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妖精狂い  作者: 春香秋灯
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最強の魔法使い02

 なんてアホなやり取りをしてすぐに、王弟殿下と謁見である。シャデラン様が相手なので、簡易的な謁見室で謁見となった。行けば、すでに王弟キリト様は魔法使いアランを後ろにつけて、待っていた。

「遅くなった」

「いや、こちらが早かっただけだ。北の砦では、暇だったからな。時間の調整が、うまく出来ない」

 笑顔でのやり取りである。このまま、和やかにいってもらいたいものだ。

「兄上から聞いた。王国所有の暗部の統括に就任したとか。おめでとう」

「俺としては、キリトを推挙したんだが、先代統括が拒否したから、仕方なくだ。育てているが、まだまだ、使い勝手が悪い」

「そうなのか。俺は北の砦でそれなりの腕を持っている者を集めていたが、シャデランの眼鏡にはあうかな?」

「いうことをきくのなら、いいんじゃないか」

 何故が僕を見てくるシャデラン様。僕は関係ないですよね。

「実は、人数的には、まだ不安があるから、増員しようと考えている。シャデランは王国所有の暗部の統括となったことだし、その男はいらないだろう」

 キリト様まで、僕を見てくる。僕は関係ないと思いたいけど、部屋にいる男は僕と魔法使いアランだ。魔法使いアランはすでにキリト様の軍門に下っているので、残るは僕だけだ。

「やめとけ。こんな狂犬。知恵をつけたから、とんでもないことをするぞ。内部崩壊させるぞ」

「シャデラン様、それは言わない」

 実際に僕は言ってしまったことだが、まさか、言われちゃうなんて。

 ついつい、いつもの癖で、僕は口を挟んでしまう。不敬罪だな。それでも、王弟キリト様は笑顔で許す。この人も、見た目は高貴な王子だ。この見た目に、随分と女は歓声をあげてたな。

「何か望みでもあるのか? 俺の力があれば、だいたいのことは叶えてやれるぞ」

 笑顔で誘惑してくるキリト様。これが、敵国がいう、王国の悪魔か。

 見た目はそれはそれは美しい男だが、その実は、手段を選ばない。口では戦争反対を言っておいて、敵国にいる戦争賛成派の勢力を増やさせ、停戦五年で戦争勃発させたのだ。そして、妖精憑きの力で、敵国側に原因不明の病気をばらまき、ついでに、攻めてきた敵軍を自然の脅威で一掃したのだ。再び、停戦協議を行う際には、妖精の契約まで持ち込み、破った時はとんでもない天罰が下ることを実地で見せて、敵国を黙らせた。

 キリト様も、斜め上の考え方をする。敵に回してはいけない方だ。

「シャデランは、女を探しているとか。もしかしたら、アランの力を使えば、見つけられるかもしれないぞ」

「っ!?」

 シャデラン様は席を立った。目の前には、王弟の軍門に下った、世界最強の魔法使いがいる。確かに、その力があれば、可能なような気がする。

「無理でしょう。シャデラン様が妖精に訊ねたところ、秘密だ、と言われたそうです」

「どういうことだ!?」

「そうだったな」

 僕が言えば、シャデラン様は冷静になって、席についた。

 驚いたのは、キリト様だけではない。アランも驚いている。

 シャデラン様は眼帯を外して、妖精の目を見せる。

「噂の妖精の目ですね。大丈夫なのですか? それは、とても危険な道具ですよ」

 アランは妖精の目のことをよく知っていた。たぶん、帝国にも同じものがあるのだろう。

「問題ない。どうやら、俺には、魔法使いとしての才能があるらしい。これを使って、野生の妖精を操ることが出来る。それを利用して探してみたが、どの妖精も口を割らなかった。俺が探している女は、たぶん、普通の妖精憑きではない」

 シャデラン様が大丈夫だと言っても、そうとは限らないので、僕はすぐ、眼帯をつけた。

「妖精憑きなのは、確かなのですか」

「らしい。確かめようにも、ほら、王国では妖精憑きを見つける手段がない。だから、そうだろう、と言われているだけだ。お前ら王族が、余計なことをしなければ、今頃、領地で幸せに暮らしていただろうな」

