表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精狂い  作者: 春香秋灯
15/19

王都の聖女03

 大好きだろう焼き菓子を持って行くも、幼いエリカ様が気まずい、みたいな顔でお断りの言葉を述べる。

「困りましたね。僕としては、王都のエリカ様が元気な姿を見ることが、お役目となっているのですが」

「エリカ様は元気です。本当に、元気なんです」

「小屋にいるのですね」

 気配でわかる。彼女は小屋に閉じこもっている。


 王都のエリカ様は寿命が短い。それは何故か? 王都の聖域はともかくよく穢れる。それを防ぐ方法は、穢れを移すしかない。王国は、その穢れを王都のエリカ様に移す契約を施したのだ。王都のエリカ様に選ばれると、その契約に縛られるようになっている。そして、王都のエリカ様は聖域の穢れを受けとめ、短い生涯を閉じることとなっている。


 今、目の前にいる幼いエリカ様は、すでに契約の中だろう。契約に縛られ、王都の聖域から離れられず、様々な災いをその身に受けている。まだ、幼いので、それが表には出ない。

 しかし、王都のエリカ様はそれなりの年齢だ。もう、見た目に出ているのだろう。

 僕は、幼いエリカ様の前に跪く。

「僕はきっと、王都のエリカ様を最後まで見なければならない。だから、どうか、僕に会わせてほしい」

「でも、でも」

 ぼろぼろと泣く幼いエリカ様。とても見せられない姿なんだろう。

「大丈夫。僕は、悪人だから、どんな姿でも受け入れられます」

「う、うう、エリカ様、あなたに、会いたくないって」

「えー、嫌われてしまいましたか。じゃあ、会わないと」

 むしろ、嫌がらせみたいに会いに行こう。

 こんな幼いエリカ様なんて、力づくで簡単に排除できる。僕はさっさと小屋に入った。

 小屋はちょっと薄暗い。僕は入ると、ベッドにもぐりこんでいる彼女がいる。

「生きてますか? 僕のお役目は、あなたが生きているかどうか、確かめることなんです。見せてください」

「来ないで!」

 声がちょっとおかしい。僕はそれでも止まらない。悪い人間なので、布団なってむしりとってやる。

 さすがに驚いた。

「しばらく見ないうちに、随分と歳をとりましたね」

「見ないでください!!」

 老女の姿には、王都のエリカ様の面影があるのでわかった。これは、悪いことをした。僕は布団を返した。

 だけど、僕は離れるつもりはない。

「その姿なら、僕が間違いを起こすことはありませんね。安心しました」

「酷い人ですね!?」

「だから言ったでしょう。僕は悪人だと」

 僕は勝手に椅子を持ってきて、姿がすっかり変わった王都のエリカ様の傍に座った。

「僕の悪行を語りすぎましたね。すみません、僕のせいですね」

「………私の先代も、こうでした。あなたのせいではありません」

「寿命が短くなったのは、僕の悪行を受け入れすぎたせいですよ。ほら、僕のせいにしてください」

「あなたのせいです!!」

 泣き笑いで、王都のエリカ様は僕を責めた。






 王都のエリカ様の様変わりをシャデラン様に報告した。シャデラン様はわかっていたのだろう。珍しく、痛ましいみたいに顔を歪める。

「しばらく、お前は休め。辛いなら、王都のエリカ様の慰問も減らしていい。次代のエリカ様に確認程度でいいだろう」

「別に辛いとかはありませんよ。せっかくなので、最後まで、見届けます」

「………お前は、俺のことを狂っている、なんて言っているが、お前こそ、狂いすぎているだろう。王都のエリカ様と話して、何も感じないのか?」

「試されている、とわかっていますから」

 僕は笑顔を消して、まっすぐ、シャデラン様を見つめる。

 王都のエリカ様の慰問、別に僕でなくていい。とても珍しい方だ。他の四人でも良かったはずだ。

 文筆家のマキシムなら、話を書く人なので、きっと、話の枠が広がるだろう。ついでに、彼女はマキシムの好みだ。

 商人のケインなら、良い話し相手となる。王国の隅から隅まで行商しているのだ。世界を歩けない彼女は、きっと、喜ぶだろう。

 新聞屋のノーイットもまた、良い話し相手だ。あの、目と耳があるので、王都のエリカ様を見て、何か感じることが出来るだろう。

 医者のサンデは、泣き言を言ってしまうので、王都のエリカ様が慰めてくれるだろう。弱っているサンデに、王都のエリカ様は強く支えなければ、なんて使命感に燃え上がらせそうだ。

