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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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珍味には珍味を



「おっ、やっと帰ってきたね~」


 クロたちが転移し戻ってくるとエルフェリーンと叡智の神ウィキールに愛の女神フウリンや鍛冶の神カイーズとアリル王女の専属メイドは酒を酌み交わし、見慣れないおつまみを口にしていた。アリル王女は座布団を枕に寝息を立てており武具の神フランベルジュの説明の長さに耐えられなかったのだろう。


「肉の焼ける香りがしますわ! うっ……何だか毒々しい色した肉ですわね……これはソルティーラが調理したものですの?」


 フランベルジュはエルフェリーンたちがおつまみとして食べている肉を覗き込み、紫色した断面を見せるこんがりと焼かれたそれを指差す。


「これは火山帯に住むウミウシの肉を焼いたものだ。危険が迫るとマグマの中に逃げ込むほど熱に耐性がある魔物。それを超高温で調理して出してくれたよ」


「見た目はイマイチですが癖になる味です~」


「肉が柔らかくて美味しいぜ~あのウミウシをこんなにも美味しく調理するとは、やっぱりソルティーラは料理の神様だね~」


「いえいえ、クロの特上寿司の前ではどんな料理も霞んでしまいますから、私はこのような変わり種を出すしかなくて……」


 皆が絶賛する見た目がグロイ料理にクロは訝しげな視線を向け、女神ベステルは指でそれを摘まむと躊躇せずに口に入れ、武具の神フランベルジュはクロへと視線を向ける。


「それはそうと……クロ……私にもお寿司を……」


 申し訳なさそうにしながらも上目遣いでクロに寿司を強請るフランベルジュに、クロは魔力創造で散々創造した特上寿司を創造すると口を開く。


「もう神々に広めるのは勘弁して下さいね」


「はい……私も懲りましたわ……紐で吊るされるのは金輪際お断りですわ」


 それなりに反省した事が窺えるフランベルジュは特上寿司を受け取ると丁寧に頭を下げ、その場に座り寿司を食べ始める。


「焼いているのに柔らかいのが不思議ね。あむあむ……ああ、イカの寿司に似ているのかしら?」


「イカの寿司? それが?」


「そっか、それでどことなく食べた事がある気がしたのか~」


「確かに似た味です~あむあむ」


「それなら、こんな珍味もあるけど食べますか?」


 クロが魔力創造してエルフェリーンとフウリンにイカの塩辛の瓶を渡すと女神たちの瞳が光り、中でも女神ベステルと料理の神ソルティーラが素早く動きフウリンが手にした塩辛の瓶を奪うと開封し皿に移し替える。


「何これ? ナメクジ?」


 女神ベステルの言葉に誰もが固まりクロが苦笑いを浮かべるなか、料理の神ソルティーラは指でひとつを摘まむと躊躇なく口に入れ目を閉じる。


「………………うん! これはイカだね。塩だけじゃなく肝と漬け込んでいるからかまろやかで美味しいね……これこそ日本酒に合いそうだよ」


「どれ私も~あむあむ、クロ! 大変よ! 絶対に日本酒よ! ワインなんかじゃこのぬるりとした旨味を押えられないわ!」


 ため息を吐きながらもクロは魔力創造で人数分の日本酒を創造ずるとニヤリと口角を上げる酒飲みたち。武具の女神であるフランベルジュのいつの間にか手に取り日本酒の瓶をラッパ飲みで口にし、寿司と交互に食べ始め表情を蕩けさせる。


「ふひぃ~塩辛と日本ちゅは最高の愛称だね! ちょっぱい塩辛の味と生臭さを日本ちゅが流してくれうぜ~」


 やや飲み過ぎているのか呂律が少し回らなくなっているエルフェリーンにペットボトルの水を魔力創造すると手渡すクロ。


「師匠、少し飲み過ぎですよ。これじゃ今日は帰れないですね……」


「ふひぃ~確かに少しだけ飲み過ぎたねぇ~えへへ、クロが出す日本ちゅが美味しいから悪いんらろ~」


 頬を赤くしながらペットボトルの水を飲むエルフェリーン。その姿に女神ベステルが口を開く。


「何なら私がアルコールを浄化してあげるわよ」


 こちらも日本酒で頬を染めており、少し心配になるクロ。以前、酔ったエルフェリーンが魔法を使い暖炉に火を灯したのだが、勢い余って耐熱煉瓦ですら赤く変えるほどの高火力を出し火事になりそうになったのだ。


