アリル王女とキーホルダー
「アリル王女さまも何か買い物に来たのですか?」
挨拶を交わしたアリル王女はクロの足にしがみ付きニコニコ笑顔で見上げて小さな口を開く。
「えっと、門番の報告を受けてきました! お兄様とお姉さまが忙しいのでエスコートをガンバリます! 遊んでくれますか?」
「そっか、アリルは遊びに来たのか………………」
アリル王女の言葉からエルフェリーンはお付きのメイドへと視線を向けるとサッと逸らされ、門番からの報告という言葉に監視対象である事に気が付く二人。遊びましょうと誘われるあたりが危険人物という認識ではない事が窺える。
「うん! 本当はお兄様かお姉さまが来たかったんだって! でもでも、お勉強の時間は絶対ダメなんだよ。アリルもお勉強の時間はガンバルもん!」
「アリルは偉いな。こんなに小さいのにお勉強を頑張っているのか~偉い偉い」
「えへへへへ、クロに褒められた~」
膝に抱き着き離れないアリル王女の金髪を優しく撫でるクロに向日葵のような笑顔を向け、お付きのメイドは今も顔を逸らしたままであり、この店の店主もヒビを繋ぎとめているテープに気を付けながら窓枠からガラスを外している。
「外の近衛兵は入れなくてもいいのかな?」
「お外の兵士さんも訓練中です! みんなでアリルを守る訓練だからガンバっています! クロはみんなも撫でてくれますか?」
メイドからアリル王女へと視線を変えたエルフェリーンが外で店を囲み警備する兵士たちの事を口にすると、予想外の答えが返されクロは明らかに困った顔をする。
「俺が撫でて喜ぶかな~それよりも、ほら、あっちに動物の置物があるぞ。ガラスでできているからキラキラして綺麗だろ」
「ふわぁ~オオカミさんに鳥さんにドラゴンさん! みんな可愛いです!」
困ったクロが近くの棚に飾られているガラス製の魔物や動物たちの彫刻を指差すと幼いアリルは目を輝かせ、クロの手を引きそちらへと向かう。
「キラキラです~」
「そうだな。落とすと割れちゃうから見るだけにしような」
「はい! ガラスは割れてしまうので触っちゃダメです! 前にお父様のコップを割って怒られました……」
その事を思い出したのかシュンとするアリル王女にクロは魔力創造を使い小さなイルカのガラス細工のキーホルダーを創造する。
「ほら、これは思い出深い物だけどアリル王女さまにやるよ。海にいる動物でイルカっていうんだぞ」
手に収まるサイズのイルカのキーホルダーを受け取ると、キラキラした瞳で頭を傾けながら様々な角度で見つめるアリル王女。
「クロ! ありがと~イルカ! イルカだって!」
クロにギュッと抱き着き喜ぶアリル王女はグリグリと頭を擦り付け喜ぶと、お付きのメイドへと走り出しクロに貰ったイルカを見せてメイドエプロンに抱き着き喜びを表現する。
「ちゃんとお礼を言えましたか?」
「うん、ありがと~できたよ! エルフェリーンさまも見て見て、イルカだよ! 店員さんもイルカだよ!」
クロから貰ったイルカのキーホルダーを高く上げてみんなに見せるアリル王女にエルフェリーンが微笑み、店主は窓枠から視線を変えるとイルカのキーホルダーを凝視する。
「あんなにも小さく……そうか! 何かに付けるのですね! これは売れる! 小さいので材料費は少なく済みますし、何かに付けておけば自分の物だという目印にも……」
初めて見るキーホルダーにその使い方と商品価値を見出す店主はエルフェリーンへと視線を向けて口を開く。
「あのイルカはどこで売られている物でしょうか? もし可能ならうちでも色々な魔物や動物を模したものを作りたいのですが」
グイッと顔を寄せる店主にエルフェリーンはクロを指差すと、一気に間合いを詰める店主。クロは体を逸らせながらも「これはキーホルダーと呼ばれるもので――――」と簡単な説明をして、売られているのは見た事がなく自身で作ったと口にするとその手を強く握る。
「これから商標登録に行きましょう! 権利はもちろん貴方が取り、この店で販売させて下さい! アリル王女さまが愛用しているという付加価値も……アリル王女さま!?」
今更アリル王女の姿に驚く店主にスカートを摘まんで頭を下げ挨拶をするアリル王女に、店主はクロの手を放し九十度の礼を取る。
「ごごご、ご来店ありがとうございます!」
「はい! きました!」
何やらおかしな空気になるガラス店。その後はガラスを入れてもらい支払いを済ませたクロたちは商業ギルドに向かうことはなく、キーホルダーの特許をガラス店の店主に渡す代わりに窓ガラス代を無料にしてもらう事となった。
参考になればとイルカと同じサイズのガラス製のキーホルダー数種とイヤリングを魔力創造で作り出し渡すと、店主は伝票として使っている薄い木札にサラサラと書き入れクロに手渡す。
「生涯無料……それはやり過ぎですよ」
「いえ、これはガラス革命です! キーホルダーというものは必ず売れます! 小さく手に取りやすいですし、取り付けることで嵩張らない! 数種の動物がいればコレクションしたくなるのが人というものです! 一抱えするサイズでもお貴族様は並べて飾るのですから、手の届く価格と小さなサイズに一般のお客様もきっとコレクションするはず!
それにガラスをこのような耳飾りにするのも凄い事です! 宝石や魔石に劣ると思われ、偽物と呼ばれることのあるガラスを敢えてガラスらしい流動な形を取ることでガラスは宝石にも負けない装飾品になると……
私は嬉しいです! このような可能性を教えていただき……ガラス職人になって良かった……」
涙を流しながら喜ぶガラス店の店主にアリル王女が軽くもらい泣きをしてメイドエプロンを軽く濡らすなか、クロは補修された窓枠をアイテムボックスへと入れる。
「うんうん、あとは君の頑張り次第だね。金具も確りと特許を取るんだからね」
「はい、必ず! ガラス製品でお困りの時は是非うちに来て下さい!」
「その時はよろしくお願いします……あの、手が痛いのですが……」
手を力強く握っていた店主が手を放すとクロの手にはその跡が赤く残っていた。
「すみません!」
「これぐらい大丈夫ですから、それでは急ぎますので失礼しますね」
「はい! ありがとうございました!」
店を出ると丁寧に頭を下げる店主。出たら出たで近衛兵がずらりと並び取り囲まれるクロたちに、フェイスガードを上げて会釈する隊長だと思われるイケメン兵士長の姿があり頭を下げられる。
「なんか暑苦しいね……」
エルフェリーンの漏らした言葉に同意するのだった。
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