魔力創造
門の中は多くのオーガが集まっており武器を持った警備の者から農作業をしていただろうかごを背負った者に引き抜いたばかりの大きな大根を持つ者など様々で、一様に歓迎しているのか表情は和やかである。
広い畑には多くの葉野菜や根菜などが育てられ、奥にはログハウスの様に積み上げられた丸太を壁に使った家々が並び、所々にはオーガの子供を抱き上げるオーガ主婦が目に入る。
「クロ! クロ!」
「甘いのちょうだ~い」
「クロの好きなキノコ集めるぞ!」
主婦たちの手から逃れた子供たちはクロの元へ駆け寄り、何やら目当ての者があるのか声をかける。
「それは嬉しいが今日は用があるから少し待ってな」
「そうだぞ。私が最初だからね。後で呼ぶから良い子にしてな!」
クロが応え村長が歩きながら子供たちをけん制すると嬉しそうにキャーと叫びながら逃げて行く子供たち。震えながら歩いていた第二王子ダリルのお付きたちは優しい笑みを浮かべ震えて歩いてのが嘘のようにリラックスして歩きだす。
「あいかわらず子供には人気があるわよね~」
ビスチェの声に肩を落とすクロであったが、第二王子ダリルは声には出さなかったが腰に抱きつき歩くオーガの子供や背負ったままの眠るエルフェリーンの姿に確かにと思う。後ろのメイドや女騎士も同じだろう。
「クロが出してくれるお菓子は美味しいもの。それにクロはこの村の英雄だからね」
腰にしがみ付いていたラライが顔を上げ頬笑みながら声を上げる。
「お菓子だけじゃなく酒や塩も助かっているぞ。そうそう、十樽ほど試作したが二樽が腐った。あと八樽だが上手くいくかわからんぞ」
足を止め一軒の倉庫を見つめる村長にクロも同じ倉庫を見つめながら足を止める。
「味噌が作れたら料理の幅が広がるのにな……」
「今まで通りに物々交換ではダメなのか?」
「そりゃそれが一番だけどさ、俺だって死なない訳じゃないし、この村で作った方が後世にまで美味しい物が食べられるだろ」
「そうだがなぁ……まあ、上手くいけば上手くいったでいいか」
「クロは変な心配をし過ぎなのよ。もっと気楽に考えないと将来はクロじゃなくハゲって呼ばれるわよ」
ビスチェの言葉に自身の頭に手を乗せ髪の毛の量を確認するクロに、村長とラライにメイドたちは笑い女騎士も肩を震わせる。
暫くすると一際大きなログハウスが視界に現れると、ラライがクロから離れ「お茶の準備をしてくるわ」と言葉を残し走り去る。
「昨日からラライがお茶の入れ方を練習してな、クロに振る舞いたいんだろう」
「それならお茶受けは奮発しないとだな」
「それで魔力を使い過ぎないでよね」
「ああ、そこまで阿呆じゃないよ」
そんな話をしながら家に入ると中は広いが物が少なく、こざっぱりとした印象を受ける。
「適当に座ってくれ」
床には長テーブルとそのまわりには藁で編んだ座布団が等間隔に並べられている。
「ああ、ここでは靴を脱いでくれ」
ブーツのまま上がろうとした女騎士を手で牽制し自身の靴を脱ぐクロ。ビスチェもブーツを脱ぎ上がり日の光が差し込む場所へ腰を降ろす。
「お茶を入れたわよ~」
そう言いながら人数分のお茶を入れたカップが乗るトレーを持って来るラライにドキドキしながらも腰を降ろす一行。ラライの母親である村長は両手をワタワタしながらも見守る事に決めたのか腰を下ろしたまま「ゆっくりでいいから気をつけろ~」と愛娘を心配する。
「だ、大丈夫だから座っててね。ふぅ~お茶です!」
額を手で拭うと息を吐き自信満々な表情で胸を反らせるラライはドヤ顔である。
「はぁ……こんなにも緊張感のあるお茶を貰ったのは初めてだ」
「まったくだね……」
「何よ! せっかく入れたんだから嬉しそうにしてよ!」
ツーンと口を尖らせるラライにまわりからは笑い声が上がる中、クロは「よくやったな」と声をかけ手に魔力を集中する。
