゅっほほほ! そう、ちょっと急なご案内ですが、ぜひ皆様どうぞ。明日の夕方五時からやりますので。楽しいですよ、いやまったく! 賑やかなイベントになりますよ。あとは・・・・・・」
ゴンはニコニコと笑顔を絶やすことなく、説明を続けている。
「ねぇねぇ、ゴンさん? ロート・アイゼンって、何ですか? ここに結成二十五周年ってありますけどー、バンドか何かですかー?」
「それ、ホノカと同じく、あたしも気になったー。何にせよ、記念イベントってことは、柳公園がすごく賑わうんだろうなー」
ゴンは「バンドではありませんが、ご当地で有名なグループですよ」と笑っている。
「格好いい名前だね、ことねちゃん! ロート・アイゼンって・・・・・・意味はよくわかんないけど」
「ひゅっほっほほほ。知りたいですか、お姉さん? ドイツ語なんですけどね・・・・・・ロートは『赤い』、アイゼンは『鉄』。ま、そういうことだけ、お伝えしときましょうか。ひゅっほほほ!」
笑顔でゴンはそう言った。腹を揺らしてぺこりと頭を下げ、「ぜひ皆様、お越し下さい」と言って店から出ていった。月花は「なんでドイツ語なんだろう?」と、変なところを気にしている。
「(ロート・アイゼン。赤き鉄ねぇ・・・・・・。せっかくだから、小笹先生にも声かけてみようかな)」
優璃は無意識に、店から出たゴンを目で追っていた。その視線に気付いたのだろうか。ゴンはゆっくりと振り返って優璃に目を合わせ、これ以上無い笑顔を見せて会釈し、また去っていった。




