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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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アイリーンのリクエスト



 柱が立ち二日ほど過ぎると屋根が上がり家らしい姿になった事を見上げるクロとアイリーン。


「家らしくなってきたな」


≪数は力ですね兄者≫


「お前の兄になった記憶がないが、人数がいると作業も早いな。ナナイさんたちオーガの力や精霊さんたちの力は偉大だよ」


 見上げる家のバックに移る空はいつ雨が降ってもおかしくないどんよりとしており、エルフェリーンから「本日の建築は中止」と宣言し二度寝に入った。ナナイたちもそれならと一度家に戻り、キュロットたちエルフはビスチェを鍛えるといって朝から出ており、悲壮感漂うビスチェとフランとクランを連れ荒野へと向かった。


≪あとは壁と床に水回りと、錬金工房に鍛冶場ですね≫


「お風呂場は大丈夫なんだよな?」


≪もちろんです! 楽しみにしてて下さいね。最高のお風呂をご用意して見せます!≫


 自信満々に応えるアイリーンにどんなお風呂かは知らないクロは自然と微笑み、きっと完成したらドヤ顔を浮かべるだろうと思うクロ。


「そういや、前に寿司が食べたいって言ったけど、あれは握りか? ちらし寿司ならみんなも抵抗なく食べられるだろうけど……」


≪握りです! サーモンと赤身と玉子……できたら中トロと大トロもほしいですが……≫


「それなら昼食に少し早いが今食べるか? 一人前なら魔力創造ですぐにでも出すぞ」


≪やっぱり、みなさんは生のお魚は食べないのですか?≫


「師匠とビスチェは食べるが、ああ、フランとクランも食べるかも。前にスモークサーモンは食べていたからな。ナナイさんは食べない気がするがラライは食べそうだな」


「呼んだ?」


 白亜と一緒に走り回っていたラライが建築資材の間から顔を出し、その頭の上には白亜の姿もあり嬉しそうにクロの元に走って登場する。


「呼んだ訳じゃないが、アイリーンと一緒に寿司を食べるかと思ってな」


「スシ?」


「キュウ?」


≪お寿司とは生のお魚とご飯を醤油につけて食べる料理です≫


「生!?」


「キュウ!?」


 アイリーンの宙に浮かぶ文字を見て驚くラライとそれを真似る白亜。


「生っていっても俺が魔力創造で作るから腹を壊す心配はないぞ。故郷の伝統料理で生の魚を食べる文化があるんだよ。味は保証するけど苦手な人もいる料理だしな」


「美味しい?」


「キューウ?」


 頭を傾げながら聞いてくるラライと、頭に乗っていることもありもう傾げている白亜。


「俺は好きだぞ」≪最高の料理です!≫


 二人の言葉にパッと笑みを浮かべたラライと白亜は「食べる~」「キュウ~」と声を合わせる。


「よし、なら二人は手を洗ってこい。俺の知る限り一番美味い寿司を出してやるからな」


「わ~い」「キュ~ウ」


 二人が走り出し見送るアイリーンに、クロは「お前はいかないのかよ」という視線を送る。


≪ふふふ、私には浄化魔法という素晴らしい魔法が使えます!≫


 そう口に出すと足元に生える雑草を引き抜き掌に土のつく根の部分を擦り付け汚し、数秒沈黙すると天から光が差し込みその光に覆われるアイリーン。


≪どうです。凄いでしょう!≫


 ドヤ顔をしながら掌をクロに向けるアイリーン。掌に付いた土は綺麗に消え失せており魔法という不思議パワーの効果を見せつける。


「おお、凄いな。それってアイリーンだけに効果があるのか?」


≪綺麗にしたい場所を指定できますよ~ただ、ある程度大きな存在には効果がありませんね~苔とか小石とか≫


「しつこい油汚れとかは?」


≪余裕です! ただ、染めた衣服とかは微妙かもしれません。前に土で染めてある服に使ったら真っ白くなりましたので……私の認識で変わるみたいですけど……≫


