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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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女神シールドの変化と天界の宴会



「祭壇? そりゃ、それっぽいものを作るのは簡単だけど……そうね……美味しいお酒を融通してくれるのなら立派なものを用意して見せるわよ!」


 命綱にぶら下がりながら腕を組むキュロットに相談するクロ。その横でビスチェは訝し気な瞳を飛ばす。


「あんた、また奉納するの忘れてたでしょ! 」


「さっき鍛冶の神様に酒を奉納して、思い出したんだよ。今度はリビングに設置するから忘れてたら教えてくれな」


「教えてくれな、じゃなーい!」


 クロのモノマネをしながら話すビスチェに、母であるキュロットは吹き出し笑い出す。


「女神ベステルさまとはお会いして約束したのに忘れるとかないわ! 他の女神さまだってあんなに喜んでいたのに、クロはどうしようもないわね! 次からは私も気を付けるから急いで奉納してきなさい! ママもすぐに祭壇を作る!」


 ビシッとクロとキュロットを指差してゆくビスチェにクロは走り出し、キュロットはぶら下がっていた命綱を解き地面に着地する。


「まったく、母親使いの荒い娘だこと……」


 文句を言いながらも娘に頼られ嬉しいのかその歩みは軽く、余った木材を漁りに動くキュロット。





 先にリビングへと向かったクロは自身で作った祭壇という名の台を隅に置き、アイテムボックスに入れている白いシーツを掛けるとアイテムボックスから用意していたお酒を置くと瞬時に消えて無くなり、待ち焦がれていたのだろうと反省をする。


「ベステルさまに、フウリンさまに、ウィキールさまに、フランベルジュさまに、鍛冶の神さまはえぇ~と、」


「カイーズさまよ!」


 後ろから正解を言われ振り向くと腕を組むビスチェの姿があった。


「おお、そうだった。さっき師匠とルビーに教わったばっかりだったのにド忘れしたよ。ありがとな」


「ええ、神様は多くいるから忘れるのも仕方ないわ。でも、会った事のある神様を忘れるのは不敬だからね!」


「ああ、そこは気を付けるよ。えっと、カイーズさまは何がいいかな? さっきは日本酒を備えたけど」


「そうね。やっぱり白ワインがいいと思うわ! 豊潤で甘く飲みやすいし、どんな料理にも合うもの! ウイスキーも供えれば完璧ね! それとおつまみもよ! チーズ系と魚料理が特に白ワインと合うから供えなさい!」


 自信満々に言い切るビスチェにクロは魔職創造のスキルを使いおつまみに最適なチーズカットされたチーズとサラミの盛り合わせを皿ごと創造し、某ファミレスの山になったポテトフライと定食屋で好んで食べていたサバの味噌煮を、手作り祭壇に置くと瞬時に消える。


「しまった、女神シールドを出さないと祭壇ぽくないか」


 もう殆ど供物を捧げ終わっているが女神シールドを展開して祭壇の裏へと固定すると、普段は微笑む女神ベステルなのだが目の前の顔は頬を膨らませ吹き出しが入り「遅い!」と文字が日本語で入っていた。


「ははは、日本語の台詞入りかよ」


「笑い事じゃないわよ! 女神さまを怒らせるとか……何て書いてあるの?」


 腰に手を当て立っていたビスチェはクロの横に座り、頬を膨らませる女神ベステルを心配そうな顔で見つめる。


「遅いってさ、お供えを増やすか……ん? ほら、微笑んだぞ」


 シールドに描かれた顔がいつもの微笑みに変わるとホッとしたのか胸を撫で下ろすビスチェ。クロは笑いながらもアイテムボックスに入れていた焼き鳥の缶詰に出汁巻き玉子の缶詰やカキのオリーブオイル漬けなどの缶詰も置くと瞬時に消え、今度は微笑みというよりも下卑た表情へと変わる。


「あら? また変な文字に変わったわよ」


 吹き出しの文字が変わりそこには「お寿司が食べたいわ! 缶詰は焼き鳥のやつが最高ね! お寿司が食べたいわ!」と、二度お寿司が書かれていることからクロは魔力創造で皆に振舞った特上寿司を創造し備える。


