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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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冷蔵庫と鍛冶の神様



 二日ほどで壁と床が張り終わり外観は既に家といっても過言ではないだろう。

 残されているのはガラス戸の設置と外装とお風呂場にキッチンまわりといった所で、クロが指示を出してバーカウンターを設置し作業しやすいアイランドキッチンをナナイとラライにオーガ数名が手伝い完成に向け動いている。


 お風呂場はアイリーンがみんなを驚かせると豪語し、一人で作業に籠っている。


 エルフェリーンとルビーは離れの鍛冶場に籠り炉の最終調整と外観などの作業に取り掛かり、エルフのキュロットとビスチェにフランとクランは命綱を付け外装に板を打ち込んでいた。


「こりゃ料理するのが楽しみになるな!」


 完成したアイランド収納を見てどこに何を収納するか思案するクロ。

 大きな窓が設置されたキッチンは吹き抜けと相まって明るく、窯が三つ設置され更には大型のオーブンを完備している。水回りも石を切り出したシンクに大瓶高い位置に設置され蛇口を捻れば水が出る使用になっている。


「私は食べるのが楽しみ~」


「まったくこの子は……それはそうと、こんなに広いキッチンが必要なのか?」


 ナナイの言葉にクロは大きく頷く。


「空いているスペースには氷の魔石を使った冷蔵庫を置くし、食器棚も置くからな。高い所の収納に便利な踏み台も置くし、何ならここで寝泊まりできるようにソファーを置いても……」


 クロはテンションが上がり普段では言わないような冗談を交えるが、その言葉にナナイとオーガの娘たちは引いていた。


「冷蔵庫って何~」


「キュキュ~」


 ラライの口調を真似して叫ぶ白亜をアイランド収納に抱き上げて下ろすクロ。


「冷蔵庫はさっきも言ったが氷の魔石を使って冷やす収納だな。二段に分かれて上は凍るほど冷たく、下は冬ぐらいの温度になるように調節している。氷も作れるし、野菜の鮮度は保たれるし、夏でも生肉が傷みづらいな。飲み物も冷やせば冷たいジュースがいつでも飲めるぞ」


 早口で説明するクロに呆気に取られるオーガたち。


「ジュース!」


「キューウ!」


「もちろん、酒も冷やせるから師匠やルビーも喜ぶだろうな。ビールとかキンキンに冷やした方が美味いからな」


「ほぅ、それは良いことを聞いた。エールは村でも作っているが、井戸水で冷やしたものよりも美味いのだろう?」


「そりゃ冷蔵庫で冷やせば五度ぐらいだからな……汗をかいた後にキンキンに冷えたビールを喉に流し込めば最高だろうな」


「冷蔵庫はクロだけで作れるのなら我が家にも欲しいね~」


「ほしい~」


「キュキュ~」


 ナナイの言葉に両手を上げるラライと白亜。オーガの娘たちは木くずを集め外へと向かいニスを塗る準備に入る。


「氷の魔石さえ何とかなれば作れると思うぞ」


「それなら頼みたいね。氷の魔石は地下にいくつか余っていたからな大丈夫なら頼みたい」


「ああ、わかったよ。師匠にも手伝ってもらうし、こっちの家が完成した後なら構わないぞ」


「やった!」


「キュ!」


 ラライと白亜が両手を上げ喜び跳ね回り「冷蔵庫~」と叫びながらアイランド収納を中心に走り始める。


「ラライはふざけない! せっかく完成したのに壊したら流石のクロも怒ると思うぞ」


 ナナイに叱られ慌てて足を止めるラライ。白亜も急停止して一人と一匹はクロへとウルウルした視線を向ける。


「壊したら怒るかな? ほら、ラライはみんなと一緒にニスを塗ってくれ。白亜はビスチェの手伝いだな。板を打ち付けているだろ」


 大きな窓から見える外では親子揃って板を打つ姿が見て取れ、白亜に手伝うよう口にすると一人と一匹は「わかった~」「キュ~」と声を上げ走り去る。


「クロは子供の扱いが上手いもんだね。私よりも親に向いていそうだよ」


「現役の母親が何を言っているんですか。それよりも包丁を入れる所と、お玉を掛けるフックとかは簡単に作れますかね?」


 キッチンを見渡し必要そうなものを考えナナイに相談するクロであった。






「炉もこれで完成だ! あとは火を入れるだけだぜ~」


 離れの鍛冶工房では炉が組み上がり一息つくエルフェリーンと、キラキラした瞳で火を入れる前の炉を見つめるルビー。


 内装もほぼ完成しており大きな棚やハンマーなどを掛ける壁に多くの武器などを飾るフックなどが取り付けられ、隣の部屋には仮眠のできるベッドにソファーが置かれ生活もできるスペースが作られている。


