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アフタヌーン ティー  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
19/30

19. ★ ビッグイベントのご案内 (令和十年八月二十六日・土曜)

 ――――。


「相変わらずかわいいなぁー。こんにちは、エナガさん。今日も来たよー」


 優璃は窓際席から、外の軒先に吊された鳥カゴのエナガへ笑顔で声をかけている。


「小鳥好きだよねぇ、ユリって」


 箏音は、そんな優璃の姿をを微笑みながら見ている。


「昔からだねー。ゆりちゃんって、手乗りインコ飼ってたんだけどねー・・・・・・」


 穂花はカウンター席で、グラスの氷をからからと回しながら、話す。


「飼って『た』?」


 月花は小さなテーブル席から、穂花の言葉に反応する。


「うん。おしゃべりもするかわいいインコだったんだけどね、一昨年の冬に眠るように亡くなっちゃったんだって・・・・・・」

「そうなのか。それは、かわいそうに・・・・・・」

「それじゃ、ユリがああやって小鳥に話しかける気持ちも、わかるなぁー」

「鳴瀧氏は? ペットだのを飼ったことは?」

「あたし? あたしは小さい頃に、コオロギ飼ってたくらいかなー。ツキカは?」

「・・・・・・ううーん。・・・・・・(あれは、ペットと言うのだろうか? でも、飼ってたよな)・・・・・・」

「え? なになにー? つきかちゃん、何飼ってたの?」

「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・。いや・・・・・・じいちゃんが、カキとエビ、をさ・・・・・・」

「「 カ、カキと・・・・・・エビ? 」」

「いや、ちゃんと成長するんだよ? じいちゃんが、毎日、海に行ってエサもやってあれこれと面倒を見てだな・・・・・・」


 身振り手振りで説明を加える月花。その話に、穂花は苦笑いで「それはペットじゃなく、養殖だよ」と小声で呟いた。



 * * * * *



「あっ、いらっしゃいませーぇ!」

「ひゅほほ。また来てしまいました。このお店が、非常に気に入ってしまいましてな」

「あ、ゴンさんだぁ!」


 昨日、優璃たちと歓談した、ゴンというあの男性客が現れた。月花は読んでいた本をぱたりと閉じ、「このお客さんが・・・・・・」と呟いて、穂花の方を見ている。


「あれれ? 昨日一緒だったお姉さんは、今日はいないのですか?」


 ゴンは穂花に、そう尋ねた。


「ゆりちゃんですか? いますよ、そっちにー。・・・・・・ゆりちゃん、ゴンさんが来たよ」


 エナガに夢中だった優璃は、穂花の声でドアの方へ目を向けた。


「あ、こんにちは。昨日は色々とありがとうございました」

「ひゅほほほ。いや、まったく。お邪魔して申し訳ないですな。・・・・・・実は、今日は皆様に、ちょっとしたお誘いのご案内をお持ちしたのですよ」


 ゴンは店内にいる者全員へ、カラフルなチラシとチケットを配付した。


「えー、すごぉい! なになに? 『ロート・アイゼン 結成二十五周年記念イベントフェスティバル』? へー。ゴンさんって、もしかして、イベント会社の社長さんとかなんですか?」

「・・・・・・ひゅほ! まぁ、そんなようなものですな。賑やかなイベントを指揮もするし、たくさんの人やお金を動かす仕事は、慣れておるのですよ。いや、まったく」


 穂花はゴンに渡されたチラシを眺め、「すごーい」と目をキラキラとさせている。

 箏音と月花も同じようにそれを眺め、「なんか面白そうかも」と話している。


「あの、場所が書いてないみたい・・・・・・なんですが、どこで?」


 優璃は首を傾げて、ゴンに問う。


「ひゅほほほ。いや、これは失礼! いや、まったく。会場案内を入れ忘れるとは、これは参ったもんだ! ・・・・・・場所は、この店のすぐ後ろですよ。そこに、大きな公園があるでしょう」


 ゴンは窓の外を指差し、頬をぷるると震わせ、にこっと笑った。


「箏音。公園が・・・・・・あるの? 私、気付かなかったけど」

「うん、あるよ! 店からだと木が邪魔してちょっと見えないね。『(やなぎ)公園(こうえん)』っていう、柳の木に囲まれた公園があるんだー。この季節だと、柳の葉がサラサラと揺らいで、落ち着いた感じだよー」

「そうなんだぁ! ・・・・・・そこで、このイベントをやるんですか。ええと・・・・・・明日の午後?」

「ひゅっほほほ! そう、ちょっと急なご案内ですが、ぜひ皆様どうぞ。明日の夕方五時からやりますので。楽しいですよ、いやまったく! 賑やかなイベントになりますよ。あとは・・・・・・」


 ゴンはニコニコと笑顔を絶やすことなく、説明を続けている。


「ねぇねぇ、ゴンさん? ロート・アイゼンって、何ですか? ここに結成二十五周年ってありますけどー、バンドか何かですかー?」

「それ、ホノカと同じく、あたしも気になったー。何にせよ、記念イベントってことは、柳公園がすごく賑わうんだろうなー」


 ゴンは「バンドではありませんが、ご当地で有名なグループですよ」と笑っている。


「格好いい名前だね、ことねちゃん! ロート・アイゼンって・・・・・・意味はよくわかんないけど」

「ひゅっほっほほほ。知りたいですか、お姉さん? ドイツ語なんですけどね・・・・・・ロートは『赤い』、アイゼンは『鉄』。ま、そういうことだけ、お伝えしときましょうか。ひゅっほほほ!」


 笑顔でゴンはそう言った。腹を揺らしてぺこりと頭を下げ、「ぜひ皆様、お越し下さい」と言って店から出ていった。月花は「なんでドイツ語なんだろう?」と、変なところを気にしている。


「(ロート・アイゼン。赤き鉄ねぇ・・・・・・。せっかくだから、小笹先生にも声かけてみようかな)」


 優璃は無意識に、店から出たゴンを目で追っていた。その視線に気付いたのだろうか。ゴンはゆっくりと振り返って優璃に目を合わせ、これ以上無い笑顔を見せて会釈し、また去っていった。


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