白い魔方陣が浮かぶと包装紙で包まれたクッキーが姿を現し、笑っていた第二王子やメイドに女騎士は目を奪われた。
「アイテムボックスとは違うように見えたが……」
横でコクコクと頷くメイド。
「ああ、これは俺の特殊スキルで魔力に応じて色々と生み出せるんだよ。俺が体験したものを複製できるのだが使い勝手が悪くてな」
クッキーをテーブルに置くとクロは集中し、新たに魔方陣が生まれると朝食で食べたホットサンドがその手に現れる。
「それは今朝食べた……」
「見たり、触ったり、口に入れたりすると複製できるけど、見ただけとかだと大量に魔力を吸われる。出したい物のイメージがより確りと出来ない限りは生み出せない不便なスキルだよ」
手に出したホットサンドをどうしようかと思っていると目をキラキラさせるラライ。そのまま手を伸ばすと口で迎え入れ嬉しそうにモグつき「おいしー」と声を上げる。
「ほら、自分で持って食べろよ。それとこれはお茶受けにどうぞ。ああ、包装紙はこうやって破ると開きますから中身だけ食べて下さいね」
そう言ってひとつを開封し口に入れるクロ。
「おお、チョコ入りだな! あむあむ……」
「やった! 私はこのクッキーが好きよ」
村長とビスチェは躊躇う事なく開封し口に入れ、メイドや女騎士も口にし、第二王子ダリルも手を出すと包装紙の絵に描かれたものを凝視し、開封すると絵と同じものが出てきた事に驚きながらも口にすると、更なる驚きが口内に広がった。
「これは甘くてサクサクとして美味しいです……」
「これもクロさまの料理なのでしょうか?」
「王都でも十分売れる味だな」
口々に賞賛の声が上がり、クロはお茶で口直しをすると茶葉の苦味が口内を襲う。
「ちょっ、苦っ!? これは苦いぞ」
「クロの為に茶葉を二倍にしたのよ! えっへん」
ラライなりのサービスに顔を歪めながらも苦いお茶を口にするクロ。
「それはサービスじゃなくて嫌がらせよ。まったくラライはいつまでも子供ね」
「むぅ、サービスだもん! クロは特別なの!」
ビスチェとラライの言葉に笑いが起きるなか、メイドの一人が口を開く。
「クロさまのスキルさえあれば錬金術で生成したものを魔力が続く限り増やせるのですよね。それって凄い能力ではないのですか?」
苦味に顔を歪めていたクロはメイドへと向き直り口を開く。
「それが無理なんですよねぇ。自分は巻き込まれてこの世界に来ましたが、こっちの世界にある物は魔力変換できないらしくて、異世界の物しか……」
「それでも凄いスキルだろ。私らは醤油に味噌に酒に色々とお世話になっている」
「あと甘いのも! この村の子供たちはクロが出してくれるアメに夢中だもん!」
「だから子供たちからも人気があるのですね!」
第二王子ダリルのキラキラした視線を受けるクロは「まあな」と応えながらも、自然と手を出したお茶を口に含み顔を歪める。
「う~ん、よく寝た! ありゃ、ここは?」
クロの背中で伸びをするエルフェリーンは覚醒し、欠伸をしながらキョロキョロと部屋のまわりを見渡す。
「ここは私の家です。エルフェリーンさま」
「おお、ナナイにラライの家だったか! それに美味しそうなものを食べているじゃないか~」
名を呼ばれた村長と娘は丁寧に頭を下げるなか、クロはチョコチップ入りのクッキーをひとつ取り背中へと手渡す。
「おお、カントリーマ○ムだ! 僕はこれが大好きだよ~あむあむ……」
「溢さないで食べて下さいよ……」
首筋にパラパラと粉っぽさを感じながらも、ゆっくりとした時間に気を休めるクロたちであった。
一時間後にもう一話。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
お読み頂きありがとうございます。