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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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新しい神と女神ベステルからのお願い



 聖女を先頭に聖騎士たちに囲まれながら足を進め、神父やシスターたちと一緒に頭を下げる子供たちが目に入り用意していた飴を渡したいクロは聖女に声を掛けて足を止める。


「あの、少しだけいいですか」


「はい、何かありましたか?」


 聖女が振り返りクロがアイテムボックスから飴の入った袋を複数取り出すと事情を察したのか微笑みながら頷き、クロは孤児たちの面倒を見ている若いシスターに向かい預けると丁寧に頭を下げられ、後ろに並ぶ子供たちも嬉しさを押し殺して頭を下げた。


「ちゃんとシスター先生のいう事を聞けよ~」


「はい!」と元気な声が重なり笑顔を見せる子供たちに手を振ると、子供たちも手を振り返しクロは聖女の元へと戻る。


「喜んでいるね~僕も嬉しくなっちゃうよ~」


「子供の笑顔は宝です。クロ様、ありがとうございます」


「いえいえ、毎回している事ですから、それよりも今年の流行り病の方はどうですか?」


「はい、今年はマスクと手洗いの効果か例年よりもグンと少なくなっております。発症するのは他所から来た商人が多くマスクを着けていない者が殆どです。これからはマスクを教会でも進める運動を行う予定です。無料で配布し、少しでも病魔を予防したいと思います」


「やっぱり現場から話を聞くと説得力があるね。門番にも聞いたけどマスクの効果は絶大だね!」


「はい、こんなにも簡単に流行り病を防げるとは誰も思っておらず、目から鱗が落ちます」


 そんな会話をしながら足を進め大聖堂を抜け二階へと上がると教皇の姿があり、エルフェリーンを先頭に会釈をするとその場に膝をつく教皇。


「これは使徒さまにエルフェリーン様。それにアリル王女さまもお越し頂きありがとうございます。女神ベステルさまから神託を受けた者や、他にも鍛冶の女神さまや武具の女神さまや商業の女神さまなどの声を聴いたものが多く、いずれもクロが教会に来たらこちらに案内するよう神託を受けました。どうぞ、中へお入りください」


 そう話す教皇は膝を付いたまま第二礼拝堂のドアの横で祈りの姿勢を取り続ける。


「あの、使徒というのは伏せていただきたいのですが……」


「はい、ですが、多くのシスターがその声を聴いており隠すのは難しいかと……」


 教皇の言葉に聖女へと助けてという視線を送るが笑顔で顔を左右に振られ苦笑いするクロ。その後ろでアリル王女は頭を傾げ、お付きのメイドは耳打ちをする。


「すもーい! あっ!? ごめんなさい……」


 耳打ちされた内容に凄いを大声で噛みながら叫び、一斉に視線を受けたアリル王女は教会では静かにというルールを思い出し慌てて謝罪の言葉を口にしたのだ。


「構いませんよ。私も神託を受けた時は同じように叫んでしまいました。この年になっても叫ぶのですから、アリル王女さまは確りと謝罪までしてとても偉いと思いますよ」


 顔を上げ微笑みながら孫へ話すように語り掛ける教皇に、丁寧に頭を下げるアリル王女。


「では、どうぞお入り下さい。アリル王女さまもご一緒に入られますか?」


「はい! 私も中でお祈りさせて下さい」


「では、中へどうぞ」


 教皇が立ち上がりドアを開け中へと進むと女神ベステルの像が輝いており、ポカンと口を開けて驚くアリル王女とお付きのメイド。クロたちも光り輝いている姿に多少は驚くが礼拝堂には魔法陣が浮かび上がっており、そこへ足を進めろという事だと以前の訪問で理解していることもあり足を進めると揃って天界へと転移する。


 一瞬で変わる景色にアリル王女が驚き近くにいたクロの腕を掴み、その逆にはお付きのメイドがしがみ付き、聖女とエルフェリーンは以前と違う大きな部屋に並ぶ女神たちの多さに驚く。


 体育館ほどの広さがある空間には百名を超える女神が並び期待した瞳をクロへと向けているのだ。内装も障子に畳が敷かれ、和紙を使った行灯あんどんと呼ばれる明かりが所々にあったり、壁も土壁で塗られていたりと、江戸時代にでもタイムスリップしたような内装である。


