マヨの伝道師
「クロさま~」
教会関係者と近衛騎士団が膝を付く中でひとり立って気まずいクロは、大聖堂入り口から名を呼び走って来る空気の読めないハミル王女の存在に感謝した。
厚い絨毯の引かれた大聖堂の女神ベステル像の前には酔って眠る聖女とメイドにアリル王女の姿があり、そちらをどうにかしなくてはという思考も動き出し近くにいる子供たちの面倒を見ている先生シスターへと口を開く。
「あの、聖女さまを床に寝かせているのは忍びないので、協力して運んで頂けませんか? 近衛騎士の方たちは王女様とメイドさんをお願いします」
その声に多くのシスターと騎士たちが切れのある返事を行い動き出す。複数のシスターで聖女を囲むと持ち上げ去って行き、近衛騎士団もアリル王女とメイドを丁寧に持ち上げると馬車が泊めてあるだろう外へと連れ出して行った。
「クロさま、アリルは寝てしまったのですか? それにお付きのメイドまで……」
連れ去られる二人を見ながら話すハミル王女。まわりでは教会関係者の主に上位に位置する神父や司祭が拝み続けており、中には教皇の姿も見て取れる。
「えっと、アリル王女さまはお腹いっぱいになったのか寝てしまいましたね。メイドさんは色んな神様からお酌されて……断れなかったんだと思いますよ」
軽くお付きのメイドをフォローしつつ、ハミル王女とその後ろに控えた近衛騎士のリーダーだろう女性に報告をすると驚きの表情になるまわりの者たち。それはハミル王女や教皇も同じで目を見開きフリーズする。
「前に行った時もそうでしたが神様たちはお酒が好きなようで……師匠も調子に乗ってこの通りです」
赤い顔で眠るエルフェリーンを抱っこしたまま言い訳にも似た説明をするクロに、再起動したハミル王女が口を開く。
「あ、あの、アリルもお酒を?」
「いえ、お寿司とジュースです。メイドさんは少しお酒を飲みましたが、王女さまは飲酒をしていません。ああ、でも、複数の神様から可愛いと褒められていましたよ。頭を撫でられて嬉しそうにしていましたね」
ぱっくりと口を開けて驚くハミル王女と近衛騎士たち。教皇は尚も祈りを捧げ続け、まわりの教会関係者も話を耳にしながら祈りを捧げ続ける。
「それでですね。厚かましいのですが、今日は王宮に泊めて頂けないかと……」
クロが本題を切り出すとハミル王女は再起動を繰り返し笑顔へと表情を変える。
「もちろんです! アリルがお世話になったのですから当然ですね!」
「お待ち下さい! 使徒さまには我らの聖女がお世話になりました。できれば教会にお泊り頂けないかと具申致します」
両手を合わせ許可を出したハミル王女に待ったの声を掛けた教皇は頭を下げたまま声を出す。
「具申……えっと、前は教会に宿泊させて頂きましたので、王宮に宿泊させて下さい」
具申という単語が引っ掛かったがクロはキッパリと王宮に宿泊すると口に出すと、教皇は「仰せのままに」と口にする。まわりからはざわめきが多少起こり肩を落とすシスターも数名見えたが、ここで変に口を出してややこしくするよりは早くこの場を離れた方がいいだろうと歩みを進めるクロ。するとハミル王女が横に付き一緒に教会を抜けるのだった。
そこからは外が暗い事に気が付いたクロは、いったい何時間天界にいたのかと思いながら馬車に乗り込み王宮へと向かうのだった。
「クロさん! お待ちしておりましたが……エルフェリーンさまは寝ておられるのですね」
王宮に着くと夜分なのに近衛騎士が整列しておりその中央にはダリル王子が待ち構え、馬車から降りてきたクロの姿に笑顔を向け叫ぶが抱いているエルフェリーンが寝ている事に気が付き声のトーンを下げながらクロの元へと向かう。
「ダリル王子も元気そうで良かったです。今日はお世話になります」
「はい、我が家だと思って羽を伸ばして下さいね」
王宮を我が家だと思うのは難しいなぁと思うクロ。その横ではアリル王女とメイドが運ばれて行く。