「酔いを魔法で醒ますのは日本酒に失礼ですから、また教会か王宮に泊めてもらいますよ」


「まったくその通りだな。魔法で酔いを醒ますなど無粋極まる」


「そうね。クロが言う通りね。でも、ついてきた聖女とメイドも酔い潰れているわよ」


 見れば聖女とメイドは畳に横になって寝息を立てており、横には日本酒の瓶や多くのワインが転がっている。アリル王女も少し離れた位置で規則正しい寝息を立て夢の中であり、目の前のエルフェリーンもうつらうつらし始めていた。


「ふふふ、天界に宿泊していきますか~気を付けないと女神に襲われますよ~」


 冗談だと解っていても目を潤ませながら話す愛の女神フウリンから後ろへと体を逃がすクロ。


「冗談ですよ~」


「あははは、クロにはまだ早かったようね~それとも誰か心に決めた人でもいるのかしら~」


 笑いながら話す女神ベステルに顔を赤くするクロは「あんまり揶揄うと奉納する品をノンアルコールにしますからね」と言葉を添えると顔を青くする女神ベステル。他の女神たちもそれは困るのか、顔を青くしたり眉間にしわを寄せたりと表情を変えた。


「じょじょじょ、冗談だからね! ほんと、冗談だから~そうだ! 天使を付けるから寝ている者たちを運ぶのを手伝わせるわね! うん、それがいいわ! そうしましょう!」


 何やら女神ベステルが一人で提案し採用させた寝息を立てる女性たち問題に、クロは自身のシールド魔法を使えば運べると声に出そうとするが、折角の女神ベステルの提案を飲みお礼を口にする。


「出てらっしゃい! クロと一緒に来た者たちを丁寧に運ぶのよ! エルフェリーンはクロが抱っこするから他の者たちを教会まで運びなさい」


 手を叩き女神ベステルが叫ぶと宗教画に出てきそうな子供に翼の生えた天使たちがキャッキャしながら集まり、聖女とアリル王女にお付きのメイドに触れると浮き上がる。掴んでいるというよりは触れているだけで浮き上がった光景に異世界だなと思うクロ。


「えへへ、クロ抱っこ~」


 酒臭い幼女を抱き上げると女神ベステルが微笑みながら手を払うと畳には大きな魔法陣が現れ、天使たちが乙女を連れ転移する。


「それでは失礼します。フランベルジュさま、白薔薇の庭園ありがとうございます」


「大事にするのですわよ! それと週に一度は奉納すること! もし折れていたとしても奉納するのですわよ! あと、アイリーンにも確りと伝えて――――」


 話の途中ではあるが女神ベステルが手を払うとクロの足元に輝く魔法陣が移動し、あっという間にその姿は天界から消失するのだった。








「ああ、何と神々しい光が……」


教会の大聖堂は暗く月明かりと小さなランプが照らす中に現れた一筋の光。それに気が付いたシスターは顔を上げて手を合わせると光は大きくなり、降り注ぐ光の中から天使の姿が見えると大聖堂には多くの聖騎士と神父やシスターや近衛騎士団が雪崩れ込む。


「教会が輝きだしたと思ったら……」


「天使様……」


「おい、あれは聖女さま……」


「王女さまにメイドも……」


「なんと!? クロさまがエルフェリーンさまを抱いて降りて来るぞ……」


光に包まれゆっくりと降りて来る天使の力なのかクロは落ちることなく着地をすると、多くの教会関係者や近衛騎士団から拝まれ苦笑いを浮かべるが、天使たちがキャッキャしながら手を振って光に戻る姿に抱っこしているエルフェリーンを落とさないように気を付けながら小さく手を振り、どう言い訳をしたものかと思案するのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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