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苦手な方はご注意ください。

和風ファンタジーシリーズ

鬼火と陰獣

作者: 夏川冬道

 その日の誓原村は朝から雨が降っていた。強すぎず弱すぎずに降り続ける雨は陰鬱な雰囲気を醸し出していた。

 雨の中を行商人が村道を歩いていた。街へと旅路を急ぐ足取りは重く表情は暗い。

「まったく嫌な雨だ」

 雨に尽きて思わず悪態がこぼれた。降りしきる雨が彼の心を苛立たせていた。

 早く町にたどり着きたい、そんな思いを抑え、行商人が一本杉に差し掛かった時だ。行商人の視界に奇妙なものが映り込んだ。ふわふわと火の玉が浮かんでいたのだ。

「……鬼火か?」

 行商人が足早に通り過ぎようとするが、火の玉が次々と現れ行商人は火の玉に包囲されてしまった。まさか、妖術使いの仕業か?

 そう思う暇もなく行商人は火の玉に襲いかかった!

「アイエエエエ!」

 行商人の悲鳴が村道に響き渡った!


◆◆◆◆◆


 雨上がりの誓原村、焼死体に野次馬が集まっていた。

「周囲に火の気配はなく、行商人の身体が燃え上がったていた」

 村役人の山岡が事件の状況を説明した。

「これは妖術使いの仕業だな」

 もう一人の村役人は妖術使いの仕業と断言した。

「しかし、妖術使いがなんの目的で行商人を殺害したんだ?」

「俺にはわからん……」

 二人の村役人は首をひねるばかりだった。

「村人が集まっているが、なんの騒ぎですか?」

 そこに旅の巫女が通りかかってきた。

「実は酷い殺しがあって、全身を炎で焼かれたのですよ」

 山岡が事件を説明した。

「火の気のなさそうな街道で焼死体?」

 旅の巫女は訝しんだ。

「どうも妖術使いの仕業らしいが、あなたは妖術使いに何か心当たりはないですか?」

「妖術使いに心当たりはないですけど、ひよっとしたらこの村に潜んでいるかもしれませんね」

「私もこの村に赴任してきて長いが妖術使いなど聞いたことはない」

 村役人は困ったような表情をした。そこに隣の街から同心が荷車を持ってやってきて行商人の焼死体を引き取りにやってきた。その様子を眺めながら巫女は考え込むのであった。


◆◆◆◆◆


 ――神楽杜神社。

「謎の焼死体ねぇ」

 旅の巫女……カヤの説明を聞いた神楽杜の巫女ミズナは興味津々な顔をした。

「妖術使いの仕業にしてもどうして行商人を狙ったのかな? 誓原村に何か秘密があるのかな?」

 ミズナは誓原村の秘密が気になるようだ。

「さぁ……私もこの辺のことは疎いのでよくわかりません」

「じゃあ、様子を見に行ってくるね!」

 ミズナは誓原村に調査に向かうようだ。

「大丈夫ですか?」

「カヤちゃん……心配しないで」

 ミズナの言葉とは裏腹にカヤの心中は不安でいっぱいだった。


◆◆◆◆◆


昼下りの誓原村。怪事件が数日前に発生したのに平和だった。

 村人には怪事件の記憶は生々しく行商人の死体の謎を噂しあっていた。

 そんな誓原村にやってきた謎の巫女、ミズナだった。

 ミズナは誓原村の様子を探るためにウロチョロし始めた!村人は怪訝な表情をしてミズナの行動を見守っていた!

「巫女様……こんなにフラフラしてどうしたかの?」

 村人の老婆が見かねてミズナに話しかけた!

「先日起きた行商人焼死事件のことだけど……最近、変わったことはなかった?」

 老婆は少し考え事をした。

「ウーム、特に村に変わったことはないが、村外れの廃寺にネズミが住み着いている気配がするのが気になる」

「ネズミですか?」

(ネズミ……流石に無関係だよね?)

 ミズナは老婆に礼を言うと、村の庄屋の方に歩き出した。


「巫女様……なにかご用事ですかな?」

庄屋はミズナにうやうやしく挨拶をした。

「実は街道の焼死体が発見された日から数日が経過したけど、あれから変わったことはない?」

「変わったことですか?」

 庄屋は変わったことについて考えた。

「変わったことといえば、役人が来てからせがれの庄左衛門が怯えた表情を見せるようになったことが気になりますな」

「怯えた表情?」

「まるでなにかに追われているような表情をするのです……まさか、あの怪死事件に関わりがあるのでしょうか」

「それは気になりますね」

「それに庄左衛門は深夜にふらりと屋敷からいなくなるんです……どこで何をしているやら」

 庄屋から聞いた情報を聞いたミズナはうんうんと頷いた。

「庄屋さん、情報提供ありがとう!」

 ミズナは庄屋に挨拶をすると庄屋を出た。

「庄左衛門の行動がきになるね……少し探りを入れようかな?」

 ミズナは今後の方針を決めた。


◆◆◆◆◆


 真夜中の誓原村。庄屋の屋敷から庄左衛門がこっそりと抜け出してきた。その表情は青ざめていて生気がない。気づかれないように村外れの廃寺まで歩くと周囲を非常に警戒した。

