18.調合
「えっと……"薬草"と"匂う"の動詞にすればいいんだよね―――smellとかsniffとか…」
「複数の単語だと唱えやすいのかなあ。まあ英語じゃなくてもいいんだけどさ」
夜都は色々調べながら、自分が唱えるところを想像する。この能力、中途半端にパッシブの状態だから、何度も詠唱して練習しないといけない―――そんなことを考えていたとき、夜都はふとあることに気がついた。
(は!やばいことに気がついた。俺、大和の前でこれ練習するの?しかも何度も?……いやいやいや、絶対無理!)
「大和!俺、思ったんだけど、呪文決めたら練習に時間をかけないといけないからさ、後でゲームにログインしてからやってみるよ」
「え、いいよ、ぱぱっと決めてやってみようよ」
「いや、調合の時間がなくなっちゃったら困るだろ」
「そんなにかからないだろ。せっかくだから試してみようよ、ほら」
大和は少しニヤニヤした顔で、やれ、と迫ってくる。ようやく夜都も気がついた。
「お、お前!俺が恥ずかしがってるの見たくて言ってるだろ~!」
「あははははっ!だって見たいでしょ、日比谷が呪文唱えてるとこ。ほら、ファンタジー映画の俳優だってやってるんだから言ってみなよ!」
暫く押し問答があったが、結局時間が勿体ないことに気づいた二人は、詠唱の言葉は大和が後で案を出して、夜都がゲーム内で練習する、ということに決めた。大和は、空間把握のほうの能力も呪文を考えてきてくれるそうだ。
「(ゼイゼイ……)じゃあ、今度こそ調合を始めます!」
「りょーかい。俺は口は出すけど手を出さないようすればいいよね」
「うん。ではまず、スタミナポーションから……手順を説明します」
夜都の説明に、大和がメモをとっていく。
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《スタミナポーション》
[材料]
ローズマリー、 ニンニク、 水 (→蒸留する)
[作り方]
1.ローズマリーの葉を錬金釜に入れて『浄化』をかける →水洗い、両手鍋で代用
2.ローズマリーの葉に『蒸留』をかけて、ハーブウォーター作成 →両手鍋に少量の水を入れ、鍋の中央に受け皿となる小鉢を置き、鍋蓋をひっくり返して火にかけてハーブウォーターを作成
3.ニンニクを皿に置いて『浄化』をかける →水洗い
4.ニンニクに『粉砕』をかけて粉状にする →擦り下ろす。この後水分と合わせるので乾燥させない
5. 2.と4.を混ぜ、暫くかき混ぜると薄いピンク色になり、完成! →同じ手順
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「まあ、こないださんまの香草焼きでも少し完成品の匂いがしてたから、細かいところまで再現できなくてもいいかと思う」
「了解。蒸留するところが少し面倒なくらいだな」
「……火加減、よろしくね、大和」
やることが決まったところで、夜都はてきぱきと進めていく。
黙々と作業する中で、夜都はふとあることに気がつき、そっかあ、と声に出した。
「何、日比谷?」
「いや、調合といっても、この過程で『調合』そのものの呪文がないから作れたりするのかな、と。となると、俺の職業自体が現実世界で有効なのかもしれない」
「じゃあ、日比谷の職業が変わったりするとまた出来ることが変わってくる、ということ?」
「まあ、まだ調合が成功するとは決まったわけじゃないけど……おっと」
「あ」
夜都は話しながらぐるぐるとかき混ぜていたが、何かを感じ手を止めると、そこには薄いピンク色の液体が出来上がっていた。