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妖精狂い  作者: 春香秋灯
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妖精金貨03

 貴族でありながら商人として表舞台に立つケインが、妖精金貨を集めているのは、その界隈では有名である。妖精金貨だったら、十倍の金貨で交換だ。だから、一生懸命、金貨を集めてくる。

 集まった金貨は、そうでなければ、それなりの印をつけられる。この印、許可を得ている。王国でも、妖精金貨で被害者が出てしまうといけないので、選別済みの妖精金貨だとわかるように、印をつけることを了承したのだ。ついでに、それ以降に出回った金貨は、デザインが違う。そうして、集まる金貨はどんどんと少なくなってきた。

 そうしていると、ある商人が、とんでもない数の金貨をケインに持ち込んだ。

「これは全て、妖精金貨だ!」

 この商人は、最近、王都に来たばかりだ。ケインの噂を聞きつけて、田舎からわざわざやってきたのだろう。

 ケインは王都で商売をしているが、王国中を飛び回ってはいる。妖精金貨は王国の端にまで見つかっているので、ちょくちょく、金貨を回収したりしている。人が良いと、普通の金貨と快く交換してくれる。

 この商人は、残念ながら、金狙いだ。一枚の金貨が十枚の金貨に化けるのだ。そりゃ、いっぱい持ってくるよ。

 ところが、この商人、情報のほうはいい加減だった。持ち込んだのが、よりにもよって、帝国金貨だった。別に、同じ金貨だから、使えるが、帝国金貨はあまり出回らないので、除外していた。

