3.アサとアス
朝野に途中だった畑の土作りをお願いしている間に、夜都は持っていく軽食と携帯用各種ポーションを準備する。
朝野はこの家の家族登録をしているため、畑仕事の一部も"家事手伝い"になるのか、作物の質を落とさず手伝ってもらえるのだ。これはどこにも解説が載っておらず、ネットの情報交流で知られている方法である。
なお、携帯用ポーションは、夜都が開発した圧縮瓶を使うことで、従来の瓶の約1/10のサイズ・重さで同量のポーションを運べるようにしたものだ。ただし、ポーションの充填が難しいため情報公開しても他の生産職に作成してもらえず流行らないという、微妙に残念なものだが。それに夜都は、非力でない戦闘職には従来のものと大して差がないと思っている。
この世界、瓶詰めの薬の種類はあまり多くない。うち、夜都が作れるのは薬師時代に覚えたHPポーション、MPポーション、毒薬、解毒剤、の4種類、そして転職後に覚えたスタミナポーション、そしてHP/MPポーションの2種類だ。前作にはその他に状態異常を起こすもの/解消するものなどあったのだが、VRになったとたん作成難易度が上がってしまったのだ。
もともと店頭で売っていない薬で作り方を教えてもらえない。おそらくこれだ、という材料が見つからない。まあ、未知のものを探して作るのが楽しい人にとっては問題ないのだが。
ただ薬で対処できなくとも魔法がある。まだトップランカーと町の教会でしか使えないが…。
軽食は空腹によるHP減少を止めるものだ。味わって食べるわけではなく、口に入れた瞬間に食べ物が消えて効果がでるもので、効果のほどはステータスの空腹度のパラメーターで確認できる。食べ物の種類で効果に大きく差がないから、何を食べるかは気分の問題だ。
夜都は片手で食べられるようにホットドッグと野菜サンドを手早く作り、ポーションと一緒にリュックに詰めた。
母屋を出ると既に畑仕事を終えた朝野が、タンデム用の鞍を竜の背中に取り付けていた。
「待たせたか?畑の作業ありがとう!」
「ああ……あれくらい大したことない。今度は何を育てるんだ?」
「今日の採取で新種の苗か種が見つかればそれがいいかな。いい加減、新しいもの調合したい。朝野は何か作って欲しいもんある?」
「やっぱ状態異常系かな~。あれの備えがないときつくなってきた。まあ、今日の場所は期待大だぞ。未発見のエリアだし、空からしか行けない」
「お前と同じ竜騎士のアレクからの情報だっけ?」
「そう。ヨルにその情報を伝えて是非とも新しいもん作ってほしいって。今作がリリースされてそろそろ一年経つのにできること少なすぎんだよな~」
「ああ、もう一年か。一周年記念で何かイベントあるのかな?俺、22から始めたからそういうの知らなくてさ」
「たぶんあるよ。公式HPからアナウンスあるはず。って、あのHP、情報載せなさすぎ、回答もほとんどないし」
朝野は長くDragonight Onlineのファンで、5作くらい前からやってるそうだ。年齢は聞いてない。いつも夜10時から2、3時間くらいログインしているから、夜都は同い年くらいだと思っている。未成年だと夜更かししすぎだし、ゲーム歴が長すぎる。
「よし、じゃあ飛ぶぞ!竜に乗れ」
夜都は、よろしくな、とアスの頭を軽く撫でてから、朝野の後ろに乗り込む。長く伸びた鐙に足を掛け鐙の紐を掴むと、シュルシュルと鐙が縮み、竜の背中まで身体を持ち上げてくれる。踏み台が必要ない便利な作りだ。
夜都が鞍に跨がるとアスは翼を広げ、大きな鉤爪の足で地面を走り蹴って空へと飛ぶ。身体がフワッと少し持ち上がり、重力がなくなる感覚に夜都はもう慣れた。VRってすごい。こんなのなかなか実体験できないだろう。
あっという間に空高く舞い上がり、眼下に自分のいた町と森が一望できる。空は青く晴れ渡り心地よい風が吹いて、最高の気分だ。




