最強の魔法使い01
敵国との睨み合いが終わって、とうとう、王弟が王都に戻ってきた。戦争している、といっても、表向きでは公表されない戦争である。だから、王弟は静かに戻ってきた。
もちろん、シャデラン様は軍部でそれなりの立場である。王弟が戻ってくるのを見に行く。呼ばれているし、来いと命じられているので、行くしかない。
ただし、離れた所から見るだけだ。僕はもちろん、側仕えなので、連れて行かれた。いやだって言ったのに、僕には拒否権がないよ。
僕の王弟直属の暗部へのお誘いはまだ、続いている。王弟が暗部を作るというので、てっきり、戦争に行った兵士や騎士たちから集めるものと、誰もが思っていた。何せ、北の砦では、人選がすでに行われ、それなりに教育も施されていた、という話だ。僕はシャデラン様に付き従って、戦地には行ったが、シャデラン様の側に居ただけである。いないも同然だ。その実力だって、騎士団所属であるだけで、表に出していない。
騎士たちや兵士たちが戻っている行進を僕はシャデラン様の斜め後ろで眺めていれば、視線を感じた。
魔法使いアランが、僕を見てきた。帝国の最強の魔法使いアランならば、シャデラン様だけでなく、僕も簡単に見つけてしまうだろう。
何せ、シャデラン様は眼帯に隠されているが、妖精の目が装着されている。ついでに、帯剣しているのは、妖精殺しの剣だ。魔法使いは妖精憑きである。いやでも、シャデラン様の存在は光り輝いているだろう。
ついでに僕は、一度、左腕を妖精によって呪わている。元に戻ったが、完全ではない。シャデラン様がいうには、穢れが左腕にべったりとついているそうだ。これも、アランならば、見えてしまうだろう。
そんな主従がいるのだ。アランだって、注目しちゃうよね。あー、こわ。妖精憑きの力は、謎が多い。男爵家所有の蔵書を随分と読んではいるが、完璧に理解したわけではない。
紙に書ききれない部分があるのだ。文章にするには、妖精憑きの力は万能すぎる。魔法使いアランは、最強だ。間違っても、敵に回していい相手ではない。
しかし、シャデラン様はアランを使って、王弟を陥れた。まあ、アランが出てきたのは、本当に偶然、たまたまだ。シャデラン様も、そこまでは読んでいない。
王弟は一時期、離宮に幽閉されていた。王弟は優秀な上、強大な妖精憑きだという。幽閉しても、妖精憑きの力を発揮されてしまっては、簡単に抜け出してしまう。そこで、シャデラン様は帝国の魔法使いを使うことを提案した。そこで出てきたのは当時、筆頭魔法使いだったアランだ、アランは確かに王弟の妖精憑きの力を封じた。だが、それもたった一年だ。一年後、アランは王弟の妖精に復讐され、無力化された。そして、王弟の軍門に下ったのだ。
王弟はアランを使って、戦争を終わらせた。たった一人の魔法使いの力によって、簡単に戦争を終わらせてしまったのだ。その力はとんでもない。実際に見たが、妖精憑きを使う戦いというものは、人外だ。人は、自然には勝てないということを見せつけられた。
「役目は終わった。帰るぞ」
行進が終わったので、シャデラン様はさっさと背を向けた。せっかく帰ってきた王弟に挨拶もしない。相変わらず、王族、大嫌いだね。
僕はちらっと王弟を見た。王弟は家族である国王と笑顔で会話している。一見すると、爽やかな青年だ。実際、まだまだ若い。これから、結婚やら何やら、忙しくなるだろうな。そう見ていた。
王弟が戻って数日後、シャデラン様が王弟に呼び出された。シャデラン様が呼び出されると、僕はセットだ。
「僕は留守番したいです」
「焼き菓子を準備しろ」
「聞いてますか!? 行きたくないって言ってるんですよ!!」
昼の食事後に行くこととなっている。いつもの通り、食事を用意して、準備して、僕の要望を伝えているのに、無視か!!
「キリトは、魔法使いアランを連れてくる、とわざわざ言ってきた」
「尚更、行きたくない!!」
人間相手なら、のらりくらりと誤魔化しがきくが、魔法使いや妖精憑きは無理だ。嘘だって簡単に見抜ける。だって、妖精が全て、教えちゃうから。
「僕が嘘ついたら、不敬罪ですよ。処刑されちゃいますよ」
「嘘つかなければいいだろう。得意だろう」
「嘘ついちゃうんですよ、悪人だから」
嘘をつかないのは簡単だ。言わなければいいし、言葉を変えればいいんだ。そんなに難しくない。そういう意味では、嘘はついていないが、相手が悪い。王弟キリト様は、たぶん、上手に、僕の言葉を嘘にしてくれるだろう。
「大丈夫だろう、お前ごときの嘘で、いちいち、処刑なんかしない、心の広い男だ。どうせ、お前が欲しい、なんて言ってくるだけだ」
「どっちがですかね」
「会ってみれば、はっきりするだろう」
何故、引き抜きをするのか、未だに不明である。
王弟キリトが引き抜きたいのか、それとも、魔法使いアランか。
僕としては、もう、さっさと諦めて、次に行ってもらいたい。もっと、使い勝手のいい暗部候補は、探せばいっぱいいるだろう。僕なんか、王弟殿下よりも年上の、腐ったリンゴだ。内部にいれたら、腐らせちゃうだけだ。
王弟殿下の暗部の情報は、それなりにわかっている。戦争に行った兵士や騎士の中に数人の候補がいて、それなりの教育をされていることは情報として受け取っている。どこの誰なのか、ということも把握は出来ている。よくもまあ、広い範囲で取り揃えたものだ。ちょっとこれは、という人物も入っていたりする。使い所が想像出来ないのだが、そこは、頭の良い人の考えだ。凡人の僕にはわからない使い方をするのだろう。
僕は一応、王弟殿下の暗部の情報をまとめ、シャデラン様に渡した。シャデラン様は、それを一瞥するだけだ。
「よくもまあ、ここまで増やしたな。斥候としての使い方ではないな。手を広げ過ぎると、うまく操作が出来ないというのにな」
じっと僕を見てくるシャデラン様。何が言いたいんですか、何が。
「よく主のいう事をきく犬なんだろうな。羨ましい限りだ」
「僕たちは、きちんとシャデラン様のいう事、きいてますよ。ほら、焼き菓子も準備しました!」
「腹の底では、これっぽっちも俺に忠誠を誓ってないよな」
「次の給金、期待してます!」
「足りないものがあれば、金で解決だ」
さっすが、貴族の中の王族であるリスキス公爵の血縁だ。金払いが素晴らしい。今日は安い卵でオムレツ作ります!!