「それについては、悪かった、としか言いようがない。あの最低の父上が、なんで、あんな出来損ないの、しかも、王族の血なんぞこれっぽっちも流れていない男に王位継承権を与えたのやら」

 キリト様も調べたのだろう。そして、王族のやらかしに、キリト様でさえ、理解が出来ない話だった。

 キリト様の父親は今の国王の父親である前国王だ。前国王は、知ってか知らないかは不明だが、全く王族の血が流れていない甥に王位継承権を与えて、優遇していたのだ。不思議な話、王族教育なんぞ、全く、されていなかった。そこが、おかしい。

 リスキス公爵の血縁であるシャデラン様でさえ、王族教育をされたのだ。

「それで、全く血の繋がらない叔母と従兄弟は、今、どうしている?」

「報告した通りだ。邪魔な女は娼館に行ってもらって、あの王族は手足切って、平民だ」

「帝国のほうで、最近、見世物小屋が流行っているとか」

「体の一部が足りない奴らは、働くのは無理だからな。そうやって、見世物になって、はした金を貰って生活するしかないんだろう。よく出来てる」

「王国でも、もうそろそろ、流行りそうだな」

 こわっ! わかってるでしょ、二人とも。笑顔で腹の探り合いやめて!!

 そんな腹の探り合いをしている両者など無視して、アランはじっと僕を見てくる。人を殺しそうにない、優しい顔立ちの男だが、とんでもない拷問を平気で行うとか。先の皇帝を手にかけた皇帝殺しとも呼ばれている。本当に、考えが読めない。

「殿下、どうしますか、彼のことは」

 話が反れたので、アランから、軌道修正してくる。もう、余計なことを。

「あ、ああ、そうだな。実は、俺としては、どちらでもいいんだ。王国に背くことをしなければな。ただ、アランがお前をシャデランから引き離したい、ということだ」

「それ以前に、そちらの暗部をシャデラン様の邸宅に近づけさせないでいただきたい」

 余計な仕事を増やされた腹いせに、僕はアランの所業を暴露する。

 驚いたのは、キリト様のみ。シャデラン様には報告済みだ。

「アラン、何やってるんだ!?」

「ここまで、妖精の道具を持っている男です。探る必要はあります。その道具は、どこで手に入れたのですか」

「シャデラン様、勝手に動く人、キリト様側にもいますよ」

「キリトも、しっかりと首輪つけておけ。でないと、引きずりまわされるぞ」

 アランの質問なんぞ、無視だ。話を別の方向に持っていってやる。シャデラン様ものりのりだ。さすが、最高の主だね。

 王国内で、暗部同士がやりあっている事実に、キリト様もさすがに怒りを見せる。

「王族として、それを黙って見ているつもりはない。アラン、どういうつもりだ」

「殿下、妖精を甘く見てはいけません。特に、あの後ろの男は、妖精の呪い持ちです。その呪い、完全には解けていないでしょう」

「好きでそのままにしているんですよ。それで、暗部はどうしますか? アラン所有の暗部だとはわかっています。地下牢にはいれています。五体満足で生きていますが、もうそろそろ、サンデの気分で、切り刻まれるかもしれませんね」

 僕の脅しに動いたのは、アランだ。魔法使いのくせに、暗器使ってくるとは、とんでもないな。

 しかし、こちらも暗器で応戦である。こちらも鍛えているのもあるが、場数が違う。すぐにアランの目を狙ったが、後ろから、違う攻撃がくる。もう一人、暗部がいたか。

 アランを転ばせて、もう一人の暗部の腕を左手でつかんだ。相手は攻撃を手を緩めないが、すぐにうずくまる。

「カシウス!?」

 アランは動けなくなった暗部カシウスに駆け寄る。見れば、露出した肌が真っ黒に変色している。

「な、穢れだと!! どうやって!?」

「妖精憑きのあなたなら、出来るでしょう」

「お前は、妖精憑きではない!!」

「妖精の呪い持ちだからですよ。僕だけではない。僕の友達は皆、妖精の呪い持ちだ。はやく、シャデラン様の邸宅から手をひかないと、地下室に捕らえた暗部も、穢れで死んでしまうかもしれませんね」

