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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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白薔薇の庭園



 アイテムボックスに入っているお菓子や料理を料理の神であるソルティーラに渡すと神力を使い温め振舞われた。時折、味見をしながら頭の中で作り方や使っている調味料を考えているのか手を止めることがあるが、女神フウリンと女神ウィキールがフォローして配り宴会は更に盛り上がっていった。


「パリパリで美味しいですね!」


「うんうん、芋を薄くスライスして揚げ塩や胡椒を使い味付けをするだけでこんなにも美味しいんだね」


「チョコを食べると幸せになります~」


「私は鮭の皮に似た料理を地上で流行らせるべきだと思います!」


「これが異世界の料理……」


 アリル王女がポテチに感動しながら口にし、神たちも色々な料理やお菓子に衝撃を受けながら酒を流し込む。ウイスキーや梅酒に焼酎類も提供したクロのアイテムボックスには料理や酒類が底を付き、後は衣服や魔物の素材などになりリストも寂しい感じになっていた。


 傷んだものは女神ベステルが干渉しすべてが消滅し、鍋などの入れ物だけが残り感謝するクロ。


「どれも美味しいですが量が足りませんね~」


「食べられなかった神たちは恨むなよ。クロが天界にまで来て振舞ってくれたことを忘れるな。恨んだ者や呪いをかけようとする者がいれば神としての格を落とすからな!」


「その為に料理の神ソルティーラを呼んでいる事も忘れないようにね! いつか再現してくれるわ!」


 叡智の神からの声に恨めしい顔をしていた者たちの表情が変わり、更に女神ベステルの言葉を受け納得するように頷き、空になった鍋から離れる神たちにホッとするクロ。


「美味しい料理の前には神も人もありませんね~」


「美味い酒には美味い料理。クロのおかげで今日は助かったわ」


 女神ベステルからのお礼に静かに頷くクロだったが、上からはシクシクと涙を流すフリをする女神フランベルジュの姿が目に入る。


「そろそろ降ろしてはどうですか?」


 その言葉にパッと顔を上げる女神フランベルジュ。


「確かにそろそろおひらきにする心算だけど……いいかしら、」


 声を張り上げる女神ベステルにまわりの神たちから視線を集めると、右手で言い触らしてまわった女神フランベルジュの頭を掴むと力を込めて横回転させ口を開く。


「あんたたちも言い触らしたら………………もっと酷い刑に処する! いい、クロだって地上で生きているひとりなの。それを神のわがままに付き合わせるは神として失格よ! 絶対に他の神たちに言い触らさないようにね!」


「きゃ~~~~~まわるぅぅぅぅぅぅぅ」


 横回転を続ける女神フランベルジュの姿を見た他の神たちは顔を青くし無言で頭を上下させ、アリル王女はその姿にキャッキャと喜び、耳打ちして訂正させるはずのお付きのメイドは日本酒を半分ほど飲んで頬を染めていた。





 そこからは酒を飲み終わり退席する神々。時折、お礼を言われたクロが頭を下げ見送り去ってゆく神々に聖女は深く頭を下げる。


「さて、それじゃあこの罪人女神に本当の反省をしてもらおうかしら」


 ニヤリを悪い笑みを浮かべる女神ベステル。その言葉に顔を青くする罪人女神であるフランベルジュ。


 手を払う仕草をすると吊っていたロープが消失し落ちて来る女神フランベルジュが体を回転させ着地を決めると、エルフェリーンとアリル王女は笑顔で拍手を送る。


「酷い目に合いました……」


「あら、酷い目はこれからよ」


 そういいながらフランベルジュの肩に手を回す女神ベステルは更にもう一度手を振り払うと一瞬にしてまわりの背景が変わり、広い室内はまるで武器屋のようなカウンターと壁には多くの武器や武具が掛けられている。中には値段を付けてある物もあり武器屋そのものといった感じである。


「さぁ、迷惑をかけたから好きな武器をひとつ選びなさい。私としては日本刀がお勧めね!」


「しょ、しょんなぁ~」


 壁に掛けられた武器は日本刀だけという事はなく、クロでは持ち上がりそうになりバスターソードやショートソードにナイフや槍なども目に入り、中には陽炎のように揺らめく物や明らかに呪われていそうな気配を放つ物なども見て取れる。


