19.試飲
一部、日比谷が日比野になっていたので訂正しました
(。-人-。)
「いや、まだだ。日比谷、匂いは?」
「う~ん、スタミナポーションの匂いになってるけど、ちょっとニンニク臭い。あと、色がちょっと薄いかな」
「ニンニクは火を通さないと駄目かもね。でも不思議な匂いになってる。ローズマリーの香りがどっかいっちゃったね」
ニンニクは、蒸してから潰して混ぜることにした。水は念のため蒸留水。普通の水でも大丈夫かもしれないが。結果、夜都の満足するものが出来上がった。
「さて効果があるかをみてみないと」
「スタミナポーションの効果って、具体的には?」
ゲームの知識がほとんどない大和に、夜都は自分の知る限りの情報を伝える。確かにゲーム特有の略語や常識が多くて、初心者には厳しいのだ。
「ゲームの中だと疲労回復だね。スタミナのパラメーターであるST値が下がると、身体の動きが悪くなり、力も出なくなる。あと、体力のパラメーターであるHP値が下がりやすくなる。ST値は休むと徐々に回復していく」
「じゃあ、こちらでいうエナジードリンクみたいな感じだね。今は休んだ後だから疲れはとれてて効果がわかりにくいかな?」
「まあ、取り敢えず少し飲んでみる?材料は駄目なの入ってないし」
「それか、ここら辺思いっきり走ってみたらどう?」
「え? 誰が? 俺が? 大和が?」
「「……。」」
無言で暫く見つめ合っていたが、サンプルは多いほうがいいだろう、という結論になり二人でジョギングすることになった。大和は夜都に適当な服を借りてお互い着替え、スタミナポーションを水筒に入れて近所の川沿いの土手に向かった。
――――――――
外に出ると少し日が傾いてきたもののまだまだ明るく、川沿いのランニングコースには夜都たち以外にも走っている人がかなりいた。
「ふっわ~っ、疲れた」
夜都は土手の芝生の上に大の字に寝っ転がった。
その隣で、体育座りをした大和がゼイゼイと苦しそうに呼吸している。体力不足なのに本気で走り、足がだるくて動かせない。
二人とも、動いて水筒に口をつけるのも億劫だったが、なんとかコップに注いで準備する。まずは、当事者の夜都からだ。無言でそっと液体を飲み込む。体調が悪くなる、などの問題がなければ、ノーコメントでコップを大和に渡す、ということを予め決めておいた。
大和も、ゆっくり飲み込んでいった。
二人は無言で目を合わせる。最初に口を開いたのは大和だった。
「すごいな。本当に疲れがとれている。しかも一瞬だった」
「うん。気持ちもシャキッとして、もう一回走り回れそうだ」
「日比谷、これはやばいよ、癖になりそうだ」
「とてつもなく効く薬、って感じかな?」
「……。」
暫く黙っていた大和がぽつりと言った。
「これはちょっと異常だと思うよ。日比谷、俺も色々調べてみたい。そのゲーム、一緒にやってもいい?」
「お! やった! 嬉しい!!あ、でも仕事との両立ができれば、じゃないと……それは大丈夫?」
「もちろん、そんなに時間を割くことは無理だね。でも正直…日比谷が一人で向き合える問題とはとても思えない。平日は……たぶん状況を小まめに教えてもらうくらいで、ゲームするのは週末くらいかも。土日に仕事が残らないよう、平日頑張るよ」
「結局巻き込んじゃったな…ごめん、ほんとうにごめん、申し訳ない。でも一人だったときは不安で時々すごく落ち込んでて……もう一人じゃ抱えきれないかも……」
今日一緒に過ごしていてかなり大和に頼ってしまった。頼れることの安心感を知った今、手放すことはできない。
その後、二人は今後どうやって情報共有したりゲームを進めるために土日を有効活用するか話しながら家に帰っていった。
…………………………
「残りの食材さ、匂いに違和感があるくらいで何の材料かはわからないんだけど……」
家に着いてすぐ検証の続きを始めることになった。早速、夜都は大和に相談してみる。
「スタミナポーションの時も、初めは薬草の匂いはちゃんと嗅ぎとれてなかったんだ。たまたま作った料理が調合の材料の組み合わせと同じでさ。で、完成した料理の匂いを嗅いだらなぜか材料そのものの匂いもわかるようになって。」
「う~ん、調合に必要な加工の能力がここでだと使えないことに関係しているのかな……」
「あと、ゲームでの薬草とこっちの薬草は同じものではないんだよな」
「もうちょっと検証が必要かな。日比谷は薬草が、薬か毒かの区別がつくんだよね?それだけでもわかれば、まず薬になる材料だけで何か作ってみようか」
「りょーかい!ヤバい匂いはベランダの花だけだよ。食材はいい匂い。まずは組み合わせを見つけるために料理を作ればいい?」
良さそうな組み合わせ……ということで、大和のアドバイスのもと、夕飯も兼ねて色々作っていった。
ニラと卵とゴマの中華スープ、アスパラとニンニク、レバーの醤油炒め、あと冷奴にニラと生姜にごま油、ニンニク炒めをトッピング、青梅はハチミツ漬けを作って今度食べることにした。
「自分でこんなに立派な料理ができるなんて感激!しかも上手い!大和がいれば俺でもなんとかなるんだな。」
「すごく手際がよくて上手だったよ。って日比谷、匂い嗅いだ?ちゃんと確認してから食べろよ!」
「あ……普通に美味しく頂いちゃってた。でも材料とかけはなれた匂いはなかったよ。ほら食べよう!」
「そっか。まあこればっかりは運もあるかもね。また来週にでも作ってみよう。これからは、作った料理についてメモを残していってね」
なるほど、と夜都は大和に感心しながらも、空腹に負けて遠慮なく夢中でご飯をかきこむ。内心、これって空腹度のパラメーターが大分下がってたなあ~……と思いながら。