 やり方など、教えない。アランが知らないということは、そのやり方は、失われた技術なんだろう。

 男爵家で借りた蔵書の中に、妖精の呪いを利用した、穢れを移す方法が載っていた。聖域の穢れは、本来、一度、妖精憑きが穢れを受け、時間をかけて浄化する。その浄化の力は、妖精憑きの力で決まるのだ。その穢れは、妖精憑き同士に移すことも、ただの人に移すことも出来るという。

 普通の人には、妖精憑きのように、穢れを受けても浄化することは出来ない。万が一、穢れを受けた場合は、その部分を斬り落とすしかない。

 その方法を悪用したのが、妖精の呪いである。妖精の呪いは擬似的に妖精憑きと同じような力を使えることがある。なんと、穢れのやり取りが出来てしまう。妖精の呪いを受けた部分には、何故か、穢れが集まる性質があった。しかも、穢れは表には見えない。妖精の呪いが、全て、覆い隠してしまうからだ。上手に使えば、他人に穢れを移すことが出来るという。

 これを読んだときは、使えるなんてこれっぽっちも思っていなかったが、実験はした。ほら、地下室には死んでもいい人間がいっぱいだ。お陰で、使いこなせるようになった。

 僕は、定期的に王都の聖域から穢れを拝借して、腕にある妖精の呪いに集めていた。その量は、人一人を穢れまみれにするくらいだ。

「俺でもこの狂犬どもを飼いならすのに、随分と金をかけたぞ。気に入らない命令には従わないし、主は清廉潔白になるな、なんて言ってくる」

「いえいえ、僕はきちんとシャデラン様のご命令に従っていますよ。ただ、愚痴や文句を口にしているだけではないですか」

 酷いな、僕はきちんと従っているってのに。ただ、主としては、注文はつけるが。

 気に入らない主に付き従うつもりはない。

 僕は、王弟キリト様を値踏みする。主としては、どうだろうか。

「なるほど、貴様の欲しいものは、狂った主か。残念ながら、王族である以上、そういうのにはならない。アラン、諦めろ」

 アランがむちゃくちゃ僕を睨んでくる。えー、攻撃されたから、こっちも攻撃しただけなのにー。

 仕方がないので、カシウスに移してしまった穢れを僕に移し替えた。

「もう、やめてください。僕はただ、過去の悪行を償う日々を送りたいだけですから。ですが、手加減していただいて、ありがとうございます。あなたが本気になれば、妖精の呪いなんて、簡単に解けてしまったでしょう」

「その呪いは無理だ」

 思ってもいない返答だった。最強の魔法使いアランならば、この程度の妖精の呪いは解けると思い込んでいた。

「妖精憑きとしての格が、僕よりも上だ。王国に、これほどの妖精憑きがいるとは、思ってもいませんでした。今度、紹介してください」

「シャデラン様が探している女性です」

「それでは、無理ですね」

 アランはやっと、引き下がった。妖精の呪いから、リリィが相当格が上な妖精憑きだとわかったのだ。




 しばらくして、最強の魔法使いアランは、北の砦で隠居することとなった。

 帝国からは、アランの返還を要求されたが、アランを越える妖精憑きである王弟キリト様が前に出たことで、黙るしかなかった。





 久しぶりに、王都の聖域に行く。先代の王都のエリカ様の最後を看取ってから、随分と足が遠のいてしまった。僕なりに、彼女とは距離をとっていたのだが、最後は妖精の悪戯によって、誰よりも近い距離の関係となってしまった。

 教会は今、過去の汚職によって、大粛清となっていた。教会で働いている者たちが、横領をしていたのだ。その告発が、最果てのエリカ様からだ。調べてみれば、かなり大昔からされていたので、粛清がとんでもない範囲となった。何せ、エリカ様の予算を横領したのだ。それは、さすがに許されない。

