窓ガラスを買いに王都へ
「毎回思いますが、本当に凄い魔法ですよね……」
黒い渦に足を踏み入れると遠目には王都を覆う城壁が目に入り、草原に佇むクロは前で笑顔を向けるエルフェリーンに声を掛ける。
「これは魔法じゃなく魔術だぜ~魔法は言葉通りに法則に則った法で、魔術は努力して解析し発展させた術。基本元素を用いたものが魔法。
ゲートや転移というものは法から外れ魔力という力で強引に点と点を繋げたものだよ。理解するのには時間が掛かるし、なかにはスキルという特別な力で使用できるものもあるからね~明確に分けて宣言することはクロにはまだ難しいかな」
天魔の杖でクロを指して宣言するエルフェリーンは師匠らしい態度を取りクロは「精進します」と弟子らしいことを口にすると、二人は笑い合う。
「今のは師弟関係ぽかったぜ~うんうん、これならキュロットに指摘されないだろうな。彼女にも見せてやりたかったね!」
「昨日の飲み会ではお酌しない事に怒ってましたからね……俺も師匠に色々と甘えて弟子として失格でしたし……」
昨晩は新築が完成した事を祝い手伝ってくれたエルフにオーガを加えて酒を飲み盛り上がったのだが、酒が入ったキュロットはハイエルフであるエルフェリーンに対する態度を色々と怒られたのだ。エルフにとってハイエルフという存在は神と等しく、カップが開けばお酌をする。料理が少なくなれば皿に取り分ける。トイレに行く際はエルフェリーンの許可を得てから場を抜ける。など、かなり厳しいエルフなりの飲み会ルールが存在しておりキュロットから説教を受けたクロ。
ビスチェやフランとクランを含めたエルフたちはそんなルールを守っている者はなく、白ワインを互いに飲みながらクロの作る料理に舌鼓を打ち早々に酒に溺れ寝息を立てており、その説教はクロにだけ向かったのだ。
しかも酷いことに、次の日はすっかりその事を忘れているキュロットは笑顔で次の飲み会はいつなのか必要に聞いてくる始末で、更には二日酔いのエルフたちに薬を配るクロを見て「もったいないから水だけで十分よ」と口にし、昨晩余った白ワインを朝から飲むダメ人間振りを発揮していた。
これには二日酔いの頭痛から回復したビスチェも引き、「せめて今晩にしろ!」と声を大にして怒ったのである。
エルフェリーンも昨晩の説教は聞いていて気分が悪かったらしく、「僕はそんなこと求めていないし、自分のペースで飲みたいからね!」と白ワインをラッパ飲みするキュロットへ告げ頬を膨らませたのだ。
「そんな事はないぜ~クロは立派な僕の弟子だよ! 師匠として思う所だからね! 誰が何と言おうが師匠は僕でクロは弟子だよ! ふふん」
鼻を上げ笑うエルフェリーンの言葉に心を温かくするクロ。二人でそんな話をしているうちに城壁の検問所へと到着すると、警備兵はエルフェリーンの広めたマスクを装備しており頭を下げる。
「エルフェリーンさま! ようこそ王都へ!」
警備兵の言葉に手を上げて挨拶をするエルフェリーンとクロもここに来る途中でマスクを着けており、列を作る商人や冒険者もちらほらマスクをしている姿が見受けられる。
「やあ、今日は窓ガラスを買いに来たのだけれど、流行り病は広まっているかな?」
「いえ、それが流れてくる商人数名が発症しましたが、それ以降は確認されず広まっていないのです。毎年の事で覚悟をしている民衆もマスクと手洗いの効果ではないかと思い始めている所です」
「酒場で少し広がりましたが、素行の悪い冒険者のパーティーが寝込み笑い話になったぐらいですよ」
二人の警備兵から聞いた話に胸を撫で下ろすエルフェリーンとクロ。
後ろで並ぶ商人たちもマスクの効果と有り難がっており、マスクを商品化しオリジナルのブランドを立ち上げるほど人気になっているのか、デザインに凝ったものを付けている商人などが目に入る。
「それは良かった。誰だって苦しい思いはしたくないからね。この調子でマスクと手洗いを宣伝してくれると助かるよ」
「はっ! ここの検問所では無料のマスクも配っておりますのでいつでも来て下さい」
警備兵に通され町に入るとマスクが流行っている事を一目で実感でき、待ち行く者たちは皆マスクを着け歩き、中には馬の鼻や走り鳥などにもマスクを着け荷馬車や馬車を引いているのだ。
「これは凄いね! みんなで流行り病と闘っているよ!」
「この調子なら流行り病で亡くなる人も減るかもしれませんね」
二人は足を進め職人たちが多く住むエリアへと足を進め、一軒のガラス工房に足を踏み入れる。
ガラス製のドアベルが涼しい音を奏で店内に入ると多くのガラス製品が並び、ステンドグラスの様なカラフルなものから透明なガラスの窓枠に、ガラス製のグラスや壺などが並び、中にはガラス製のフルプレートが飾られている。
「ここのガラス工房は王国一だぜ~透明度の高さも一番だし、創意工夫した製品が多く作られる名工だぜ~」
「確かに凄い腕をしているみたいですね……あの鎧とか故郷でも見た事がないです……」
「あははは、あれは観賞用の鎧だね。鉄のような色合いだけどガラスの輝きがあって綺麗だね~」
「そりゃ有り難いこと言ってくれ……エルフェリーンさま!?」
奥から出てきた女性が驚きの声を上げ、その口には布製のマスクを着けた小麦色した肌が眩しい美人がエルフェリーンに慌てて頭を下げる。
「やあ、今日は」
「あの時はありがとうございました! 今も元気に生活できております!」
エルフェリーンお言葉を遮って頭を下げたままお礼を叫ぶ女性に、エルフェリーンは手をパタパタとさせ再度口を開く。
「そんな昔の事はもういいよ~それよりも、クロの部屋に合う窓ガラスを買いに来たんだ~ほらほら、おすすめを教えてくれないか」
その言葉に顔を上げた美人店主は赤くなった目をこすりながら商品のある場所へと足を進め、二人はそれを追う。
「ここが窓ガラスエリアです。サイズも特注で制作できますし、窓枠や装飾なども色々と御用意できます。ここにない豪華な装飾もありますので」
「あの、そんなに豪華じゃなくて、この普通の窓枠……いや、これだと少し色合いが違うか……」
「クロは窓枠を持ってきているだろ。それに気に入ったガラスを入れてもらえばいいよ」
エルフェリーンがいうようにクロはアイテムボックスから窓枠を取り出し、ヒビの入ったガラスを見た店主は目を見開く。
「これは……透明度が高いですね……それにこのヒビを繋ぎとめているものは……」
何度も角度を変えて見つめる美人店主にクロは、自身で魔力創造したテープの存在を伝えていいか判断ができずエルフェリーンに視線を向けるとニコニコと微笑まれ、そうじゃないと思うクロ。
「いやいや、テープの存在を……」
膝を折って顔を近づけ小声で話すクロにエルフェリーンは納得したのか口を開く。
「クロは気にしすぎだよ~ほら、別のお客さんも入ってきたから……ん? あれはアリルだ! それに騎士団も外にいるね~」
入口に視線を向けると涼しいドアベルの音と共に入ってきた幼女王女のアリルの姿があり、クロとエルフェリーンに気が付いたのか手を振りながら店内を走りクロに抱き着きこちらもニコニコとした顔を上げる。
「ごきげんよ~」
元気な声が店内に響き、後ろから追ってきた専属メイドが丁寧に頭を下げるのだった。
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