「これ全ては妖精金貨だ。確かだ!」

「ちょっと待て。俺では見分けがつかない。それなりの人に見てもらわないと」

「だったら、今すぐ呼べ! ここにだ!! 俺の目の前で、見てもらおう!!!」

 かなり横柄だ。まあ、仕方がない。一度、相手に渡して、すり替えられたら大損である。

 困ったケインは別の提案をする。

「妖精金貨を見分ける人は、なかなか忙しい人だ。簡単には来ない。預けられないというのなら、屋敷にきてくれ」

 仕方がなく、シャデラン様の邸宅に、この商人をご案内することとなった。

 そんなことになっているとは知らない僕たちは、社交から帰ってきたら、あのでっぷりした、欲に固まった商人を食堂で見ることとなった。

「なんだ、この俗物は」

「ちょっと、こっちに来てください!!」

 とんでもないことを口走る前に、ケインが僕たちを押し出した。えー、僕はこれからシャデラン様の口直しのデザート作ることとなってたのにー。

 仕方なく、僕たちはケインの部屋に押し込められる。事と次第を説明されたシャデラン様はニヤリと笑った。

「なるほど、それでか。また、とんでもない愚物が来たな。サンデはいるか?」

「………います」

 ケインは明後日の方を見て答えた。サンデが呼ばれるということは、あれだ。大変なことになるんだ。覚悟しよう。

 僕は気を引き締めた。外の様子を伺うと、やはり、商人一人で行動しているわけではない。用心棒らしき人たちが外で待っていた。

「ノーイットはいる?」

「珍しくいる」

「じゃあ、外はノーイットにまかせた、とマキシム、伝えておいて。マキシムは部屋に待機。出ないで」

 マキシムは両足がちょっと不具合があるので、部屋に閉じこもってもらう。

 こうして、商人の所には、シャデラン様と僕、ケインの三人がいく。座るのはシャデラン様のみ。僕とケインはシャデラン様の後ろで立ったままだ。

 対する商人も、一応、用心棒が二人、後ろに立っている。お互い、仲良くいきたいな。

「どれ、妖精金貨を見せてみろ」

 上から命じられて、商人はちょっと頬をひきつらせる。仕方がない。シャデラン様の正体を商人は知らないのだ。

「あなたが、妖精金貨を見分けられるという証拠はありますか?」

「これを見ろ。妖精の目だ」

 眼帯を外せば、人ではない義眼があらわとなる。義眼だけど、きちんとシャデラン様の意思通りに動く。

 見方によっては気持ち悪いものを見せられた商人は、ちょっと退いた。護衛二人も、ちょっとびびった。

「そんなもの、どこで手に入れたのですか?」

「そんなことはどうでもいい。ほら、妖精金貨を見せろ」

 社交で疲れている上、口直しのデザートも食べていないシャデラン様はご機嫌斜めだ。お願いだから、さっさと見せろよ。

 もう、もったいぶっている商人は、大きな袋に入った金貨を机に乗せた。

「百枚あります」

「知ってるか。昔、帝国で妖精金貨が出た時は、五百枚はあった」

「そんなに!?」

 少なかったかな、なんて商人は考えていそうだ。だって、一枚の金貨が十枚に化けるんだ。この百枚の金貨が千枚の金貨に化けるというのは、想像しただけで、心躍るだろう。

 シャデラン様は、義眼で金貨を見るだけで、触ろうともしない。

「確かに、妖精金貨だが、俺が求めているものとは違う。まがい物だ」

「言いがかりだ!!」

「うるさいな。だいたい、何故、帝国金貨なんだ。俺が求めているのは、王国金貨だ」

「どっちでも金貨は同じだろう!!」

「帝国金貨はまずいんだよ」

 説明をするのが面倒なんだろう。僕に目くばせする。

「今から百年ほど前、帝国で大量の妖精金貨が出ました。その妖精金貨は、貧民街の裏アジトで見つかり、裏アジト全てが帝国の魔法使いによって捕縛されました。帝国では、妖精金貨に関わったものは全て、捕縛され、二度と、外に出されることはありません」

 帝国では、かなり有名だが、王国では知られていない話だ。王国では、妖精金貨なんて早々、出てこないからだ。

 これは、王国と帝国の違いだ。

 帝国は妖精憑きを集め、きちんと聖域を管理する。そのため、少々、人が悪事に手を染めたからといって、聖域は穢れない。

 王国は、妖精憑きを集めることすら出来ないので、聖域に無垢な聖女を置いて、管理させた。それでも穢れることがあるので、人々は、悪事を働かないように心がけるように生きている。

 妖精金貨は悪事の象徴だ。妖精憑きを騙して手に入れた金貨は、妖精によって呪われる。王国ではそういうことは滅多に起こらない。皆、質素に、神の教えに従い、悪事に手を染めないように生きているからだ。しかし、帝国では聖域を妖精憑きが管理しているので、多少の悪事でも問題はない。だから、帝国では妖精憑きを騙すような悪事が出てしまうことがある。

 だから、王国では妖精金貨を集める必要なんてないし、それ以前に、出てくるほうが稀だ。

 しかし、帝国では、妖精金貨は出る時は出てしまう。なので、妖精金貨に関わった者は全て、捕縛され、厳罰を処されるのだ。

 これほど大量の妖精金貨を帝国金貨で出てきてしまったのだ。ただで済むはずがない。

 わけがわからない商人は、騙されたと思ったのだろう。後ろにいる護衛に合図する。

 僕とケインは仕方がないので、護衛二人を相手に立ち回る。その間、面倒臭そうにシャデラン様は座ったままだ。商人は、怖くて動けない。

 相手は護衛で、それなりに歴戦なんだろう。汚い剣捌きである。対する僕とケインは綺麗といえば綺麗なのだが、暗器まで使うので、すぐに相手の足やら手やらがナイフで貫いて、倒れさせることとなる。

