大きなウサギの精霊
休憩を終えると柱を立てる作業へと戻るクロたち。ゴーレムはずっと柱を支え続けており、何度なくだがクロは軽く会釈する。
「ふふふ、ゴーレムに会釈するなんて不思議な子ね」
キュロットが笑いながら話し、まわりの者たちも声を上げて笑い出す。
「ゴーレムに気を遣うクロは素敵だね~誰にでも気を使ってくれるそんなクロは僕大好きだよ~」
「キュウ~キュウ~」
エルフェリーンが前から抱きつき背中には白亜が抱きつく姿に微笑むキュロット。ナナイも同じように微笑みを浮かべる。
「それじゃ、ナナイたちはあっちを、キュロットはこっちね。協力して柱を立てよう!」
柱を立てるには頭を使うか力を使うかして立てる必要がある。
クロとルビーはシールドを器用に使いながら支点となり抑えるルビーに柱を傾けながら持ち上げて行き柱を立たせると、アイリーンが宙に引っ掛けた糸を使って梁を持ち上げエルフェリーンが両側から風の魔法をピンポイントで両側から当てて嵌め込んで行く。
風というよりも衝撃という方がしっくりとくる魔法は、ハンマーで叩いたかのような衝撃が走り確りと柱と梁を固定させた。
「私らもやるよ!」
ナナイが無造作に手にした柱を立てるとオーガたちが動き出しもう一本の柱を立ち上げ、肩車されたラライがアイリーンの糸に吊るされた梁を差し込み、中でも一番背の高いオーガが木槌を使い叩き嵌めて行き、確りと嵌ったことを確認したラライが声を上げる。
一方キュロットたちはというと、キュロットが柱を支えフランとクランが精霊に指示を出しキラキラとした光に包まれ浮かび上がる柱。二本の柱が立ちあがると可視化できるほど強力な羽の生えたウサギの姿を取る精霊が鼻をヒクヒクとさせ、梁を持ち上げて柱と合わせる。
「巨大だな……」
「カタツムリも大きかったですが、ウサギの精霊も大きいです……」
クロとルビーが柱を押させながら巨大ウサギの精霊を見上げ、白亜は驚いたのか近くにいたクロの足にしがみ付き様子を窺う。
「凄い……風の精霊さま……」
ビスチェの漏らした言葉に母であるキュロットはドヤ顔を浮かべ、同じように風の精霊もドヤ顔である。フランとクランは恐れ多いのかウサギの精霊に頭を下げ続けた。
「へぇ~精霊の中でも高位の存在だね。風の中位精霊かな?」
「はい、大精霊という事はありませんが、かなり高位な精霊で、私の契約精霊さまです」
腰に手を当てて鼻をヒクヒクさせる風の中位精霊。ナナイは拳を強く握り悔しそうな顔を浮かべ、それに気が付いたキュロットがドヤ顔を向けると悔しそうに唇を噛み絞める。
「うわ~でっかいウサギさんだ~葉っぱ食べるかな?」
ラライがキラキラした瞳を向けるとウサギの精霊は背を屈めて顔を近づける。
「うわ~サラサラの毛だと思ったのに、意外と剛毛だ~」
「あのあの、私も触ってきていいですか?」
「ああ、ゴーレムさんが一角を支えてくれているからな、大丈夫だぞ」
≪私も触りたいです!≫
ルビーとアイリーンがウサギの精霊の両足に抱き着き剛毛に驚くも頬をスリスリとさせる。
「ふふふ、精霊さまのおかげで私は尊敬を取り戻したわ! どうよ!」
ナナイへと叫ぶキュロットにビスチェは額を片手で抑えエルフェリーンは苦笑いを浮かべる。
「本当だな……思っていたよりも剛毛で……そうだ、キャベツ食べるか?」
巨大カタツムリと同じようにクロがキャベツをひとつ魔力創造で作り出すと、ウサギの精霊は頭を傾げるが鼻をヒクヒクとさせて口を近づけひと齧りすると目を見開き一心不乱に食べ始める。
「うそ……」