 自信がないのか重ねた手の人差し指をクルクルとまわすアイリーンにクロは満面の笑みを浮かべ口を開く。


「今日からアイリーンは皿洗い大臣に襲名です! 拍手」


 その言葉に拍手するラライと白亜とルビー。どうやらラライに誘われルビーもこちらにやってきたらしく、意味が分からないが取り合えず拍手をする事にしたらしい。


「美味しいものが食べられると聞きました!」


「スシ!」


「キュ!」


「ああ、俺の大好物かな。アイリーンもだろ?」


≪それはそうですが、皿洗い大臣について詳しく! 詳しく!≫


「ははは、それよりもほら、席に付いてくれ。魔力創造だからすぐにできる」


 三人と一匹はすでに椅子に座り、渋々といった表情を浮かべながら腰を下ろすアイリーン。


「箸が苦手だったら手で食べることを進めるからな。魔力創造!」


 クロが手に魔力を集め集中し、昔食べた寿司を思い描くと手の平サイズの魔法陣が現れ、姿を現す下駄に乗った寿司。それもパックに入れられた物ではなく、下駄に乗った一人前の特上寿司である。


「これは近所のすし屋の特上だからな。味わって食べてくれ」


 アイリーンの前に置かれた下駄にはマグロ三種が食べ比べできる赤身に中トロと大トロに、アイリーンが希望したサーモンとハマチにコハダに甘えびイカが並び、イクラとウニとネギトロの軍艦がそびえ、玉とショウガが添えられていた。


≪うわぁ~い! まわらない寿司ですよ! これ、お高いやつですよ! 大トロを見ればわかります! これ、お高いやつですよ!≫


 テンションを上げるアイリーンがハマチを手で掴むと、一緒に創造された醤油入りの小皿につけひとつ頬張ると目を瞑り沈黙し、その様子を見守るルビーと白亜。クロはティーパックの緑茶を人数分入れる。


「おいひいです……おいひいです……ザイコーデス! アリガトーデズ」


 涙を流しながら転生して初めての寿司を口にするアイリーンは魔力で生成した文字ではなく自身の口で声を出し感想を伝える。まだ流暢に話すことはできないが感謝の気持ちと味の感想はみんなに伝わりクロは緑茶を渡す。


「美味しいのなら良かったよ。俺が食べた一番高い寿司だからな」


「セレブな生活をしていたのですね」


 お茶を受け取りながら次は何を食べようかと視線を迷わせていると、ルビーが玉子焼きを口に入れ表情を蕩けさせ、クロの腕をクイクイと白亜。


「白亜には少し大きいからしっかり噛んで食べるんだぞ」


「キュ」


 テーブルによじ登り寿司下駄を前にする白亜はクロが皿に分けた赤身の握りに齧りつく。


≪イカも美味しいです! 甘さがあって美味しいです!≫


 薄っすら涙を溜めた瞳で寿司を食べるアイリーン。その横ではルビーも涙を溜め、白亜に至っては赤身の握りを半分食べたところで固まり、こてんとテーブルに横になる。


「ど、どうした白亜!?」


 異変に気が付いたクロが白亜の体を揺すって声を掛けると弱々しい声で「キュ~」と鳴き、ルビーがお茶を口にして口を開く。


「何ですかこれ! 毒ですか!? 毒なのですか!!! 鼻がツーンとして涙も出てきましたよ!」


「キュウキュウ~」


「少し辛いけど美味しいよ?」


 白亜も同意するように弱々しい声を上げ、クロは慌ててジュースをアイテムボックスから出すと白亜が飲みやすい深めな皿に入れると、そこへ顔を突っ込む白亜。ラライはワサビの辛さにも抵抗がないらしくパクパクと食べ進める。


≪サビ入りだからですね~安心して下さい! 残りは私がいただきます!≫


「それなら俺は大トロを……おい、大トロが浮いているのだが?」


 微笑みながら浮かぶ大トロを自信に引き寄せ口に入れると、今日一の笑顔を浮かべるアイリーン。


 ルビーと白亜にはサビ抜きを出してご機嫌を取り戻すのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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