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Seasons / シーズンズ

Ex. 帰

 小学生の頃の話なんですけど。


 私の地元は…バスも電車も大き目の国道もあったんで、ど田舎、ってほどではないんですけど…ある地方都市の、中心の都市部からだいぶ離れた市で。

 その中でも私の住んでいた町は山際…って言うんですか?大き目の道沿いに、すぐ低めの山が迫ってるような土地だったんです。

 広めのバイパスを外れたら、そこはもう田んぼか、大きな川か、山か…みたいな感じで。私が住んでいた家も、夏の夜になると遠くのバイパスを通るトラックの走行音よりも、裏の方にある田んぼから響くカエルの鳴き声の方がよく聞こえる…そんな環境でした。


 だから学校も…市を縦断している大きな川のすぐ近くに私の通っている学校はあったんですけど、周りは本当に何にもなくて。学校の前には川に沿った広めの車道があるんですけど、そこの車通りもかなり少なくて。学校では一応「目の前がデカい道だから車に気を付けろ」みたいな指導をされるんですけど、あまりにも車通りが少なすぎて、事故が起こったことは殆どないっていう。少なくとも私が在学していたときには一回も事故は起こりませんでした。

 あと、校庭の裏側がすぐ山だったんですね。よく覚えてるのが、その裏の山から校庭に鹿が降りて来てちょっとした騒ぎになる、っていうことが六年間の小学校生活のうちに四回ぐらい起こって。その度に授業が急に自習になって、先生方はみんな校庭に出ていって、網とかを広げて鹿を追いかけ回すんですよ、山の方に戻すために。

 その度に教室は異様に盛り上がっちゃって。たくさんのいい年をした大人、しかも普段は私たちに真面目な顔で何かを教えている先生たちが動物を追いかけ回す、って構図が子供心に面白かったんでしょうね。私は男子に混ざって一緒に鬼ごっことかやってたタイプだったんで、その時は毎回ベランダで男子と一緒に先生を大声でヤジってましたね。今思うと酷い子供だな、って思うんですけど。

 そういう…良く言えば自然に囲まれた場所、悪く言えば町はずれの僻地みたいな場所、そんな立地に学校がぽつんと建っている。


 そういう場所って、昼間とかは全然良いんですよ。虫取りして遊んだり、山に登って秘密基地を作ったりで遊びには事欠かないし。さっきも言ったように男子と一緒に遊んでたんで、夏休みとかは本当に楽しかったですよ。川も綺麗で、釣りも出来ましたしね。

 問題は夕方とか夜なんです。

 …暗いんですよ。いちおう街灯は立ってるんですけど、その街灯が…いつ設置したんだよこれ、ってツッコみたくなるレベルで古くて。実際に周囲が暗くなってみると、本当に頼りないレベルの明かりしか灯らない。しかもその明かりに虫がいっぱい集まってて、ものすごい近寄りがたい雰囲気になってる。で、街灯の本数もそんな多くないから、結局ただただ暗い道を歩かされることになる、っていう。

 もちろん不審者とかがいたらどうしよう…みたいな、そういう現実的な怖さもあるんです。…あるんですけど、実際にはもっと根源的な恐怖の方が先に来るんです。大人になって上京してからは純粋な暗闇ってものをあまり実感しなくなったんで改めて思うんですけど、自然の暗闇って本当に怖いんですよ。なんか、理屈じゃない恐怖があるんです。本当に単純に、純粋に、「怖い」という感情が湧き出てくる、そういう感じがあって。この訳の分からない空間の中だったら、道理を外れたなにかが起こるんじゃないかという、嫌な想像をしてしまう、というか。いや、当時は子供だったんで、そんな難しいこと考えてたわけではないんですけど。


 それで…あれは確か五年のときですね。なんでかは覚えてないんですけど…すごい帰りが遅くなっちゃったんですよ。小学生にしてはかなり遅い…午後六時とかに帰ることになっちゃって。