 この中で、実は、一番、王都のエリカ様に慰問させちゃいけないのが、僕だ。僕は他人を悪の道へと引きずり込む。友達四人は、僕のせいで、すっかり悪人だ。人を殺すことも、陥れることも、これっぽっちも心が痛まない。まあ、全て相手が悪人だから、痛まないんだけどね。

 わざわざ僕を王都のエリカ様の慰問相手にさせたのは、シャデラン様なりに、僕を試しているからだ。

「残念ですが、僕の穢れは一切、王都のエリカ様に移していません」

「知ってる。お前の左腕は、変わらない。何故だ? 王都のエリカ様に、その左腕の穢れを渡せば、お前はもう、自由だろう」

「意味がわかりませんね。何故、僕の首輪を外そうとするのですか。リリィのことを諦めたのですか?」

「諦めない! リリィは必ず見つけ出す!!」

「だったら、僕を使ってください。僕は完璧に、あなたのご命令通りに動いていますよ。家のことも、騎士団のことも、情報収集も、しっかりとこなしています。もうすぐ、王弟も帰ってきますよ」

 戦争はすでに終わっている。シャデラン様が一番、敵視している王弟は、戦後処理で北の砦に引き籠っている。敵側は、まだ、遺恨があるらしく、勝手に自爆テロなんかしているとか。仕方がないので、王弟自らが残り、監視しているのだが、それも、もうそろそろ必要がなくなってくるだろう。そういう情報も、騎士団にいれば、僕の耳には勝手に入ってくる。

 シャデラン様が僕に背を向ける。何か、悪いことを言ったか?

「王弟が、お前を新設する暗部に欲しいそうだ」

「そうですか。では、今度は王弟の暗部に配属されて、情報をシャデラン様に流せばいいですか」

「そんなこと、あの王弟が許すわけがないだろう。魔法使いを使って、契約を施されるぞ」

「人が介在する契約です。隙なんて、いくらだってあります。王弟ごときに、シャデラン様が負けるわけがないでしょう。すでに、一度、陥れたではないですか」

「王弟一人ならな。元帝国の魔法使いアランが厄介だ。アランは、帝国が金と時間をかけて育て上げた最強の魔法使いだ。筆頭魔法使いは、ただ、力が強ければいいわけではない。頭も精神も、恐ろしいものらしい。調べさせたが、アランの裏は真っ黒だ。そのアランが、黙って、王弟の下にいると思うか? 帝国は今、アランを取り戻したいが、アランはそうではない。アランとしては、王国に残るために、王弟を懐柔するしかない。

 王弟自らが暗部を作るということは、アランの後ろ暗い教育を受けたということだ。そんな所に、お前をやるわけにはいかない」

「お望みなら、内部崩壊させてあげますよ」

「王弟を敵にする必要はない。どちらにしても、お前の覚悟を見たかった」

「お気に召しましたか?」

 左腕は変わらず、シャデラン様の寝室に入れば痛む。王都のエリカ様に慰問する前と何一つ変わらない。

 僕は常に、シャデラン様に試されている。監視され、勝手に動かないように作業をいっぱい与えられ、疲れさせ、余計なことをさせないようにしているのだ。シャデラン様は、人を使うことに長けているだけでなく、人の本性をよくわかっている。

「王都のエリカ様もそう長くはない。お前の目で最後を見届けてやれ」

「シャデラン様でなくていいんですか? 僕みたいな悪人で」

「王都のエリカ様がそう望んでいる」

「………そうですか」

 女性の気持ちは、残念ながら、僕は全くもって理解出来ない。何故って、女性と付き合った経験がないからだ。





 そう長くないのだろう。王都のエリカ様は、ベッドから出られなくなった。

 僕はせっかく、休みを貰えたので、言われた通り、王都のエリカ様の慰問を毎日行った。もちろん、家のことは完璧にこなしてからだ。

 王都のエリカ様は最初は起きようとしたが、毎日、僕が来るので、起きるのをやめてしまった。

「勝手に作りました。食べましょう」

 昼と夕の食事を僕が勝手に作って、食べさせた。

「上手ですね」

「シャデラン様にお仕えして、ずっとしていることですから。あの人、本当に酷いんですよ。気分でメニュー変えるし、突然、デザート要求するし、部屋の掃除も手を抜くと激怒ですよ。僕は一人でやっているってのに、容赦がない」

