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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

名前も知らないジジイと山でラーメンを食う

作者: ヒロモト


なぜ俺はこんな知らないジジイと一緒に飯を食っているのだろう?考えるのもめんどい。


「なぁ。山の上で食う飯はウマいのはなんでだと思う?」


年の頃60後半のジジイ。

俺たちは岩の上に座って火を炊き。お湯を作りカップ麺にそれを入れて待っていた。

あー。疲れた。足が棒とはこの事か。

何か得るものがあったわけでもないし余計に疲れを感じる。


「山の上にゃビルもねぇ。人もいねぇ。当然車も走ってねぇ。だから空気がうまい。空気がうまいと飯もうまい!簡単だよな?はっはっはっー!他にも理由がある。これが一番で……」


「……3分経ったっすよ」


「じゃあ兄ちゃん。いただきます」


俺はジジイをボーっと見ていた。俺より疲れているだろうに、元気だな。

もう俺は蓋を開けて箸を握るのも面倒くさいのに。


「兄ちゃんも食えよ!うめぇぞ!何でうめぇか分かるか?生きてるからだー!ハハハーっ!俺は生きてるぞー!」


食え食えうるさいので俺も食った。

確かにうまい。

脳みそにピンクのドロドロの液体をぶち込まれたって感じでこう……身体中にセロトニンが循環していく。

カップ麺なんて何回も食ってるのにうめぇ。

ジジイの言う通りここにはビルも車もない。

だから美味いんだな。

俺は昔の人間の事を思った。

昔の人間は自然と共に生きてその辺の川の水も飲めて……何となく空気も今の何千倍も綺麗だったと思う。

俺たちは色々進化してきたけど……昔の人間の方が飯はずっとずっと美味かったに違いない。

それを今回神様は教えたかったのかなーなんて考えたり。やり過ぎだけど。


「愛染山ってとこがある。釜石のそんな有名でもない山だがとにかく天国みたいにキレイな山だ。春には花。秋には紅葉。冬は雪景色……女房とよく登った。だけど……もう行かねぇ」


「何故ですか?」


「……女房とよく登ったからだよ。ごちそうさま。兄ちゃんも良かったら登ってみてくれよ。東京からわざわざご苦労さん。ありがとうな」




この時の俺は大学生で。テレビで「あれから○○日!活躍するボランティアの若者達」みたいな特集を見ていい格好する為にフラッとボランティアにやって来たのだが本当に辛かった。

肉体的にもだが精神的なものが大きかった。

瓦礫の山。初めて見る死体。過酷な避難生活を送る人々。

あのジジイは奥さんを探していたのかなと思う。

あの日、あの場所には多くの家族を探す人がいた。

すごく失礼だけどフラフラして顔色が悪くてゾンビみたいだった。

そりゃそうだ。あの景色を見たら「もしかしたらどこかで家族は生きてるかも」なんて中々思えない。

あのジジイは強いジジイだったんだろうな。

2011年。巨大な津波が日本を襲った年。








愛染山は確かに美しい山だった。

名前も知らないピンクや黄色の花が咲き名前も知らない鳥が鳴く。

昔話のアニメでハッピーエンドの時によく見た景色。

もう10回以上登っているが飽きない。


「さてと」


山頂と言えばカップ麺だ。

お湯良し、箸良し。こいつは東京のマンションで食うカップ麺の千倍美味いぞ。


「えいしゃっと!おいしゃっと!」


「大丈夫ですか?」


80ぐらいのじいさんが両手に杖を握りフラフラと登ってきた。

片方は女用の杖だ。よくそれでここまで登ってこれたなぁ。


「すまんね」


それから何でそうなったかは分からないが、じいさんは口が上手く。話している内に俺たちは一緒にカップ麺を食うことになった。


「おじい……おじさんもカップ麺を持って来たんですね」


「おいおい。俺は「お兄さん」な?そりゃあ山といえばカップ麺よ」


調子のいいジジイだ。俺はこのジジイが気に入った。


「11年。いや12年ぶりかぁ?ひさーしぶりに登ったぁ!やったぜ母ちゃん!」


ジジイが用意していたのはデカいカップ麺と細長い容器のカップ麺。


「2個食うんすか?」


「もう一つは女房の。これが好きだったのさ。死んじまったけどね。確かに2個は食えねぇな。あんた喰うかい?」


やっと俺は気がついた。このジジイは。

『あの時』のジジイだ。

あんた山に帰ってきたんだな。


「さぁて3分!食うか!うんめぇ〰!チクショウ!美味すぎる!なぁ?兄ちゃん?」


「そうっすねぇ」


「な……何で泣いてんだ?」


「いや。あまりにも美味くて」


「何でうめぇか分かるか?」


「なんでですか?」


ジジイはカップ麺の容器を持ったまま立ち上がって空に向かって叫んだ。





「生きてるからだぁぁぁ!」




俺たちは生きている。












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