 あー…、なんで覚えてないかって言うと…まあ…男子と一緒に遊んでるようなタイプってところで察して欲しいんですけど、あんまり真面目ではなかったんですよね、私。だから提出物を全然出してない、みたいなので居残りをさせられた経験がもう、何回もあって…だからなんで帰りが遅くなったかって言われたら…たぶんそういうことだったんだろうけど、もう居残りが常態化しちゃってて、その時なんで学校に遅くまで残ってたのかってことを具体的には思い出せないっていう…情けない話なんですけど。


 でも流石に午後六時まで残ってたってのは…なかなかないことで。その日以外はどんなに長時間居残りをしても、五時半ぐらいには帰ってたんですよね。というか、冬だったら五時半でも真っ暗ですよ。だから帰りがそのぐらいの時間になっちゃったら、先生に家に連絡してもらって親に迎えに来てもらうこともあったんですけど、そのときはたまたま両親が仕事の都合で夜遅くまで帰ってこない日だったんですよ。居残りさせられてた理由は思い出せないんですけど、「あの道ひとりで帰るのかよ、やだなあ」って思ってたんでそのことはすごいはっきり覚えてます。

 季節的にも…確か十月とかだったんで、もう外は完全に真っ暗なんです。学校の下駄箱に上履きを突っ込みながら、これ夏だったらまだ明るいのになあ…って悔やんだのもはっきりと覚えてますねえ。外が暗いから学校の入り口の引き戸のガラスに自分の顔がはっきりと反射してたんですけど、その自分の顔が本当に嫌そうな顔してて、思わず一人で笑っちゃったことも覚えてます。

 実は一緒に居残ってたやつも何人かいたんですけど、全員反対側の方に住んでる奴で、なので途中まで一緒に帰るってことも出来なくて。校門のところで別れる時に、自分の家が建ってる方角を呪いましたね。あとついでに親の仕事も呪いました。

 …こうやって話してみると、居残りさせられた理由以外はだいたい覚えてますね。…本当にろくでもない生徒だったことが分かって恥ずかしい限りなんですけど…。


 それで学校を出て、歩いてもう…五分かそこらかしないうちに、これって思っていた以上にヤバいんじゃないか、って気付いたわけです。

 それまでも居残りで夕方の結構暗い時間帯に通学路を歩くことはあったんですけれど、その日はもう…全然違いましたね。ただでさえ街灯の明かりも弱いのに、街灯と街灯のあいだの全く光の無い地帯に入ると、本当に周囲がどういう風になっているのかわからないぐらい真っ暗なんですよ。

 だから急ぎ目に…早歩きをしたいと思うんですけど、何せ暗闇の恐怖が凄すぎて、体が上手く動かないんです。体力には自信があったんで、なんだったら走って帰ればいいやと思ってたんですけれど、これは…正直かなり気合を入れて体に力入れないと走り出せないぞ、ちょっと甘く考えていたな、みたいなことを子供なりに考えましたね。

 とにかく、少しでも前に進むことを優先しようと闇雲に歩き続けました。ただ…歩き続けたところで、街灯の間隔ぐらいでしか自分の進み具合を把握できないのも…精神的に本当に辛くて。昼間だったら周りの風景で把握できる情報も殆ど目に入らないんで、ああ、私はこのぐらい進んだんだな、って言うのが全く分からない。住宅街というか、家が建っているところに行くまでは、そういう明かりが街灯しかない川沿いの道を…少なくとも数百メートルぐらいは歩かなきゃいけなくて。ずっと川の流れる音が聞こえてくるのも、なんか変に無音であるよりもすごい嫌な感じがして。

 …正直な感想を言うと、これ、私、本当に帰れるのか?って。いや、帰らなきゃいけないし、よほどのことがない限り普通に帰れるんですけれど。でも、もうこのまま真っ暗中を歩いてもどこにも着かなくて、家に帰れないんじゃないか、っていう。


 そういうところ歩いていると、図書室で読んだ学校の怪談とか、この前テレビ番組で見た怖い事件のこととかいろいろ思い出しちゃうんですけど、もう脳裏に過ぎるぐらいのレベルでなんとか振り払って、なるべく変なことを考えないようにしながら無心で歩き続けて。

