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妖精狂い  作者: 春香秋灯
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呪われた伯爵領01

 リリィに呪われた者は、かなりいる。僕たち五人は数少ない、呪いが解けた者だ。それでも、何がしら、妖精の影響が残っている。

 僕は左腕が変異していたため、左腕が時々、痛む。ただ、痛むだけなので、それほど不便はない。

 文筆家をしているマキシムは、両足の膝が変異した。綺麗に元に戻ったが、激しい運動をすると膝が痛むという。僕と同じ騎士志望であったが、膝の痛みに諦め、文筆家となった。

 新聞屋をしているノーイットは、目だけでなく、耳も変異していたようだ。時々、不思議な光景が見えたり、聞こえたりするので、それを使って仕事をしている。

 商人をしているケインは今のところ何かが体に不具合が起きているというわけではない。普通に商人していても、これがすごい、とか、これが不便、というものがないように見えるのだが、僕はなんとなく気づいている。ケインはたぶん、眠れない。いや、眠れるのだが、まとめて寝ている感じだ。徹夜してもすぐ仕事に行ってしまうので、眠れないのだろう。

 医者をしているサンデもまた、何か不便を感じている様子がない。ただ、恋人が自殺したことで、心が壊れた。恋人を救う過程を間違えたことを贖罪に、人の命を救う医者をしているというのに、医学の発展のために罪人を実験に使っている。そこに、罪悪感とかはまるでない。

 それぞれ、リリィに許されたのだが、罪を忘れるな、と妖精が言っているような異変を感じながら、贖罪の毎日を送っている。

 僕たちの体の変異なんて、実際、可愛いものだ、と思われるほどの事が現実にある。

 権威を笠に着て、低位の貴族の子息子女たちにリリィをイジメさせた伯爵令嬢は、領地含めて、酷いものだった。

 リリィの生家である男爵家を没落させるところまでは、伯爵令嬢も高笑いしていた。ところが、一週間もしないうちに、リスキス公爵家の茶会で高位貴族から酷い洗礼を受けることとなった。さらに、伯爵家の不正を国王に提出され、即、爵位を失うだけでなく、罪人の焼き鏝をされたのだ。本来ならば、この焼き鏝、伯爵本人のみのはずなのだが、学校での悪行がリスキス公爵から暴露され、伯爵令嬢まで罪人の焼き鏝を受けることとなった。

 その後、伯爵領は一時的に王国管理下に置かれることとなったのだが、領地は捨てられることとなった。

 元伯爵領では、原因のわからない病や、不作が起きたからだ。年中、天気が悪く、作物の苗を植えても次の日には枯れてしまっていた。あまりのことに、領民たちは家を捨てて逃げて行った。

 死の領地となってしまった元伯爵領は、それを治めていた伯爵一族に問題があるのではないか、と人々は語った。




 僕はシャデラン様の側仕えはいやです、と上司に訴える。もちろん、上司はシャデラン様だ。

「何が不満なんだ。書類仕事はないだろう」

「屋敷と同じことさせられているのが苦痛なんです。ここでもお昼ご飯作らされるって、罰ゲームですか。騎士の鍛錬だって、気晴らしだというのに、相手はシャデラン様ですし。イジメですか」

「お前のメシは男爵家の味だ。昼も食べたい。鍛錬の手頃な相手は、ほら、戦場に行ってしまったからな。相手になってもらえないんだよ。こんなに、俺は熱心に鍛錬しているというのに、付き合ってもくれない」

 昼はまあ、主が望むのだから、仕方がない。

 鍛錬はお前の日頃の行いのせいだ。ちょっと前に軍の上層部の悪行をネタに脅してクーデターなんかやらかしたから、誰も近づきたくないんだよ。ちょっと鍛錬中に、とんでもない秘密を囁かれたら、生きた心地もしないだろうな!