「庄左衛門、入ってこいよ」

 闇の中から声をかけられると恐る恐る廃寺に入った。

「庄左衛門、キミは一体何を恐れている……私とキミは深い絆で繋がっているじゃないか」

「昼に巫女が来たんだ……誓原村に何か変事が起きてないか尋ねてきた」

 庄左衛門の言葉を聞いた闇の声は、なんだそんなことかと言うような雰囲気で笑った。

「巫女? どうして巫女がそんなことを聞くんだ?」

「先日の行商人焼死の件だよ……きっとお前のことを巫女は探しているんだ」

 闇の声はなんだあのことかと言った調子で笑った。

「庄左衛門、キミは心配性だね……たかが巫女ごときが私をどうこうはできないよ」

 その時、廃寺の入口に木の枝か何かが折れた音が響いた。闇の声と庄左衛門は沈黙した。

「誰かいるのか?」

 闇の声は冷酷な口調で問いかけた。

「潜入がバレてしまっては仕方がないね」

 そう言うと物陰からミズナが現れた。

「巫女……私のことをつけてきたのか」

 庄左衛門はミズナに問いかけた。

「庄左衛門のことが気になってね……お陰さまで犯人がわかったわ」

 ミズナは闇の声がする方向に睨みつけた!

「盗み聞きとは悪い巫女だ……殺してあげましょう」

 冷酷な声が響き渡ると、廃寺の闇の向こうから恐ろしい化け猫が姿を表した!

「化け猫! あなたが行商人を焼き殺した犯人だったのね!」

 そう叫ぶとミズナは呪符を構えた!

 化け猫はその行動は予測済みだと金色の瞳を輝かせた!

「妖術……金縛り」

 するとミズナの身体が強い力で押さえつけられたかのように動けなくなった!

「くっ……動けない!」

 身体を必死に動かそうとミズナはもがいた!

「クスクス……無駄ですよ。この金縛りは強力にかけていますから」

 化け猫は陰湿に笑った!

 ミズナはこのまま化け猫に倒されてしまうのか!?


「……くっ!」

 庄左衛門は唸り声を上げると化け猫に体当たりを仕掛けた!

「庄左衛門……血迷ったのかい!?」

 化け猫は驚愕で目を見開いた!

「お、俺はお前のことを恐れて従っていた……でも今日で終わりだ!」

 庄左衛門は叫んだ!

 しかし、ミズナはなかなか金縛りを抜け出させないでいた! 化け猫の妖術が強力だからだ!

「ぐぬぬ……なんとか抜け出さないと」

 ミズナはもがいた!

「庄左衛門……私に従っていれば金も名誉も与えてあげるというのに!」

 化け猫は庄左衛門に説得を試みる!

「化け猫に頼って得た名誉などいらない!」

 庄左衛門は廃寺の地面に落ちていた木材で化け猫を殴りかかった!

「ニャニャーッ!」

 化け猫は殴られた衝撃で怯んだ!

「金縛りが緩んだ!」

 ミズナはその隙を逃さず呪符を化け猫に投擲した!

「ウニャーッ! 呪符の力が強い!」

 呪符に込められた霊力に化け猫は苦しむ!

「くっ! 覚えていろ!」

 化け猫は叫んで逃げていった!

「化け猫が逃げていったわ!」

「ハァハァ」

 庄左衛門は息を切らしていた!化け猫への反抗が大変な勇気のいる行動だったことを物語っている!

「庄左衛門、早く廃寺を出るわよ」

 ミズナは庄左衛門に脱出を促した。

 ミズナが廃寺を出ると星空が瞬いていた。遅れて庄左衛門がフラフラと廃寺から出てきた。

 ミズナは疲労困憊の庄左衛門を見て気遣おうとして絶句した。

 鬼火が廃寺を包囲しているのだ!

「化け猫め! 証拠隠滅するつもりね!」

 ミズナは慌てて庄左衛門の手を引いて走った!後ろでは廃寺が鬼火によって黒煙を上げていた!

「直に村人が廃寺に駆けつけるわ……急いで庄屋に戻らないと」

 ミズナと庄左衛門は全速力で走って庄屋まで戻った。そこには庄屋が心配そうな表情で立っていた。

「庄左衛門……こんな深夜にどこを歩いていたんだ……父上は心配していたんだよ」

「父上……父上……」

 庄左衛門は父上の顔を見たのか膝から崩れ落ちた。

「詳しい話は後で……誓原村の問題は解決しました」

 そう言ってミズナは微笑んだ。

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