 じゃないともう、これは暗闇にやられると。これはもう私VS暗闇の戦いなんだ、と。そんな風に無理矢理自分を盛り上げて、なんとか前に進んでいたんですけど。

 でも…どうしても歩いているときに、定期的に横を向いちゃうんですよね。たぶん…なんか、今の自分の状況が分かるなにかが見えるんじゃないか、という…無意識のうちの期待みたいなものがあって。数十秒毎ぐらいの間隔で、前じゃなくて横を見てしまう。そんな感じでしばらく歩いてて、何回目かとかは分からないんですけど、また横をふ、って見たときに。


 何かがあるのが見えたんです。

 その時はそれが何かは分からないんですよ。ただ、暗闇の中に、明確に何かがあるのが見える。

 そこで初めて足が止まって。久々に”見える”なにかがあったという事実に、思わず立ち止まってしまったんですね。で、それをじーっと見てしまったんですよ。すると今までもずっと暗い中にいたということもあって、目が慣れてきて。それが何なのか、だんだんわかってきたんです。


 自動車でした。

 普通の乗用車。真っ暗な中でもはっきり見えるってことは、…たぶん白かったんですよね。

 それで、ああ、車が停まっているのか、って思ったんですけど。


 一瞬後に気付いたんです。おかしいんですよ。そこ、車が停まれる場所なんてないんです。

 まず、その道って川の反対側は山があって。さっき「校庭の裏はそのまま山になっている」って言ったじゃないですか。そこから鹿とかが降りて来て、っていう。その山の裾野というか、そういう…草とか木とかが生えてる平らな空間が少しだけ広がってて、そこから先はもう山の斜面なんです。

 それで、車があるのが…視界の中で言うと、ちょっと上ぐらいのところで。位置的にどう考えても山の斜面が始まっているところなんですね。でも山のその部分って道とかがあるわけじゃないから、車を停めておくってことが、まず物理的に…不可能ではないかもしれないけれど、かなり難しいんですよ。一応うちの土地って林業が盛んなので、そこの山の木も結構伐採されていて。だから木がワーって生えてて全く登れない、ってことは無いんですけど、それでも全く道の無い山の斜面に車を停めるってのは…まあ実質不可能ですよね。

 …というか、それ以前にその山側の場所って、歩道沿いに金属製の…ガードレールみたいな…なんて言うんですかね、…柵がずーっと続いてて。だから車が入れる場所なんかないんですよ。


 それでもう…え?え?マジで怖い!って若干パニックみたいな状態になっちゃって。

 そしたら…逆にその車をじーっと見ちゃったんです。頭のどこかで、こんなに暗いから単なる見間違えなんじゃないか、きっと見間違えだろう…という風に考えて、自分を納得させるためにその車をより凝視しちゃう、っていう悪循環に入ってしまって。でも現実的には、じっくり見れば見るほどどんどん目が慣れてきて、そこにある車の形がはっきり見えてくるわけです。

 最初は「あ、車があるな」程度の見え方だったのが、もう…車が詳しい人なら車種が分かるんだろうな、ぐらいの見え方になってきて。それでなんとなく気付いてしまった、というか…なるべく気付かないようにしていたことが分かってきちゃったんですけど、その車が…私が小学生の頃の話だから、これって二十年前ぐらいの出来事なんですけど、当時の基準からしても明らかにその車の型が古いんですよ。九十年代とか八十年代の車ってこんな感じだよね、みたいな。うちの近所に昔買った車に長く乗ってるおじさんが住んでて、あのおじさんが乗ってる車と同じぐらいの古さだよな、みたいなことも考えてしまって。

 相変わらずその車から目が離せなくなっていると、…だんだん車内の様子も見えてくるんです。いや流石にそれはおかしくない!?ってなって。いくら目が慣れてきたからって、灯りに照らされているわけでもない、暗闇に停まってる車の中までは流石に見えないでしょう。それでうわー怖い!ってなってるんだけど、怖くなればなるほど体が動かなくなって、視線も外せなくなって。そうしている間にも、どんどん車の中がどうなっているのか、というのが窓越しに見えてくる。