「精霊が食事している……」
フランとクランが驚きの呟くが、クロやラライは食べる姿を気にせずに頭を優しく撫で続ける。
≪小学校で飼っていたウサギたちを思い出しますね~≫
「精霊さんもキャベツが好きみたいですね! 私も少し酸っぱいキャベツは好きですよ!」
ルビーがザワークラウトを思い出し口に出し、夕食はウインナーを使った料理にザワークラウトを添えようかと考えるクロだったが、ウサギの精霊がキャベツを食べ終わると頬ずりをして後ろに倒れるクロ。
「うおっ!? 驚いたな……もしかして、もっとキャベツが欲しいのか?」
尻もちをつくクロの言葉に頭を縦に振るウサギの精霊。
「三つぐらいでいいか?」
そういいながらも魔力創造でキャベツを作り出し足元に転がるそれに齧りつくウサギの精霊。
≪一生懸命に大きな口を動かす姿に癒されます~≫
「そうですね! 大きなキャベツを大きな口で食べる姿は、なんだか迫力があっていいですね!」
クロは立ち上がり頭を下げてキャベツに齧りつくウサギの精霊の額を優しく撫でていると、いつの間にか避難していた白亜が頭の上に着地しコンコンとノックするように頭を叩く。
「おいおい、痛いからやめろ……白亜もキャベツを食べたいのか?」
頭の上に話しかけるクロに白亜はプイと顔を背け、その姿にルビーとアイリーンは肩を揺らす。
「嫉妬していますよ」
≪嫉妬する白亜ちゃん可愛いです~≫
そんな声を上げる二人に冷めた視線を送るクロ。その間も頭の上ではノックが繰り返され、ウサギの精霊を撫でる手を止めるとクロは腕を上げ白亜を捕まえ正面へと持ってくる。
「嫉妬とか言ってるけど本当に痛いからやめるように……はぁ……白亜の撫で心地が一番だからな。艶々しているし、ゴムっぽい感じだけど白くて綺麗だし、美味しそうに色々食べるしな」
二人に指摘されたこともあり撫で心地の良さを白亜に説くクロ。白亜はというと嬉しそうに「キュルキュル」と鳴き声を上げ尻尾を振るう。
「クロ先輩が素直に白亜ちゃんを褒めていますよ」
≪これは白亜ちゃんルートに進んだのか!?≫
好き勝手いう二人に冷めた視線を向けるクロは「今度は白亜ちゃんなでる~」と走ってきたラライに白亜を取られ、空いた手を合わせ小さな寂しさを感じるクロだったが、つぶらな瞳を向けてくるウサギの精霊の鼻が近づきグリグリと頬に向けられ何とも言えない気分になる。
今度は絶妙な力加減で鼻をグリグリしており尻もちをつくことはないが、それでも目の前に巨大な鼻の穴がある現状を楽しめないクロは苦笑いを浮かべながら「そろそろ離れような」と声を掛ける。
「凄い事している実感がないクロ……」
「契約者でも実体化した精霊に餌をあげたり触れさせなかったりするのに、精霊からグイグイ来ている……」
フランとクランが声を漏らしクロが振り向くと、なぜか手を合わせ拝まれるクロ。
「あははは、ほらキュロットと契約している精霊がクロに頬ずりをしているよ」
ナナイにドヤ顔を向けていたキュロットは首を九〇度回転させると大きく目を見開き、今まで見た事もなかった現象に驚き、その後ろではナナイが腹を抱えて笑い出す。
「はははははは、こりゃ、クロに精霊を取られたかもしれないね~」
「しょ、しょんな事はないわよ! 私と契約している精霊なんだから! なんだから~~~~」
急ぎ走り出すキュロットはウサギの精霊の首に抱き着くと、グルルルと威嚇の声を上げながらクロを睨みつけるのだった。
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