 その関係で、僕は同僚を失ったけどな。まあ、全部シャデラン様に情報提供しちゃったから僕も同罪だ。裏切者だな、僕は。後悔してないけど。

 僕も清廉潔白ではない。しかし、この主相手に何か後ろ暗いことなんて何一つない。あるとすれば、主も同じなんだ。一蓮托生なんだよ。

「そうだ。面白いお誘いが来たぞ」

「シャデラン様にお誘いなんて、命知らずな」

「お前も遠慮なく言うな」

「あなたに遠慮していたら、疲れます」

 心の中なんか、むちゃくちゃ毒吐いているよ。口から出る言葉は、まだまだ可愛い。

 もうそろそろ喉が乾くだろう、とお茶を給仕する。もう、病気だな、これも。

「それで、どこからのお誘いですか?」

「王国所有の暗部の統括だよ」

「すみません、そういうのは、詳しくないです」

 たぶん、王族教育を受けているから、シャデラン様にとっては普通の話だろう。ただの平民には、よくわからない話である。

「お前らは、俺独自の暗部だな。そういうのが、王国にもあるんだ。ただ、王国の暗部の統括は、ちょっと特殊だ」

 話はこうだ。


 暗部はよくある存在である。暗殺したり、情報集めたり、情報流したりする。その統括が特殊なのだ。暗部の部隊長は、暗部に選ばれた者の中から決められる。そして、部隊長は王族とかに付き従うのが普通だろう。帝国もそういう形をとっている。

 王国は、ちょっと違う。昔、帝国の皇女を毒殺するだけでなく、帝国の血をひく妖精憑きの王女を虐待した過去があるため、暗部は国王直轄でなくした。しかし、王族が統括となるようにしている。

 ようは、裏の国王だ。表の国王や王族が愚かなことをした時、暗部の統括が首の挿げ替えをするのだ。

 さすがに王族や国王に手をかけることとなるので、暗部の統括も王族にしなければならない。この暗部の統括となる王族も、しっかり王族教育をされている者がなる。だから、間違いはないのだ。



 シャデラン様の生家はリスキス公爵家だ。リスキス公爵は貴族の中の王と呼ばれる。何せ、王族が貴族となるためだけに作られた家なのだ。シャデラン様は、そこら辺の王族よりも血筋は確かである。ついでに、王族の血もそれなりに流れているので、王族教育も施されている。

 確かに、暗部の統括には向いている。性格的にも、暗部向きだろう。

「受ければいいじゃないですか」

 そして、騎士団から去っていってくれれば、僕は日中だけ自由だ。

 顔にはそんな自分勝手なことを考えているなんて出さないようにして、鍛え上げた表情筋を動かすことなく提案する。

「確かに、王族共を暗殺出来る権利は欲しいな」

 そうでしょうそうでしょう!

「だがなー、俺はすでに私設の暗部持ってるからなー」

「シャデラン様は出来る方です。二つあれば、リリィの捜索に役立ちますよ」

「どうかな。所詮は人間だ。妖精には勝てない」

 失敗したっぽい。リリィを出しても、シャデラン様は迷っている。

 リリィは妖精に溺愛されている。そんな彼女を探すのは、なかなか難しい。現に、リリィが出奔して、随分と経つというのに、見つからない。世間知らずの男爵令嬢が、ここまで見つからないのは、妖精が隠しているからだ。

 妖精は、神の使いである。基本、何でもできる。むしろ、出来ない事が少ない。そんな妖精に隠せとリリィが願えば、いつまでも隠されたままだろう。

 そういうとこは、シャデラン様も冷静だ。わかっている。

「せっかくの権力です。迷う必要はないでしょう」

「教育は受けているが、どうも、眉唾な感じがしている。いるなら、あのリリィに無体なことした王族は、消していただろう」

「国家転覆したわけではないですし」

「王国民の恨みも相当、買っている。それに、王族の血なんか流れていなかった。それなのに王族を名乗っていた。普通、消すだろう」

 言われてみれば、確かにそうだ。あの王族は、やり過ぎていた。なのに、シャデラン様が手を下すまで、普通に王族の生活をしていた。

「そこが気に食わん。リリィの罪が一つと数えたとしても、他にもあっただろう。実際、騎士団でもあった。リリィ以前にも、理不尽な行いが多かったはずだ。それなのに、そのまま泳がせていた」

「お上の考えは、僕のような下々にはわからないことですよ」

 僕はお昼ご飯の時に作った焼き菓子を出した。男爵家のレシピだから、甘さがかなりないが、素朴な味付けに工夫されている。シャデラン様は、これが一番気に入っている。

「今日、明日にでも、暗部の統括が屋敷に来るから、この焼き菓子を準備しておいてくれ」

「………はい」

 この主は、もっと前に予定を伝えるということをしてくれない。

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