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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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凹む一人と一匹



 鍛冶工房と錬金工房に消音の魔法陣を刻み入れ、あとは窓ガラスと引っ越しで建て替え作業が終わる。

 クロはビスチェやエルフたちと共に各部屋を回って窓を慎重に取り外す作業をしていた。


「木の釘は取り外す時に不便ですね」


「鉄を使わないので材料費を削れますが木製だと長い年月で確りと固まり強度が出ますが、こう硬い木材を使うと切断に力と時間が掛かりますね」


 手伝うエルフは窓枠に細いナイフを入れ固定している木製の釘を切断する作業をしながら言葉を漏らす。


「鉄製の釘だと錆びた時の見栄えが悪いわ。木製の釘を使用するのは師匠の拘りでもあるし私は好きだけどね」


「俺も木製の方が好きだな……なんかさ、凄い技術を使っている気がしてさ。窓枠と窓を固定するのにも使っているし、鉄とは違って優しい感じがするんだよな~」


 ビスチェとクロは開閉式の窓を取り外すと慎重に布で包みガラスが割れないようテーブルの上に重ねる。


「白亜はこの上に乗ったらダメだからな。ガラスは高価なものだし透明なガラスは金貨数枚とかするからな。絶対にダメだぞ」


「キュウキュウ」


 頭を上下させ不思議そうに取り外したガラスを見つめる白亜。普段はそれほど気にした事はなかったのか頭の角度を変えて透明なガラスを見つめ、反射して映る景色やクロの顔を見比べて喜ぶ。


「ふぅ……こっちはこれで外せますね」


「こっちも終わった……後でナイフの手入れもしないと……」


 薄いナイフの刃を見ながらフランがため息を漏らし、慎重に窓枠を外す。


「リビングはこれで終わりだな。あとは各部屋とキッチンに風呂場だが、精霊にお願いしたらもっと楽に木製の釘が壊せるんじゃないか?」


 外した窓枠に布を巻き始めたビスチェに声を掛けると、手を止めて眉間にしわを寄せクロは相変わらず阿呆ねとでも言いたげな顔をする。


「精霊にお願いしてもできなくはないでしょうけど、精霊は大雑把なのよ。この木製の釘だけを破壊してとお願いすれば高確率でガラスは粉砕ね。木の精霊なら釘だけを抜くことができるかもしれないけど、振動でガラスは粉砕ね。結局ガラスは粉砕よ」


「窓枠を外してもらうとかはダメなのか?」


「それなら壁が粉砕ね。私がたまに攻撃で使う風の刃ならできなくもないけど、範囲を指定するのが難しいわ。下手したらこの家が倒れるかもしれないわ」


「ん……ゆっくり確実にするのが一番」


「精霊さまは気まぐれなところもあるし、悪戯でガラスを割ることもあるから人力でコツコツだな」


 フランとクランもビスチェに同意し布で窓ガラスを包むと二人は新しい家へと運び始める。


「精霊魔法は精霊を信じて正確に伝えることができなければ失敗する。発動はしても失敗するのよ。関係ない所を破壊したり、仲間を巻き込んだり、森を破壊したりね。精霊と契約していても精霊の機嫌を害うようなことをすれば見放されるし、勝手に契約を解除されることもあるわ。精霊魔法は繊細なのよ」


 腕組みをしながら説明するビスチェ。その体のまわりがキラキラと光り精霊に愛されているのが窺える。


「へぇ~いま体のまわりでキラキラし始めたのは精霊だろ?」


「そうよ! 風の精霊が私のまわりでこれからも一緒にって言っているわ。私は精霊たちに気を使っているものね」


 手を動かすと光がそれを追い、天に向けた手の平をぐるぐると回る光は神秘的で思わず見惚れるクロ。白亜も口をあんぐりと開け神秘的な光景に目を奪われ、同じように手を天に向けるが光が集うことはなくクロへと視線を向ける。


