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アフタヌーン ティー  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
17/30

17. ★ 赤鉄連合のリベンジ!・下 (令和十年八月二十四日・木曜)

 ――――。


 那須野西駅前広場は、大変な騒ぎになっている。

 季節が盆を過ぎた晩夏であるためか、広場の街路樹にはいくつか町内会が片付け忘れた祭提灯が吊したままであり、それがぼんやりと光っている。

 優璃へ次々と襲いかかる赤鉄連合の構成員たちは、まるで祭神輿の掛け声のように怒声を張り上げ、掴みかかったり殴りかかったりしてゆく。

 矢牧原と神田は、外国製のタバコを吸い、銀煤色の煙をぶわりと吐いている。目の前の「祭り」のような騒ぎを、他人事のように見て笑っているのだ。

 時々、ほろ酔いの人が何人か通ったが、「何かのイベントやってんだべ」と特に気にもせず、通り過ぎていった。


「けっけっけ! うちの組員がこれだけの数で襲いかかっちゃ、あのメスガキも、ひとたまりもねぇだろう! けっけけ!」

「まぁ、これでオレと仁義のメンツも守れんだろ。・・・・・・昨日、若頭は元締に半殺しにされるかと思ったらしいが、何にもされなかったらしいぜ? 何だか、拍子抜けしちまったとさ」

「元締の機嫌が良かったんじゃねぇのか? 元締は、上機嫌の時はアブネェことは何もしねぇぜ」

「・・・・・・何だかわかんねぇけどな。元締は、オレらみてぇな並のヤクザとはレベルが違うお人だ」

「けっけけ! ま、これであのメスガキをブチのめして、若頭や元締の元へ持っていきゃぁ、俺らの実績にもなるってもんだぜ!」

「・・・・・・ふん。だいたい、金を渡して頼んどいたイージーのバカ共が、ヘマしすぎたせいもあらぁな・・・・・・。おい仁義。イージーの幹部四人は、ちゃんと、始末しといたんだろうな?」

「けっけっけぇ! あいつらが警察から一時釈放された夜に、俺の配下にザクリと殺らせた。今頃四人とも、群馬県の山中で素晴らしい肥料になってるだろうよ!」

「・・・・・・オレたちも、ヘマしてそうならねぇようにしたいとこだな」


 矢牧原と神田は、タバコの煙を吐きながら、そんな話をしている。


 

 * * * * *



「「「「「 ごぉらぁ! おるぁ! くらあぁッ! どぁりゃぁ! 」」」」」


 男たちの怒声が四方向サラウンドで飛び交っている。その音声の中央には、優璃がいる。

 矢牧原と神田は余裕でその様子を見ながら、タバコを吸っている。

 しかし、次第に、男たちの怒声が少しずつ小さくなっているのに二人は気付いていない。


「・・・・・・とあぁあああああああーっ!」


 騒ぎの中央から響いてきたのは、優璃の気合いだ。その気合いの声と共に、空気を切り裂くような音や鈍く重い打撃音、ムチのしなるような破裂音などが同時に鳴り響いた。

 その声と音の余韻が引くと、構成員の男たちがどしゃりと四方へ倒れた。いつしか、残った男たちは優璃の周囲に八人だけ。その光景に、矢牧原と神田は「なんだと!」と驚き、目を見開いた。


「はぁー・・・・・・っ! ふうぅっ! さぁ! まだやる気? 私は一切の容赦はしないからねっ!」


 残った男たちは、神田の「とっとと行けよ!」という声で、優璃へ一斉に殴りかかった。

 優璃はまず、くるりと向きを変えて後ろから迫った男二人を正拳と前蹴りで迎撃。すぐにその男二人を盾にするようにして、さっとその後ろに移動。すると、それを両手で突き飛ばし、自分の視界に全部の相手が入るような位置取りをして、構え直した。


「(高校生の頃・・・・・・小笹先生が教えてくれた多人数相手の戦い方が、役に立った!)」

「女一人相手に何手こずってんだ! おぅゴラァ! はやくぶっ倒せってんだ!」


 矢牧原の怒声で、男たち八人は優璃へ次々飛びかかる。

 優璃は一人目の男が放ったパンチを受け流すと同時に、男の顎先を裏拳打ちで打ち抜いた。

 白目を剥いてずるりと男が崩れ落ちるより早く、二人目と三人目の男のキックをかいくぐり、ばしんと強烈な足払いを仕掛けた。足を刈られて宙に浮いた男二人の脇腹へ、優璃は高速の正拳突きを四発お見舞い。地面に落ちた男二人はそのまま昏倒。