 運転席に人が座っていたんです。

 髪の長い女性でした。

 あ、女の人が座ってる、ということを認識した瞬間に、その女性がこっちを向いたんです。

 …なんていうんですかね、例えるならば、友達の話を聞いているときに、なんとなく軽く作っている表情のような。そんな曖昧な笑顔で。

 でも、間違いなくはっきりと、私を見ていました。


 その瞬間、自分でもめちゃくちゃ驚いたんですけど、何かに弾き出されたように足が動いて。ヤバい、逃げなきゃ、と思う前に体が動く感じというか…あんなに反射的に体が動いたのはたぶんあれが最初で最後ですね。そこからもう、何も考えず…というか何も考えられなくなって、とにかくハチャメチャに走りました。そこらへんけっこう記憶も飛んでて。

 気付いたら、その暗い道を抜けたところにあるコンビニの前でへたり込んでて。もう…意識がさっぱり飛んでたんで、あれ?いつの間に私ここまで来てたんだ?って思ったんですけど。そしたらそのコンビニのレジにいつもいるオーナーのおばさんが心配そうな顔で出てきて、大丈夫~?って声をかけてくれて。

「最初はただ転んじゃっただけなのかなって思ったんだけど、そこからずっと座ったままで動かないから大丈夫なのかなと思って…」

 って言われて。よくよく話を聞いたら、これ私自身は全っ然思い出せないんですけど、三分ぐらいずーっとその場所にへたり込んでたらしいんですよ。

 …それでまあ、変な車があって!みたいなこと言ってもまず信じてくれないというか、おばさんを混乱させちゃうだけだろうな、みたいなことを考えられるぐらいには冷静になっていたので、

「あ、えーっと、大丈夫です。ちょっと走って疲れちゃっただけなんで…」

 って答えたところで、そういえばあんなに走ったのにそんなに息切れてないな、ってそこで初めて気付いて。ずっとそこでへたり込んでたから、もう既に呼吸が整ってたんでしょうね。

 そしたらそのオーナーのおばさんが、これ飲んで、ってスポーツドリンクをくれたんですよ。…まあ一応の礼儀で何ターンか遠慮したんですけど、正直なところ内心では「お、ラッキー!」って思って。結局、そのスポーツドリンクは素直に有難く頂いて、それを飲みながら家まで帰りました。


 …で、これで終わったらまあ…普通に怖い話、で終わりなんですけど。なんかこの後に、私自身もよく分からないことがあって。


 その出来事から二か月ぐらい経って、冬になって…二学期の終わりの方、冬休みの直前ぐらいだったと思うんですけど。

 学期末なんでいろいろと出さなきゃいけないものがあって、それを出すために職員室にいたんです。あの体験をした日以降、なるべく長めの居残りをしなくていいように少し気を付けるようにはなったんですけれど、それでもまあ…限界はあるというか、だらけ癖が治るまでには至らなくて。結局その後も居残りの常連になってました。真っ暗になってから帰ることが無いように量をセーブするようになっただけだったっていう。子供ってそういう変なずる賢さありますよね。

 それで、終わった提出物を出そうと思って職員室に行ったら、その日は生徒指導を担当している先生方が会議をしているとかで、提出物を渡さなきゃいけない先生が丁度その会議に出席してて不在だったんです。私が懐いていた国語の先生がそういう風に教えてくれて、もしアレだったら私が渡すよ?とも言ってくれたんだけど、ちょっと厳しい先生だったんで、いや、私が直接渡したいんです、このまま待ってていいですか?って言って。

 そしたら…職員室の隅に学校の外から来たお客さんをもてなすための空間みたいなのがあるじゃないですか?ソファとテーブルが置いてあって、っていう。もうすぐ会議終わるはずだからそこに座ってていいよ、って言われたんで、そこで待つことにしたんです。うっわソファふかふかやんけ!こんな良い椅子が学校にあんのかよ!みたいな。

 それで暇なんで、手持ち無沙汰になって周りをぼんやりと見てたら、すぐ近くの棚に歴代の卒業アルバムが置いてあることに気付いて。さっきの国語の先生に声をかけて確認したら、見ていいよって言われたんで、まあ暇つぶしにはなるだろうと思って適当に何冊か引き出して、ソファに座ってパラパラ見てたんです。うわ、教頭先生若いな~!みたいな。あとファッションに時代性がモロに出るんで、そういうところも面白かったりして。この頃の先生の服、みんな肩が凄いな~!っていう。昔のスーツってすごい肩パッドが入ってるじゃないですか。それ見ておもしろ~!みたいなことをやってたんです。