 中でも目を引くのは天井からロープで縛り吊るされている甲冑を着た武具の女神フランベルジュ。鎧の上から亀甲縛りで吊るされた女神は苦しそうな顔で金髪縦ロールを揺らしていた。


「はい、みんな拍手~~~~クロたちが来たわよ~~~~~」


 女神ベステルの言葉に拍手をする多くの女神とぶら下がって揺れる女神フランベルジュに顔を引きつらせるクロたち。アリル王女だけは目をパチクリさせながら面白い光景だと頭で理解したのか笑い出し、メイドはあたふたとしながら笑わないようにと耳打ちする。


「おおいに笑ってあげるといいわ! この下手人が寿司と日本酒の美味さを言い触らさしたのが今回の原因だもの。態々、神託を送ってクロが早く教会へ来るようにそそのかした女神も多くいるしね。私の隠れた楽しみだったのに」


 そういいながら女神フランベルジュを押すと大きく揺れ出し苦悶の表情を浮かべる。


「そこでクロに頼みたいのだ。先日、我々に振舞った寿司と日本酒を魔力創造で作ってもらえないだろうか? もちろん無理にとは言わないが、お礼も考えている」


 叡智の神であるウィキールが申し訳なさそうに口を開くと、まわりにいる多くの神たちからも声が上がる。


「私の恩恵を授けますよ~」


「私は鼻息を増強する恩恵があります」


「いつでも吃逆しゃっくりが出せる恩恵を授けられます~」


「静電気程度なら無効化する恩恵を授けられます」


「毒でも美味しく食べられる恩恵もありますよ~」


「窓拭きする時に誇りが残らないスキルを授けられます!」


「植物の声が一方的に聞こえるスキルもあるぞ!」


「ダンジョン農法について詳しく教えられますが……」


 女神たちに混じってエルフェリーンによりアンデットとなりダンジョンを研究していたケイル・レミ・ポキーラの姿もあり、ネクロミノコンを使った骨ローブではなく生前の瑞々しい生きたイケメン魔導士姿で声を上げていた。


「だぁーもう、うっさい! 木っ端神共は少し黙る! クロ! 話の流れで理解していると思うけど、お願い! ここにいる百と八柱にお寿司と日本酒を奉納して欲しいのよ」


「百と九柱です」


「そうだったわね! 新しい神が一柱増えたんだったわ。 あんたらがひっそりと研究していたケイル・レミ・ポキーラの功績を王国に報告した事により私が魂の浄化される前に新たな神としてスカウトしたのよ。新たな神は五十年振りあしら? そのお祝いも兼ねてお寿司と日本酒をお願い!」


 両手を合わせる女神ベステル。その後ろでは多くの神たちが同じく手を合わせて頭を下げる姿にアリル王女とお付きのメイド驚きの表情を見せ、付いてきた聖女は呆気に取られ目を見開いて口をポカンと開けて棒立ちである。


「それはどう考えても魔力不足……マジックポーションをどれだけ飲むか……」


 肯定とも取れる言葉を口にするクロに女神ベステルは顔を上げて目を光らせる。


「魔力は特別にウィキールとフウリンが分け与えてくれるわ!」


「ああ、そのぐらいは構わないぞ」


「はい~お寿司は美味しいですし、日本酒も最高でした。私としてはクロに最大級の恩恵を授けてもいいと思いますが……エルフェリーンの工房は女性が多いですから……女難の相が更に深く濃く……」


 何やら不吉なことを言うフウリンに一歩後退するクロ。


「という事だから、事だからね! お寿司と日本酒をお願いね! もちろんご褒美も用意しているわ! この馬鹿のコレクションから一本好きな日本刀を譲渡して、そうね……恩恵も何か送るわ。ここにいる神たちの恩恵やら加護を全部送ったらクロが破裂するだろうから……う~ん、クロは何か欲しいものある?」


 まるで誕生日のプレゼントを本人に聞いてくる姉弟のような顔で訪ねて来る女神ベステルに、クロは破裂するという単語が頭の中で響いており苦笑いを浮かべたまま立ち尽くすのだった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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