「そうなのですか、知りませんでした」

「高位貴族ですからね、仕方がありません。僕は平民だから、こき使われるのは、当然です。お陰で、いい給金をいただいていますよ」

「毎日、こちらに来て、大丈夫ですか?」

「悪行がすぎましたから、奉仕活動しないと。悪行も、ほどほどが大事です」

「ふふふ、面白いですね」

 王都のエリカ様は、僕の話によく笑う。が、食べる量がどんどんと減ってきている。もう、寿命が尽きそうなのが、僕でもわかる。動くのも大変だろう。

 介助が必要だが、それをするのは、あの幼いエリカ様だ。男手は、きっと、王都のエリカ様が拒んでいる。なので、僕なりに手伝ったが、それもイヤがる。

「その、抱き上げるとかは、やめてください」

「軽いですよ。羽のように軽いから、大丈夫です」

「いえ、そういう問題ではなくてですね、その」

「僕は、一生にあなただけですよ、女性をこうやって抱き上げるなんて」

「………もう、誰にもしないのですか?」

「しません。そういう女性は、一生、作りません」

 僕は一生、独身だ。女性にこういうことをすることは、本当は、一生、ない。王都のエリカ様は、男手が必要だから、仕方なく、抱き上げたりしている。

「こんな、年老いた顔の女性で終わるなんて」

「えー、こんなに可愛らしい女性なのに。あなたは、年老いても可愛らしいですよ。そんな、卑下しない」

 僕は笑ってしまう。彼女が恥ずかしがるが、僕にはどうだっていい。人の美醜なんぞ、死んで骨になってしまえば、どれも一緒だ。

 王都のエリカ様は僕の目を見つめる。そして、諦めたように笑う。

「あなたは、女性に好意を持つことがないのですね」

 そう言って、僕の左腕を触ろうとする。僕は素早く、王都のエリカ様の手を右手で握る。

「それはいけません」

 死が近いからだろう。僕の左腕に何かがあることに、王都のエリカ様は気づいてしまった。

「私が、持っていってあげます」

「いけません」

「私にください。ほしいんです」

 左腕が痛む。王都のエリカ様は、すっかり、僕を異性として見ている。やっぱり、僕みたいな悪い男は、彼女のような聖女を悪い道へと貶めてしまうんだな。

「これをなくしたら、僕はシャデラン様に捨てられます。僕はね、根っからの悪人なんです。善人のふりをしているだけなんです。放置されたら、僕は悪行の限りを尽くします。そういう人間なんです。だから、シャデラン様に飼われています。酷い扱いだって、僕には必要なんです」

「そうして、私の好意を破り捨てて、笑うのですか?」

「僕は、悪人ですが、心は善人でありたいと思っています。そこが矛盾しているんです。だから、シャデラン様を理由に悪行をしているんです。あなたに好意を寄せられて、笑ったりはしない。ただ、僕は随分と前に、壊れてしまった。もっと早く、出会えていたら、違っていたでしょうね」

 酷い言い方だ。もっと早く、なんて言っているが、かなり大昔の話だ。その頃に出会ったって、僕は彼女に見向きもしない。

 今だから、僕は王都のエリカ様を見つめている。そして、抱きしめる。

「最後の男が僕だなんて、可哀想な人だな」

「本当に、酷い男です。こんなにはやく、寿命が尽きるのも、あなたのせいです。あんなに悪行の告白をするなんて、私が穢れちゃいました」

「………もっと、穢れてみますか?」

 びくっと、王都のエリカ様は震える。それなりの教育は受けているだろう。さて、どう想像したのやら。

 僕の経験は、残念ながら、リリィ止まりだ。あの最悪な行為で終了している。それ以降、誰とも男女の行為は行っていない。シャデラン様に出会う前まで、そういう機会がなかったわけではない。僕は全て、拒絶したんだ。

「い、いりません。これ以上はもう、惨めにしないでください! あなたはただ、私に情けをかけているだけです。それは、イヤです!!」

 ボロボロと泣き出す。確かにそうだな。僕は王都のエリカ様の頭を優しくなでた。僕に出来ることなど、この程度だ。

「そうですね、失敗したら、僕も恥ずかしい」

「もう、どうしてそういうことを言うのですか!?」

「経験が一度きりなので、あなたを満足させる自信がありません。確かに、こんな下手かもしれない男の行為が最後だなんて、イヤですよね」

「私なんか、一度も経験がありませんよ!」

「物凄く痛いそうです。女性は可哀想だ。痛いだけで。僕は良かったですけどね」

「最低!!」

「すみません」

 泣きながら、彼女は僕を罵る。そりゃそうだ。僕は罵られることばかり言っている。

 そうして、しばらく泣いていた彼女は、僕の胸から顔をあげる。おもしろいことが起こった。若返ったのだ。

 本人は、気づいていない。きっと、老婆のままだと思っている。だけど、僕の目には、彼女は初めて会った頃の姿だ。いかん、僕は悪い男だから、この姿を見て、衝動はおさえられない。

 僕はついつい、彼女を押し倒していた。彼女がずっと、ベッドにいるのも、運が悪かった。





 そうして、王都のエリカ様は代替わりした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