アリル王女と教会へ
「一緒にお城へきてくれますか?」
店を出たクロとエルフェリーンは近衛騎士たちに囲まれアリル王女の言葉に困った表情をするクロ。エルフェリーンとしてはクロの部屋の窓ガラスを買い王都での流行り病の現状が知れて満足なのか、クロに選択肢を与えているようで待ちの姿勢で見守っている。
「それは構わないのですが、教会にだけ寄ってもいいですか?」
「教会ですか? 神様に会うのですか?」
頭をコテンコテンと傾けながら聞いてくるアリル王女に、その可能性を考えていなかったクロはしまったと思いながらも頷く。
「金貨五枚は浮いたのでそれを募金しようと思います。流行り病はそれほど流行っていないですが、貯蓄のない者たちも多くいますし、そういった方が流行り病にかかったら教会の出す炊き出しを目当てにすると聞きました。浮いたお金でそういった人たちが助かればと思い、寄らせていただけませんか?」
クロの言葉にお付きのメイドがアリル王女に耳打ちをすると、パッと顔を上げクロを見つめ口を開く。
「偉い! クロは偉いのです! 私もお小遣いから少しですが出させて下さい!」
その言葉にお付きのメイドは何度か頷き、近衛兵は感動したのか涙を流す者もいるが大半はフルフェイスを被っており籠った嗚咽を上げて人目を集める。
「何だか怖いね……」
エルフェリーンは素直に怖がり、アリル王女もお付きのメイドの腕にしがみ付く。
「人目もありますし早めに移動しましょうか」
「はい! 馬車をこちらにお願いします」
アリル王女のお願いに涙を流していた近衛の隊長だろうイケメンは指示を出し、やって来る豪華な馬車に乗り込むと教会を目指し車軸が動き出す。
街並みを見ながら進むと多くの者がマスクを着け、アリル王女も馬車に乗るとお付きのメイドに大きめなマスクを装着され、それが嬉しいのか目元が弓なりに変わる。
「アリルも可愛いマスクだね。淡いピンクにハートの刺繡がオシャレさんだよ」
「えへへ、お姉ちゃんとお揃いです! 馬車やお城の外では付けなさいって言われました」
「そっか、アリルは約束が守れて偉いね! 僕はクロが出してくれたマスクだけど白一色であまり可愛くないんだぜ。可愛いのを出して欲しいな~」
期待するような瞳を向けるエルフェリーン。アリル王女も同じような瞳を向けお付きのメイドもクロへと視線を向ける。
「俺の知っているマスクは白ぐらい……他はマスクでもヘルメットか有名人のマスクぐらいかな……それよりも、そろそろ小腹が空きませんか?」
あからさまに話題を変えたクロはアイテムボックスに常備しているお菓子を取り出すと、少女と幼女にメイドが目を輝かせる。
「これは甘いお菓子なのですが、王女さまが食べても問題ありませんか?」
「毒見させていただけるのなら可能です」
コアラ型のお菓子を未開封で渡したクロは開け方を説明しながらメイドに開封作業を任せ、自身もエルフェリーンに与えるひとつを開封する。
「ふわぁ~これも何かの動物ですか? それとも魔物ですか?」
「面白い形をしているね~あむあむ……おっ、チョコが入っているよ~クロの地元には面白い魔物がいるんだね~」
某チョコ入り菓子を食べながら満面の笑みを浮かべるエルフェリーン。それを見たメイドもひとつを口に入れ味を確かめややだらしない顔へと表所を変え、アリル王女は待ちきれなかったのかメイドの持つ箱に手を入れひとつを口に運ぶ。
「ふわぁぁぁあぁぁ、サクサクとして中に甘いものが入っていました~はっ!? 絵柄を見れば良かったです……」
慌てて口に入れた事もありどんな絵か確認できなかったアリル王女は少しだけ悲しそうな顔をするがメイドが箱ごと渡しすぐに笑顔に戻り、ひとつ取り出してはそこにプリントされた動物の絵を見つめる。