「キュウ~」


 クロへと飛びついた白亜は自身が精霊役なのか羽ばたきながらクロのまわりを飛び、察したクロが手を上げるとクルクルと腕を中心に回り、最後には手の上に着地する。


「白亜も見事よ! クロの契約ドラゴンね!」


「キュル~キュル~」


 クロの契約ドラゴンといわれた事が嬉しいのか鳴き声を上げ尻尾を振る白亜。クロはそんな腕に乗る白亜を下げて抱きしめる。


「白亜は可愛いな~契約云々はどうでもいいが、こんなに懐くと俺も白亜の為に何かしたくなるよ」


「キュウキュウ」


 優しく抱きしめその頭を撫でると目を細めて気持ち良さそうな表情を浮かべ、クロも微笑む。ビスチェは呆れた表情をしながらも二人の関係に笑顔を浮かべる。


「ほらほら、イチャイチャしていないでガラスを運ぶ! どうせイチャつくのならビスチェにしなさいよ!」


 二階からガラス付きの窓枠を下ろすキュロットに声を掛けられ顔を染めるビスチェ。白亜はイチャつくという意味が分からず首を傾げ、クロは頬を染めながらも白亜を撫でる手を止めずに撫で続ける姿に、大きなため息を吐くキュロットは後ろから続くエルフたちと布で包まれた窓ガラスを運び外へと姿を消した。


「ほら、クロも行くわよ!」


 顔を染めながらも布に包んだ窓ガラスを重ねて手を置くビスチェにクロは立ち上がり端を持つと二人は足を進め、白亜は飛び上がり二人が協力して持つ布の上に着地するとピシリという嫌な音が耳に入り足元へ視線を向け、二人は犯人へ視線を向け、犯人は白い顔を青く変えた。








「これで引っ越しは完了ね!」


「そうですね~クロ先輩のアイテムボックスに入れれば持ち運びも簡単で助かりました」


≪ふふふ、私が担当したお風呂場のお披露目タイムですよ~≫


「岩を使ったお風呂にびっくりだよ~家の中なのに岩風呂で不思議な感じがしたよ~」


≪あああっ!? エルフェリーンさまがネタバレうぉっ!?≫


「いいじゃない、どうせ今日から入るのだから」


≪それでも驚いて欲しかったのにぃぃぃぃ≫


「今日は引っ越し祝いだぜ~料理はクロに任せるから僕も手伝うぜ~」


 ガラスを取り出し新しい窓枠にガラスを入れて窓枠を嵌め込んだ新しい屋敷は、以前の屋敷よりも広く明かりが入り暖かい印象を受ける。それに加えてプロペラを使った空気循環で地下室の冷たい空気を二回まで運び下ろすことで一年中快適な室温となる工夫や、暖炉から延びる煙突を天井に這わせることで熱が通り二階の部屋は床暖機能付きである。

 吹き抜けの天井にも大きなプロペラが設置され暖かい空気を下へと送ることができ快適な屋敷の完成であった。


 一部屋を残して……


「やっぱりテープで補強した窓ガラスの新築は凹むな……」


「キュウゥゥゥゥゥ」


 クロの部屋だけは白亜が割ったガラスが再利用され、魔力創造で創造したテープを張りひび割れた窓ガラスに肩を落とすクロと白亜。

 最初からマジックボックスのスキルを使って窓ガラスを運んでいれば白亜が乗ってガラスを割る事故は起きなかったのだが、飼い主として白亜のミスの責任を取り自室の窓に備え付けたのだ。


 そんな凹む一人と一匹を廊下から見つめる乙女たちは引っ越し祝いのテンションを抑えながらエルフェリーンが口を開く。


「よし! 明日は王都へ行ってクロの部屋に合う窓ガラスを買いに行こう! 流行り病の現状も気になるから行くのは僕とクロだけだけどね」


 開け放たれたドアの前で笑顔を向けてくるエルフェリーンに顔を上げるクロ。白亜も嬉しそうに廊下を走りエルフェリーンの足に抱き着き尻尾を振るのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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