「誰が後片付けすると思ってるんですか」

「サウスー頑張れー」

 よその家でやってほしかった。

 あっという間に護衛二人は倒れて動けなくなる。

 震える商人。

「家の外にも、人がいるぞ!!」

「そこは、ノーイットにまかせました。生きてなくていいので、楽そうですね」

「え?」

 しばらくして、ノーイットがいくつかの首を持って食堂にやってくる。

「殺すのは楽だな」

 どんと机の上にさっきまで生きていた人間の生首を置いた。

「全部ですか?」

「逃げられたけど、いいだろう。追いかけるのは面倒なんだよ」

「復讐しに来た時は、外でお願いします。中の清掃は僕なんで」

 机の上も血でべっとりだよ。仕事増やすなよ。

 シャデラン様はお行儀悪く、机の上に両足を乗せて、商人を見る。商人は真っ青である。前も後ろも左右も敵だ。いや、後ろでは、護衛が動かないように息を殺しているな。

「妖精憑きはどこにいる?」

「し、し、知らない!」

 これほどの妖精金貨を作るには、妖精憑きがいるのは間違いない。しかし、商人は知らないようだ。

「ノーイット、そいつを地下に拘束だ。サンデに引継ぎだ。ケインはそのゴミどもを地下牢にまとめていれておけ。生きていても死んでいても、サンデの玩具だ。サウスは口直しのデザートだ」

 シャデラン様の命令は絶対だ。それぞれ、命令通りに動いた。

 商人は一生懸命抵抗したが、外の護衛を一掃したノーイットに勝てるわけがなく、そのまま地下へ拘束されることとなった。

 まだ、息のある護衛は、死んだ護衛と一緒に、地下牢に放り込まれた。

 僕は、口直しをデザートを作って、シャデラン様に給仕した後、後始末に奔走させられた。一番、僕の労働量が多い。不公平だ。





 デザートで一息ついたシャデラン様は地下室に行く。地下室にはシャデラン様が命じたように、商人は椅子に拘束されている。その隣りに、ノーイットがメモをとっている。

 ノーイットは男爵令息だ。ノーイットもリリィに無体なことをして、目をちょっと変異させてしまった。リリィに許されて元に戻ったが、時々、おかしな物が見えたり、聞こえたりするという。耳の中も何らかの変異があったのだろう。耳の中までは見えないので、そうなって、初めてノーイットも気づいた。その目と耳の力を使って、新聞屋をやっている。情報収集するにも役に立っているが、不規則な仕事なので、屋敷にいないことが多い。今日はたまたま、いたのだ。

「証言はとれました」

 シャデラン様に報告するノーイット。さすが新聞屋をしているだけあって、聞き取りはうまい。

 全てを洗いざらい話した商人は、これで開放されるものと思っていた。期待をこめてシャデラン様を見てくる。

「サンデはどうしている」

「サンデはまだ生きている護衛の様子を見ています」

「仕方ない、待つか」

「待つって、開放してくれるんじゃないのか!?」

「どうして?」

 シャデラン様は首を傾げる。商人は真っ青になる。

「開放してくれるから、話したんだ!」

「そうなのか?」

「いや、そういう話はしていない」

 シャデラン様の問に、ノーイットは正直に答える。嘘ではない、本当だ。

 どうせ、勝手にそう思い込んだのだろう。商人は思い返し、真っ青になるも、すぐにニヤリと笑う。

「お前たち、俺には有力貴族の後ろ盾があるんだ。ここで離さなければ、後で酷い目にあうぞ!」

「どこの貴族だ?」

 商人の目の前にいるのは、貴族の中の王族と呼ばれる、最高の貴族だ。この人に勝てる貴族は早々、いない。

「リスキス公爵だ!」

「………」

 あ、やっちゃった。この人、死んだな。

 シャデラン様は商人をしばらく蔑むように見下ろした。商人は、シャデラン様の態度が悪くなったことに気づくも、理由がわかっていない。

「父上に連絡を。この男の証言が正しいかどうか、確かめる」

「………は?」

「リスキス公爵の後ろ盾があるのだろう。俺はリスキス公爵家から独立したから、どこの商人と繋がりがあるかわからん。貴様の今後は、父上に任せる。

 おい、荷馬車を呼べ。父上の元に運ばせる」

「う、う、う、嘘です!」

「知らん。たく、せっかくサンデが喜ぶだろうと、五体満足で捕獲させたというのに、父上に引き渡さないといけない。ついでに、帝国の妖精金貨の引き取りもお願いしないとな。情報全て、父上に渡せ」