「よく見ると可愛いですね! ううう、どうしましょう。可愛いと食べられないです……」
またもしょんぼりとした表情を浮かべるアリル王女に、エルフェリーンは「食べてやるのも供養だぜ~」と笑いながら食べ進める。
「アリル王女さま、これは小麦粉を練って作っていますから、そんなに悲しまないで下さいね。中の甘いものはチョコというもので食べ過ぎなければ体に良いものですよ。それとこれはメイドさんが食べて下さい。一緒に食べる事が問題なら後ででも構いませんからどうぞ」
減り続けるチョコ入りお菓子を悲しそうな顔で見つめていたメイドに未開封のそれを手渡すと、潤んだ瞳を向けながら頭を下げお礼を口にする。
「私までありがとうございます。このご恩はいつかお返しいたします!」
「お返しとかは別に大丈夫ですから……ああ、この薄い袋は燃やさないで下さいね。アリル王女に渡しているものと一緒に集めて置いて下さい。あとで回収しますね」
「畏まりました。そのように致します」
それだけ言うとメイドも封を開け口に入れると先ほどと同じように表情を崩し、クロはアイテムボックスからペットボトルの紅茶を取り出すとメイドに渡し、エルフェリーンには開封して渡す。
「ごくごくぷはぁ~うんうん、この甘くない紅茶も美味しいね! チョコが甘いからちょうどいいよ~」
「お飲み物までありがとうございます。アリル王女さま、私が持っていますのでいつでもお声がけ下さい」
「うん、ありがと~美味しいね! あっ!? 眉毛が面白いですよ~」
そういいながら皆に眉毛の太いコアラを見せるアリル王女。
「本当に眉毛が太いね~こっちのは楽器? を持っているぜ~」
「私のは髪が長いです……あむあむ……」
互いに手にしたコアラを見せ合い笑う乙女たちにクロが蘊蓄を添える。
「眉毛のあるコアラは幸運の証とか聞いたことがありますよ。アリル王女さまには何か良いことがあるかもしれないですね」
「本当ですか!? でもでも、食べちゃいました……」
「お菓子ですから食べて下さいね。取っておいてもカビが生えちゃいますからね」
「はい……何か良いことがあると期待します! あむあむ……」
こうしてお菓子を食べながら馬車は進み教会の前へ到着すると何やら多くの神官やシスターの姿があり、その前には聖女と聖騎士がずらりと並ぶ姿が見え、頭にちらつく流行り病の現状。
門の警備兵はあまり流行っていないと言っていたがこれだけの教会関係者が一堂に並んだ姿に何かあるのかと勘繰るクロとエルフェリーン。窓から近衛兵が一人のシスターに話しかけている姿が見え成り行きを見守っていると、聖女が馬車へと歩みよりドアをノックする。
ノックの音にメイドが動こうとするがクロが手で制して馬車から一人降りると片膝をついた聖女の姿があり、その後ろにいた聖騎士や神父にシスターたちまで片膝を付きある事に察する。
ああ、アリル王女さまがいるから最敬礼の姿勢を取っているのか……俺が一番に出てきたのは間違えだったのかも……
失敗したと思うと耳まで顔を赤くするクロ。後ろからエルフェリーンが降りてもその敬礼は止まずに頭を傾けたままであり、アリル王女とメイドが降りても頭を下げたままで困惑するクロ。
見なかった事にして先に進む度胸のないクロは聖女に声を掛ける。
「あの、募金をしに来たのですが……」
そう声を掛けると聖女は顔を上げ潤んだ瞳を向けて来る。
「女神ベステルさまがお待ちです。どうかこちらにお越し下さい」
そういいながら立ち上がる聖女。聖騎士たちも立ち上がりクロたちを取り囲む。その中には以前決闘した剣聖の娘や聖騎士団長の姿もあり、ニッカリとした笑顔を向けて来るのだった。
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