 それで、別のアルバムを手に取って、パラパラ~ってページをめくってたら。


 アルバムの中の写真に、あの車の運転席に座っていた女性がいたんです。


 もう…一気に血の気が引いて。さすがに二か月ぐらい経ってたんであの日の出来事はほとんど忘れかけてたんですけど、一気にこう…バーッとフラッシュバックして。え、なんで!?なんであの人がここに映ってるの!?っていう。

 その女性が映っていたのは…学校の行事のページで、たぶん遠足に行った時の写真だと思うんですよ。ランチョンマットの上で五人ぐらいの男子が、お弁当を食べながら立っておどけてる写真で。その後ろに他のグループとか、もう食べ終わって遊んでる生徒とか、あと先生とかが映り込んでて。その中に紛れ込むような形で、例の女性が立っているんですよ。あの時と全く同じ、曖昧な笑顔で。

 しかもその女性が…明らかにそのお弁当を食べてる男子達に近い位置に立ってるんですよ。ふつうに考えたら、このクラスの先生かなんかなんだろうな、と思うようなところにいる。

 え、もしかしてこの人って昔学校にいた先生だったのか!?と思って他のページを確認してみたんですけど、クラスの顔写真がバーッて載ってるページを確認してもクラス担任の中にはその女性はいないし、他のページの…例えば遠足以外の行事の様子を映したページとか、集合写真が載ってるページなんかも確認したんですけど、どこにもその女性は映っていなくて。本当にそのページの、その写真だけに写っている。

 ええ…って思って、背表紙を見ていつの卒業アルバムを確認したら、もう…その当時から十年以上前の卒業アルバムで…十年以上前のアルバムに映っている状態と、二カ月前に見掛けたときの顔が全く一緒って…あり得ないだろうと思って。

 そしたらその時、ちょうど提出物を渡そうと思ってた先生が会議から戻ってきたんですよ。提出物を出してないのに随分と余裕じゃねえか~なんて私をからかいながら。で、その先生がけっこう長い間学校に在籍してる先生だったんですよね。少なくとも十年以上は在籍していたはずで。何よりその遠足の写真を集めたページの他の写真に、その先生も写ってたんです。だったら何か知ってるんじゃないかと思って、女性のことを訊いたんです。そのページを開いて、写真を指差して、

「これ、なんか…他のページに映ってない人が映ってるんですけど、誰ですか…?」

 って。そしたら。

「…え、誰だこれ?」

 って怪訝な顔で言うんですよ。もう、本当に怖くなっちゃって。その場にいた人が分からないってことは…もう…普通じゃないことが起こってるって確定しちゃってるじゃないですか。しかもその先生が、他の勤続年数の長い先生何人かに声かけて、その写真を見せはじめたんですよ。お前これ誰か分かる?とか言ってて。

 で、見せられた先生方も

「いや…え、これ誰?」

 とか、

「うわ、何これ?何で今まで気づかなかったんだろ」

 みたいな感じのリアクションしてて。それで徐々に職員室全体がざわつき始めたんですよ。

 もうめちゃくちゃ怖くなっちゃったんで、ひとまず提出物を渡して私は帰ったんですけど、廊下に出てからも職員室がざわついてるのが聞こえてて…。


 その後何かが起こったとか、またもう一回その女性を見たとか、そういうことは一切ないので、この話はこれで終わりなんですけど。

 …ただ、ひとつ気になっていることがあって。

 実は学校の遠足って、その…私が自動車に乗った女性を見た、学校の裏にある山の頂上に展望台のある自然公園があって、そこに行ったんですよ。少なくとも私の時は。

 もしもあの卒業アルバムに写真が収められていた遠足の行き先も、私の時と同じあの山の自然公園だとしたら…あの女性って、ずっとあの山にいたってことなんですかね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] そこにただ居るだけの幽霊、誰かが気がついて、初めて他の人間がそこに居た認識する幽霊。 存在感の無い人間は居ますが、基本目立ちやがりの幽霊でそれは尋常じゃないです
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