 そうして、人事異動が激しくされたという。王都の聖域も、大変そうなので、僕は様子を見に行った。

「あ、サウス様!」

 随分と大きくなった王都のエリカ様が駆け寄ってきた。

「お久しぶりです、エリカ様。元気そうで何よりです」

「もう、お顔を見せないから、心配になりました」

「僕も、さすがに先代のエリカ様が亡くなって、傷心してしまいました。すみません」

「そうですか。でも、エリカ様は、とても幸せそうに笑っていましたよ。サウス様のお陰です」

「それは良かった」

 そんな他愛無い話をしながら、教会に入れば、なんと、神官長となった王弟キリト様とご対面である。知ってたけど。

 知らないのは、キリト様だ。僕が王都のエリカ様の手に引かれて教会に入ってきたから、珍しく、善人の仮面が剥がれた。大丈夫か?

「神官長、先代のエリカ様と仲良くしてくださった、サウス様です!」

 エリカ様がわざわざ僕を紹介してくれる。そうだよね、お互い、知り合いなんて、彼女は知らない。なにせ、僕の立場はシャデラン様の代理というだけで、王国の騎士だとは知らないよね。

「エリカ様、実は、王弟殿下は僕のことを知っています。ね」

「あ、ああ、そうだな」

 不機嫌な顔しないの! もっと笑ってくださいよ。

 僕だけ笑っているので、エリカ様は困っている。

「あの、もしかして、サウス様と神官長は、仲が悪いのですか?」

「仲が良い悪い以前に、僕は部下ですからね。そういう類ではないですよ。僕は普段は騎士団の平騎士なんです」

「そうなのですか!? 知りませんでした。実は、素晴らしい方なんですね」

「いやいや、悪人なんですよ。そうか、先代からは、僕のこと、何も聞いていないんですね」

「教えてください、とお願いしたのですが、内緒だから、と教えてくれませんでした」

「そうか、墓場まで持っていってくれたんだ」

 最後まで、彼女は、誰にも僕の悪行を話さなかった。もしかしたら、二人だけの秘密だから、と話さなかっただけかもしれない。本当に、世間知らずな聖女だ。

 僕とエリカ様とのやり取りを、キリト様はなんともいえない顔で見てきた。その表情を見ていると、シャデラン様が嫉妬している時の顔に重なる。なるほど、こういう子が好みなのか。

「ちょっと、王弟殿下と話していいですか?」

「お願いします、神官長に、もっと神官長らしくするように、言ってください!」

「………」

 困った、この子も、僕のこと善人と思い込んでいる。先代はもうちょっと、僕のことをこの幼いエリカ様に上手に伝えたほうが良かったと思う。

 僕は笑顔でキリト様の横に立って、教会を見回した。

「やっぱり、ダメ神官とダメシスターの集まりだったか」

「気づいていたんだな」

「叩けばいっぱい埃が出てくる輩ばっかりだから、信用していませんでした。先代エリカ様は、信じていたので、様子見していました。告発がなかったら、シャデラン様のほうから、告発して、大掃除となったでしょうね」

 先代の王都のエリカ様が亡くなって、十分の時間が経ったので、シャデラン様にお願いするつもりだった。聖女が命をかけて守っている聖域に、そんな穢れの塊がいるのは、僕は許さない。

「悪人といいながら、善行もするのか」

「悪行ばっかりしているので、たまには善行しないと、死んだ彼女に叱られますからね。そうそう、先代のエリカ様は、それはそれは、世間知らずで、悪い男に騙されやすい方でしたよ。きっと、今代のエリカ様も、悪い男に騙されやすいでしょうね。なにせ、先代エリカ様が育て教育したエリカ様ですから。大変だ」

「………どうやって、口説いた」

 色々な葛藤があったが、結局、キリト様はすり寄るほうに傾いたか。

「彼女の良いところを誉めて、僕の悪行三昧を語っただけですよ。彼女は聖女だから、悪い男に惹かれたんでしょう。本当に、人を見る目がない。あんなに、語ったというのに」

 少し、語りすぎた。僕はしんみりしてしまったので、ここで黙り込むことにした。


 参考になったかどうかはわからないが、キリト様は、それなりに、ダメ男っぷりを語り継がれることとなった。悪い男はさすがに、表立っては出来なかったんだろうね。

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