面倒くさそうな女王
「そこの君、そっこの君ぃ~!」
お面で顔を隠しつつも廊下から笑顔でリズム良く近付いてくるその人は、何か不思議な雰囲気を纏っている人だった。
困り顔の男はちょっと面倒くさそうに答える。
「あ...はい、なんでしょうか」
女は反応があったのが余程嬉しいのか、髪を手でかき分けて目を輝かせながら早口で語り出す。
「いやね、私、教祖さまやってるん...だ~け~ど~、入信してみない?いや怪しいと思う気持ちはわかる!わかるよ!だけどね、人を信じる事によって関係性が広がり、世界を変えられるんよ。おススメ、超おススメ。」
テンションが高いその女性は、煌びやかで重そうな服を着ながらも、軽々と手をバタバタさせていた。
男はため息をつくように答える。
「はぁ...私はあまりそういうものに興味がなくて...」
「ケチ、とっても気持ちよくなれる良いお店をしってるんだけどなぁ~?ウチに来てくれれば、教えてあげないこともないけど」
男は伏していた顔を少し上げ、食い気味に問いただす。
「き、気持ちよくなれる店...ですか!?それはいったい...?」
「えーっとね...つまり...あだっ!」
女は後ろから小突かれて頭を押さえる。その小突いた男がたんたんと喋り出す。
「姉さん、変な事はしないで。気持ちよくなれるお店、僕に聞かせて貰いましょうか」
男はしわ1つない清潔感のある服を着ており、それでいて理知的な印象を受ける。
小突かれた頭を丁寧にさすりながら、バツが悪そうに女が答える。
「もぅ~、もう少しで信者を1人増やせると思ったのに~。美味しいご飯屋さんを見つけたからそれを紹介しようと思ってただけなんだけどぉ~?だいたいさぁ~」
弟と思われる男が遮るように喋り出す。
「そこのお方、姉さんが迷惑をお掛けいたしました。この人はちょっと頭のおかしい人なので、あんまり真に受けないでください」
困り顔の男は軽くお辞儀をしつつも、不思議そうな面持ちで去って行った。
「ほら、姉さん。目を離した隙にすぐ居なくなるんだから。帰りますよ」
ふんっと言いたげな態度で姉と呼ばれた女は、困り顔の男が向かった逆側へ歩き出す。
目線を逸らしながら、弟と思われる男は続ける。
「姉さん...いや、女王...ヒミ様、こういった遊びは控えて頂かないと」
「えーと、確か明日は別の国との会食、次は...遠征、海の外へ行く予定ではないですか」
女王と呼ばれた女は人が変わったように愚痴をこぼす。
「外に出るのは面倒じゃ。わらわは平和の象徴なのじゃから、下手に動くとバランスが悪うなる」
「それはそうなのですが...」
男はしゅんとしてしまう。
女は、遠くを見るように上を向き、目を瞑って小声で呟く。
「しかし、そのバランスを保ったまま世界を変える事ができれば...」
自分に言い聞かせるように続ける。
(わらわがわらわを信じれば、世界は変えられる。そう、信じておる)
(そなた、わらわと星を見に行ってくれんかのう)
(合言葉は...隣の)