「置いた瞬間に消えるわね。それよりも一人前で大丈夫かしら? ウィキールさまやフウインさまも一緒じゃないかしら?」


「どうだろう……おお、あと四人前だってさ」


 吹き出しの文字には「四人前追加!」と文字が変わり追加を魔力創造するクロ。


「ふぅ……流石に魔力創造し過ぎたかな……」


 追加の寿司を置き女神シールドを解除すると、魔力の使い過ぎで疲れたのか体を横たわらせるクロ。


「ちょっ!? 大丈夫! 魔力切れならマジックポーションを出すわよ!」


 隣に座っていたビスチェがあたふたと両手を動かし取り乱すが、クロは「少し休む」とだけ言葉を残して目を瞑ると十秒もしないうちに寝息が聞こえ、呆れた表情をしながらもマジックボックスからバスタオルを取り出し横になるクロに掛ける。


「まったく……心配させて……素直にマジックポーションを飲めばいいのに……」


 寝息を立てるクロを見下ろしながら呟くビスチェ。

 その後ろで気配を消しながら母親であるキュロットがニヤリとした表情で盗み見る。更には窓からその様子を見ていたフランとクランも口に手を当て観察し、吹き抜けになった廊下のニスを塗っていたラライやオーガの娘たちに加え、白亜がニス塗れになりながらその様子を見つめ頭を傾げるのだった。







「ヒャッハー! 宴会よ~~~~~~~」


 天界の私室では炬燵に片足を掛け叫ぶ女神ベステルの姿があり、それに眉間にしわを寄せる叡智の神ウィキール。

 愛の女神フウリンは自身の前にある特上寿司に目を奪われどれから食べるか悩み、武具の女神フランベルジュはフルフェイスの西洋兜を脱ぐのに悪戦苦闘し、鍛冶の女神カイーズは鍛冶場の炉に捧げられた日本酒を先に飲んでおり頬が赤く染まり山に盛られたポテトを口に入れ表情を崩す。


「日本酒と寿司を交互に食べなさい! 日本文化の最高峰である寿司と日本酒が合わないわけがないわ! どっちも最高ならより最高よ! ポテトフライは後でまた温めてあげるから寿司にしろ、寿司に」


 女神ベステルがパワハラを行い渋々といった顔で中トロを口にするカイーズ。


「うわ~すっごいわ! これすっごいわ! 生の魚って侮ってたけど、これすっごいわ!」


「イカが甘いです~」


「確かに最高だな……甘めな梅酒よりもすっきりとした日本酒の方が調和するし、魚の臭みも消してくれたぞ」


「ふぐぐぐぐぅ、誰か! 食べてないで手伝って下さいまし! 私も早くスシを! スシを!」


「普段からそんな物を被らなければいいのにね~ああ、美味しい~知識では知っていても口にすると素晴らしさがわかるわね! これが日本の最高峰! 歴史の重みを感じるわ!」


「歴史的には二百年程度ですが素晴らしいのは認める。なれずしなどは千年以上の歴史がありますが、私はこちらの握り寿司が好みだな」


「なれずしとはどういうものなのです~?」


「魚と米を使った保存食だな。山間部で作られはじめ乳酸発酵で長期保存できるが、癖が強く食べ慣れれば美味しいのだろう。なれずしとは違うが、フグの卵巣を糠で漬け無毒化したものなどもあるな。日本に限らず地球の食文化は貪欲で、こちらとは大違いだな」


「フグの卵巣って猛毒じゃない……よくそれを食べようと努力したわね……」


「食とは生きる事だからな……それなりに苦しい歴史があるのだよ……」


 叡智の女神らしい蘊蓄を口にするウィキール。フウリンはコハダを口にして酸味のある味を日本酒で流し、カイーズはイクラの軍艦を口に入れプチプチとした味を楽しみ、鉄仮面と格闘するフランベルジュ。


 この日の飲み会で寿司という文化が天界に広まり、創造神ベステルの元へ意味もなく訪れる者が増えるのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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