「夜は冷えますからどうぞ中へ。先ほど急ぎ戻ってきた近衛兵から報告を受けたのですが、アリルがクロさんと一緒に天界へ行ったと耳にしたのですが事実でしょうか?」
「ええ、一緒に女神ベステルさまの元へ行きましたよ。他にも多くの神様がいて、大きな声では言えませんが魔力創造した故郷の料理と酒を求められまして……前に振舞ったのを武具の女神さまが言い触らしたらしく……大変でしたよ。百食ぐらい用意しました……」
「クロさんは凄いですね……神様から頼られる存在で……」
「頼られているのか、集られているのか解りませんが、同じような能力を持った人がいたら同じような事をしていると思いますよ。魔力創造は異世界の物を魔力で作り出せるものですからね。食べれば食事と変わりませんけど……ああ、精霊は喜んで食べていましたね。大きなウサギの精霊が最近工房近くにやってきまして、そのウサギの精霊がニンジンを気に入って食べた事に契約者が驚き……って、この話はいいか。
ダリル王子も王家の試練を乗り越えたのですから頼られる存在になるはずですよ。それこそ、この国のすべての人から」
「はい……そうなれるよう努力をしています……はは、クロさんと比べてどちらが上とかは申しませんが、」
「クロさんですよ! 兄よりもクロさんの方が優秀です! そして、マヨの伝道師なのですから!」
ダリル王子の言葉を遮り話に加わるハミル王女にクロはマヨの伝道師という言葉に軽い頭痛を覚え、王宮でもマヨを広めているのかと苦笑いを浮かべつつ到着した豪華な装飾が施されたドアのある部屋。そこには近衛兵二人が警備をしており三人が到着するとドアが開かれ中には国王と王妃二名の姿があった。
中は王家が集まる部屋になっており豪華というよりも実用性がある作りになっており、ソファーやテーブルが中央に設置され壁際にはバーカウンターのようなお酒の多く置かれた場所や仮眠ができるベッドなどが置かれている。大きな机や本棚も数点設置され、ここでダリル王子やハミル王女などが国の歴史や国交関係などを学んでいるのだろう。
「父上、クロさんとエルフェリーンさまをお連れしました!」
「やあ、クロ! エルフェリーンさまは寝ておられるのか。それならあちらのベッドに寝かせるといい」
ソファーから立ち上がった国王からフランクに声を掛けられクロは会釈をするとエルフェリーンを指定されたベッドに横たわらせ、この部屋の管理をしているメイドが毛布を用意するとお礼を言ってそれを掛ける。
「エルフェリーンさまの寝顔はまるで少女のようですわ」
「本当に……老いとは無縁なのでしょう……羨ましい事ですわ……」
いつの間にか近くにいた二人の王妃の言葉に驚きながらも数歩後退るクロ。ダリル王子は近衛からの報告とクロの話を簡単にまとめ説明すると「そうかご苦労」と口に出すとソファーに深く腰掛ける。
「クロよ、天界ではどのような料理を振舞ったのだ? 同じものを食べたいとは言わぬから、どのような料理を振舞ったのかだけは教えてくれぬか?」
ソファーから話し掛けられたクロは国王様や王族の人たちなら俺の能力も知っているし、魔力もまだまだあるから行けるだろうと、魔力創造をしながら近づき特上寿司をローテーブルに置き日本酒も創造する。
「これは自分の故郷の料理で寿司といいます。この料理を女神ベステルさまに奉納したのを武具の女神が触れ回り――――」
天界での出来事を報告しながら国王へ食べるように勧めるクロ。王妃や王女から恨めしそうな瞳を受ける国王を思い人数分想像し、日本酒を添えると上機嫌で食べ始める王族たち。
「マヨ好きのハミル王女にはこのツナマヨ軍艦とマヨコーン軍艦にサーモンマヨの炙り握りを………………皆さんも食べますか?」
王妃たちから鋭い視線を受けたクロは席を共にする王族に声を掛けると無言で微笑まれ、それらを魔力創造で増産するのだった。
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