「火入れする前に鍛冶の神様に酒を捧げないとですね!」


「鍛冶の神? ああ、あの武器マニアの根暗神だね」


 手を合わせ思い出したかのような顔をするエルフェリーンに右口角だけが上がり苦笑いするルビー。

 鍛冶の神として崇められているカイーズ神は目元まで隠れた長い髪にハンマーを持った肖像や石造で描かれることが多く、鍛冶師は籠って作業する姿に根が暗いというイメージが付いているのだ。実際に根が暗い鍛冶師もいるだろうが、殆どの者は酒好きなドワーフが多く騒ぎながら杯を傾ける賑やかなものが多い。


「あの、お酒はクロ先輩から頂いて奉納しますか?」


「うん、そうだね~クロにお願いして日本酒を備えようか。もしかしたら恩恵の一つも炉に付くかもしれないしね。そうそう、ウイスキーも貰ってきてくれ。鍛冶場の完成を二人で祝おう!」


「はい! すぐに向かいます!」


 ルビーは急ぎ鍛冶場を出るとクロがいるだろうキッチンへと足を走らせる。渡り廊下を進みドアを開けると吹き抜けの屋敷へ足を進めキッチンにたどり着くと、木片を削るナナイとその傍で作業を見つめるクロの姿を発見する。


「クロ先輩! 炉に火を入れるので日本酒を頂けませんか? 鍛冶の神様に捧げたいのですが、あとウイスキーも貰ってくるように師匠に言付かりました」


「おお、もう完成したのか! それなら……やばっ!? 神様に奉納し忘れてたな……最近はこっちの作業に忙しくて……俺も行くよ」


 ナナイに作業を任せたクロはルビーと一緒に鍛冶場へと向かい、どこか空いているスペースに祭壇を設置できなかと考えながら足を進めた。


「おお、立派な鍛冶場だな。窓も大きいし熱くなっても風通しが良さそうだ」


「対角線が開くように窓を設置したからね~鍛冶場は冬場に使うつもりだけど、ルビーがどうしてもっていうからね~」


「せっかく鍛冶場を作ったのですから鉄を打つべきです! エンチャントも教えてもらいたいですし、早く鉄を打って何かしら作りたいです!」


 逸る気持ちが抑えられないのかその場で足踏みをするルビーにクロは魔力創造で日本酒を創造するとルビーに手渡し、アイテムボックスに入れてあるウイスキーの瓶をエルフェリーンに渡す。


「ああ、師匠に相談なんですけど、祭壇をリビングの隅にでも設置していいですか? 今週の分をまた備え忘れて、見える位置に祭壇があれば誰かしら思い出すでしょうし、忘れないかなって」


「それなら前にクロが作った祭壇を少し豪華に細工して作り直そうか。彫り物ならビスチェが得意だし、キュロットはその道のプロだぜ~女神の像を頼まれて彫る事もあるぐらいには凄腕だぜ~」


「それならお願いしましょうか。鍛冶の神様に酒を捧げるのはどうやるんだ? 祭壇みたいにお酒を置くのか?」


 日本酒を持つルビーに話を振ると、火の入っていない炉に酒瓶を入れ手を合わせエルフェリーンも同じように手を合わせる。クロも手を合わせて目を瞑り、目を開くと日本酒へ消えていた。


「これで大丈夫ですね!」


「ルビーは火を焚いてくれ。僕はキュロットにお願いしてくるよ~クロはリビングに祭壇を置く位置を決めておいてくれ」


 ウイスキーの瓶を開封するとカップに注ぎ入れるエルフェリーンとカップを手に持つルビー。二人は仲良く乾杯し喉を過ぎるウイスキーを楽しむ。


「こりゃ、俺が頼んだ方が早いかもな……」


 酒盛りを始めた二人を後に、クロは屋敷の以前に設置した祭壇というよりもただの低い台を回収しながら、外で板を打ち付けるキュロットの元へと相談に向かう。


「ふぅ~ウイスキーも備えればよかったかな?」


「鍛冶の神様は喜ぶと思いますよ」


 ウイスキーを傾ける二人は満足げに炉を見つめ、こうして鍛冶工房は完成し炉に火が入れられるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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