 四人目の男と五人目の男は、アメフトのような動きで優璃の左右から攻撃。優璃は拳で左の男の金的を叩き、すぐに至近距離からの鉤突きを脇腹へ放って倒した。右の男は足を蹴ってきたが、優璃は片足をひょいと上げて躱し、男の鼻へ裏拳打ちを入れ、崩れたところへ左右の拳による双手突きを捻じ込んだ。右の男も、その突きによって倒れた。


「(ナイファンチの形の動きが、役に立った! ・・・・・・あの幹部の男二人を入れて、あと五人!)」


 優璃は、腕をぐるんと回して、気合いを入れ直す。

 矢牧原と神田は「素手じゃ無理だ! 抜け!」と指示。残る三人の男は、腰元からぎらりと光る匕首(あいくち)を出した。刃渡り五十センチメートルはあろうかという短刀だ。


「(・・・・・・まずい。三人とも中型の刃物だ。私の手元には、武器がない! どうしよう!)」


 優璃はその匕首を見て、数歩下がる。男三人は、匕首を向けて数歩近づく。

 その時、優璃の後ろから、靴の音が少しずつ響いてきた。

 生温い夏夜の風が、優璃の首元を抜けてゆく。靴音は、かつりこつりと、近づいてくる。


「(え! まだ後ろにもいたの? ・・・・・・前には刃物を持った三人がいるし・・・・・・)」


 後ろの足音に一瞬気を取られた優璃。それを見逃さず、三本の匕首は一斉に優璃との間を詰めて迫ってきた。


「あっ! しまったっ!」


 優璃が視線を戻した時には男たちの兇刃三本が、優璃の胸、腹、下腹部へ一斉に向かっていた。


「・・・・・・薩摩眼示流剣術、二之型(にのかた)っ! 横薙(よこなぎ)一文(いちもん)()()りっ!」


 突如響いたその掛け声と共に、兇刃は光る破片となって砕け散り、男三人はどさりと昏倒。

 神速のようなスピードで優璃の目の前に踏み込んできた人物は、荒削りな木刀の先端を倒れた男たちへ向け、芯の通った隙の無い姿勢のまま、優璃へにこっと微かな笑顔を見せた。



 * * * * * 



「ずいぶんと大変な事態になってるね、常盤氏!」

「つ、月花っ!」

「一週間、福島との県境の山中で修行をしてきた帰りなのだ。・・・・・・久々にこの駅で降りたら、こういうことになっていたなんてね」

「修行・・・・・・って? まさかあれから、剣術の?」

「話はあとだ、常盤氏! 見ただけで状況は察した。この悪党どもを成敗して、危機を脱しよう」

「月花! あの車の中に、箏音が捕まってるの! あそこにいる二人は、赤鉄連合の幹部級みたいなやつらだよ! この連中を倒して、箏音をまずは助け出さないと!」

「なに、鳴瀧氏が? ・・・・・・それはさらに、とんでもない悪事だね! 了解だよ、常盤氏!」


 月花は木刀を矢牧原と神田に向けて、構えた。


「なんだぁ、おぅゴラァ! どこの誰か知らねーが、しゃしゃり出てきてんじゃねぇぞぉ!」

「運が悪かったな。うちと常盤氏がタッグを組んだからには、もう、お前ら悪党に明日は無い!」

「るせぇッ! 漫画の見過ぎじゃねぇのかコラァ! ・・・・・・おい、てめぇら! もう構わねぇから二人ともブッ殺しちまえ!」


 神田が発破を掛けると、優璃が倒した男たち数名が、頭を振りながら起き上がった。そして皆、匕首をぎらりと出し、一斉に優璃と月花へ向かってきた。


「月花!」

「常盤氏!」


 優璃と月花は目を合わせ、お互いに無言で頷き、向かってくる男たちを迎え撃つ。


「とああぁぁあーっ!」

「ちぃいいいええぇっすとぉ!」


 優璃は刃物の軌道上から自分の位置を外し、相手の死角から下突きや手刀打ち、三日月蹴りなどを急所に叩き込んでゆく。

 月花は強烈無比な一撃を的確に相手の急所へ入れ、刃物を払い落とすと同時にその意識を刈り取ってゆく。

 わずか十秒程度で、男たちは完全に沈黙。それを見た矢牧原と神田は、「クソが!」と激昂し、箏音を押し込んだ車から通常の日本刀よりも柄がずっと長い、不思議な形状の刃物を取り出した。