「フランベルジュは日本刀に嵌っているのよ。日本刀を貰ってもらえれば罰になるのよね~」


 武器屋に立つクロは膝から崩れ落ちた女神フランベルジュの姿にそこまでしなくてもと思うが、目の前に飾られた武器の数々に時めいてしまうのが男心だろう。


「忍者刀に村正に虎徹……七支刀……正宗……グラディウスにエクスカリバーにグングニル……火尖鎗にブリュナーク……ん? 釘バットまであるのかよ……」


 壁に掛けられた武器を見ながら読み上げるクロは地球史に残るものから空想の世界のものまで取り揃えてある武器の多さに驚き、アイリーンがいれば喜んだのにと思いながら一振りの日本刀を手に取る。


「あら? 真っ白な日本刀?」


「はい、これは真っ白ですからアイリーンにお土産としてちょうどいいかと。抜いてもいいですか?」


「それは構わないが……その日本刀は私が作って物で……」


 何やら言葉を濁す女神フランベルジュに構わず鞘から引き抜くと日本刀らしい反りのある美しい刃が登場する。波紋にはバラの花のような形が浮き出ており目を奪われるクロ。


「とても美しい波紋ですね。桜の花びらや波のような模様が出ると聞いたことがありますが、バラの花みたいです」


 その言葉に顔を上げ立ち上がるフランベルジュはクロの元に寄り口を開く。


「これは私が最近打ったもので、名を白薔薇の庭。波紋は偶然にもバラの大輪が並んでいるように見えるのですわ! この握り部分はホワイトドラゴンの髭を編み込み、真っ白な鞘は同じくホワイトドラゴンの牙を研磨したもので魔力媒体にも使えるのですわ! 

 内側にはルーンを刻み刃こぼれ再生に錆防止が付与され、仮に折れてもルーンが無事なら一ヶ月ほどで再生する仕様! まさに優雅な私に相応しい武器であるのですわ!」


 ドヤ顔でクロが手に持つ日本刀の説明をする女神フランベルジュ。それを見ながらほくそ笑む女神ベステル。

 クロとしてはこれでなくとも良いのだが美しさと刃が再生するという機能を聞くと日本刀初心者のアイリーンには丁度良いのかと思い「これに決めるよ」と声に出すと、女神フランベルジュはその場に崩れ落ちる。


「クロに迷惑を掛けたんだから、それは差し上げなさい! クロは日本人だし使うとしたら丁度いいでしょ!」


「いや、これはアイリーンが前に日本刀が欲しいと言っていて……プレゼントしようかと……ダメですかね?」


 クロの言葉に顔を上げた女神フランベルジュは一筋の涙を流しながらも立ち上がる。


「アイリーンとはクモから進化してこの世界で初のアラクネとなった元異世界人の聖女だった者ですわね……」


「はい、魔王を倒した勇者たちと旅をした聖女ですね。その後、事故で亡くなりこちらで生まれ、更に生まれ変わって今の姿に進化しました。草原の若葉では狩りを担当して魔物を狩ってくれています。糸を自在に操り、最近では糸に結び目を付けて高速回転させチェーンソーのように使って板に切り分け創意工夫が得意です。俺からは大切にするよう伝えますので、どうかお願いします」


 アイリーンの説明をして頭を下げるクロに女神フランベルジュは涙しながら目を閉じると、クロの持つ白薔薇の庭園へと視線を移してから口を開く。


「わかりましたわ……白薔薇の庭園はクロに、いえ、アイリーンに預けましょう」


 その言葉に顔を上げるクロ。


「ただし、週に一度の奉納の日に一緒に供えなさい。リアルに使う太刀筋の確認だけさせてほしいのですわ。データを取り次の刀への希望にしますわ。そう、次の刀の希望ですわ!」


 涙を流しながら希望と口にする女神フランベルジュに申し訳なく思いながらも、アイリーンの喜ぶ表情が頭の隅に浮かぶクロ。


「はい、必ず一緒に奉納するようにします」


「アイリーンにも私がした説明をちゃんと伝えるのですわよ! 覚えていないのなら紙に書いて――――」


 そこからは白薔薇の庭園の手入れの仕方や、刀の振り方に、どれだけ貴重な素材を使い手間を掛け作った事を延々と説明され、こんなに長話になるのなら別の刀を選べばよかったと思うクロであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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