 残念、とシャデラン様はため息をついて、地下室から出ていく。

 残ったのは僕とノーイットだ。僕としては、他に仕事があるから、ノーイットに任せたい。

「わかった、俺がやる。サウスは家のことをやってくれ」

「助かる。あの主は、本当に気が狂っているから、面倒なんだよ。明日の朝食の仕込みもしなきゃいけないってのに、口直しのデザート要求するんだよ。仕事増やすな。あ、デザート人数分、作っておいたから、後で適当に食べて」

「ありがとう」

 いうだけ言って、僕はさらに奥の地下牢に行く。後ろでは、商人が何か叫んでいるが、雑音だ、雑音。

 奥のほうにはいくつかの地下牢がる。その中には、生きている者、死んでいる者とごちゃまぜである。

「サンデ、元気か?」

 地下牢の間の作業台に生きているか死んでいるかわからない人間を置いて、サンデが何やら作業していた。

 サンデは、僕たちとは少し違う。いや、同じようにリリィに無体なことをした貴族だ。しかし、サンデはその行為に報酬を要求した。恋人の病気を直すための薬が必要だった。サンデの恋人は平民だ。家は子爵家といえども、裕福ではない。サンデはどうしても金が必要だった。

 金と引き換えにリリィに無体なことをして、体の一部が異形となったが、リリィには許され、元に戻った。そうして、報酬を使って恋人の病気を治した。

 しかし、そこでは終わらなかった。なんと、恋人はサンデの所業を知ってしまい、自殺してしまったのだ。サンデは嘆いた。そんなサンデにシャデラン様はいう。

「俺が全て話した」

 何も知らないサンデの恋人に真実を教えたのはシャデラン様だ。サンデはシャデラン様を憎んだ。憎んで、殺そうとつかみかかった。まあ、シャデラン様相手では、誰も勝てないんだよね。サンデなんて、あの細腕だ。勝てるはずもない。

「お前の女は、聖女だったな。悪い事をした」

 そして、シャデラン様は謝った。

 これで、シャデラン様も一つ、罪を背負うこととなった。シャデラン様は、サンデの身柄を引き取った。サンデは、報酬を得たことが間違いだったと考え直し、医学への道へ進むこととなった。頭が賢いサンデは、シャデラン様の支援もあり、優秀な町医者となった。その傍ら、闇医者となり、後ろ暗い情報をシャデラン様に流した。

 それでも、医学は限界がある。そこで、シャデラン様は地下に、医学のための試験場をサンデに提供したのだ。シャデラン様は何かと後ろ暗いことをしているので、捕縛する罪人は多い。その罪人を全て、サンデに引き渡した。

 まだ、事きれていない人間は、僕を見て、何か訴えている。

「シャデラン様が、今度、医学関係の禁書が手に入ったら、見せてくれると約束してくれた」

「そうか、良かったな。ほら、上にデザートがあるから、行こう」

「………そうだな。これはもういらない」

 サンデは作業台の男にとどめをさした。





 帝国の妖精金貨は、無事、リスキス公爵を通して、帝国に渡った。

 商人は帝国の商人と結託して、妖精金貨を増産したのだ。その製造には妖精憑きが必要だ。帝国では、妖精憑きは全て帝国のものである。儀式をすれば、必ず見つかるのだ。

 しかし、貧民では教育がされていないので、儀式を行わない。結果、野放しにされた妖精憑きが出ることがある。

 野放しとされた妖精憑きとして有名なのが、魔法使いアランである。貧民の頃に賢者に見いだされ、最高の教育を施され、筆頭魔法使いとなった。あまりにも力の強い魔法使いが野放しとされていた事実に、さすがの帝国も立ち上がらなければならなくなった。今では、貧民街を魔法使いたちが強襲し、野放しの妖精憑きを探しているという。

 それでも、それ以前に隠された妖精憑きはいる。その妖精憑きは貴族が持っていた。その貴族は、度々、貧民街で妖精憑きを見つけては、拷問し、弱ったところを洗脳して、暗部にしたてあげたりしていた。その事実に、帝国は一族郎党処刑することとなった。帝国の商人もそうだ。

 王国の商人も引き渡すように帝国から要求されたが、リスキス公爵の権力を騙ったということで、すでに私刑されていた。この商人の一族も見せしめに処刑された。

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