 優璃が「あれ、薙刀?」と言うと、月花が「いや、違う」と返す。

 月花は「あれは長巻(ながまき)だ!」と言うと、優璃は「何それ!」と返す。


「けっけっけぇ! 同じ轍は踏まねぇぜ! この長巻がありゃ、距離を取って遠くからてめぇらをブッた斬れるってわけだぁ!」

「おぅゴラァ! 赤鉄連合に喧嘩売ったからにゃあ、もう、死ぬ運命しかねぇぞゴラァッ!」


 神田と矢牧原は、長巻のすらりとした刃を優璃と月花へ向ける。


「(ナイフや匕首より、ずっと大きく長い! どう戦えば・・・・・・。・・・・・・でも)」

「(・・・・・・長巻、か。話に聞いたことはあったが、実物を相手するのは初だ! ・・・・・・だが)」


 長巻を前に、戸惑う優璃と月花。だが二人は、「ある何か」を察していた。


「けっけけけぇ! 今日は死んだぞてめぇら! いくぞオラアァ!」


 矢牧原よりも早く、神田が長巻を振り回して襲いかかってきた。

 長巻は日本刀よりも柄が長い分、斬撃距離の範囲に優れる。薙刀よりは小回りが利く武器ではあるが、鋼の刀身を持つゆえに、基本的に日本刀と同等以上の重さである。


「オラァ! オララァ! どうだオラァ! けっけっけっけぇ!」


 凶器じみた笑顔で、神田は長巻を振り回す。そこへ矢牧原も加わって、二人で同じように振り回し始めた。優璃と月花は、縦、横、斜めに飛んでくる長巻の刃を、ひたすら躱し続けている。

 神田は「手も足も出ねぇかぁ!」と嗤う。矢牧原も「後悔しても遅いぜ!」と嗤う。

 だが、神田と矢牧原が優位に立っていた時間は、ものの五分程度であった。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・・。んだよコレ! クソ重くなってきやがった! ふざけんなよ!」

「ど、どうなってんだゴラァ! ・・・・・・はっ、はっ、はっ・・・・・・。・・・・・・お、重くなってらぁ」


 二人はみるみるうちに疲労が溜まり、もはや、長巻を振り回すどころではなくなっていた。

 ひたすら長巻の刃を躱し続けてきた優璃と月花は、同時に「まぁ、そうだろうね」と呟く。


「あれって薙刀よりは軽いけど、日本刀より長いし重いんだよね、月花?」

「そうだ。うちらのように、きちんと武の道で鍛えている者以外が重い武器を適切に扱うと、どうなるかは目に見えてるね。・・・・・・ねぇ、常盤氏?」

「そうね。素人の扱い方で重い武器を振り回せば、あっという間に疲れて動けなくなるよねー」


 神田と矢牧原は、息を切らせて長巻をがらりと地面へ落とした。

 それを待っていたかのように、優璃と月花は目をきらりと輝かせ、「覚悟しろ!」と同時に叫んで一気に踏み込んだ。

 優璃の蹴りが、神田の意識を断ち切る。月花の打突が、矢牧原の意識を刈り取る。

 渾身の一撃をそれぞれ叩き込まれた神田と矢牧原は、あっけなく、倒された。


「武器はそれ自体に殺傷力はあるけど、扱う人が素人だとロクな道具にならないんだよ」

「だから、武術や武道っていうものがあるのだ。名のある刀匠が拵えた長巻だろうけど、半端者のヤクザが扱える代物ではないってことだ」


 泡を吹いて倒れている二人へ、優璃と月花はそう言い放ち、ワゴン車の中の箏音を救出した。


「箏音、大丈夫っ?」

「鳴瀧氏!」

「ユ、ユリーっ! ツキカーっ! こ、恐かったぁーっ!」

「良かったぁ! もう、悪い奴らは二人で倒したから大丈夫だよ!」

「うちは、警察に連絡する。・・・・・・しかし、とんでもないことをする奴らだな、赤鉄連合は!」


 月花が警察に連絡すると、三分後、パトカー数台が到着。四十人以上の暴力団員が山のように転がっているその光景に、警官たちは驚愕し、しばらく固まっていた。


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