表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
83/669

二人の母と自己紹介



 走ってきたラライに抱き着かれたクロは手を止めるとペットボトルのお茶とジュースを出してナナイたちを出迎え、ビスチェから先に行くように指示を受けた事を伝える。


「ああ、師匠も大きな魔力が近づいて来たから飛んで行ったよ。こっちが甘くて、こっちがお茶な」


「わ~い、私は甘いのがいい~」


「いつも悪いね」


「いえ、色々と助かっています」


 ラライと微笑み合うと他のオーガたちもジュースを受け取って喉を潤していると、遠目に巨大なカタツムリと人影が目に入る。


「おお、シュワシュワだ~」


「喉を小さな虫に嚙みつかれているようだ」


「炭酸っていう気泡だな。それが入っているからシュワシュワなんだよ。ラライは飲んだことあったよな」


「うん、初めて飲んだ時はびっくりして吹き出しちゃった~」


 ひまわりのような笑顔を向けるラライにアイリーンとルビーも自然と微笑みを浮かべ、クロが魔力創造したジュースを口に入れ休憩に入る。


「アインシュタインも大きかったが隣のカタツムリは更に大きいな。下手な家よりも大きいぞ」


≪あれだけ大きければカタツムリの殻の中に住めそうですね≫


「大きくなるにつれ硬さも上がると聞いたことがありますよ。実際にそれに住む種族もいるとか」


 近づいてくる巨大カタツムリは圧巻の大きさで、前にここに来たカタツムリが軽トラサイズならその車庫サイズである。その大きな殻にロープを通し多くの荷物が括り付けられ、頂上には三つ並ぶ椅子も見え、本来であればそこに座りカタツムリを操縦するのだろう。


≪強い魔力はあのエルフですね。ビスチェさんにそっくりですがお姉さんでしょうか≫


「どうだろな。エルフは余程年を取らないと顔に年齢が出ないからな」


「長寿な種族に騙される事はよくあるからね。注意が必要だよ」


 ナナイの助言に静かに頷くクロとアイリーン。


「そうなの? 悪い人には見えないよ~」


「本当に悪い人は悪い顔をしないもんさ……いや、あいつは……」


 近づいて来たキュロットはナナイの顔を合わせると互いに顔を顰め、顔を傾げるラライを含めたオーガたち。


「まさかエルフェリーン様の庭で腕力バカに会うとは……」


「そりゃこっちの台詞だよ。腕力バカが……」


 二人の第一声に肩を竦めるエルフェリーン。


「ナナイとキュロットは昔の冒険者仲間なんだよ。喧嘩別れしてナナイは村に帰り、キュロットは冒険者を数年続けてから故郷へ帰ったんだよね?」


「はい、この腕力バカが無駄に魔物を傷つけるから、いつも買い取り料金が半額以下に」


「はっ、よく言うよ。お前は採取した薬草を忘れてきたり、討伐証明の部位ごと粉砕したり、挙句には冒険者ギルドを半壊させただろうが」


 互いにゼロ距離になるまで近づき声を荒げる二人。


「それはあなたでしょうが! 無駄に大きな胸をしているから変な男が寄ってくるのよ!」


「そっか……それはすまないね。生まれ持ったセクシーさは隠せないさ」


「これよ! これが悪いのよ! この無駄な脂肪で男どもが騙されるのよ! 世界の為にもぐといいわ!」


 ナナイの胸を鷲掴みにするキュロットの行動にクロは顔を背け、オーガの男も同じように明後日の方角へ体ごと向ける。


「もう、ママはやめてよ! みんなの前で恥ずかしい!」


「白亜~こっちこっち、面白いのが見れるよ~」


 ビスチェが母であるキュロットを止めに入り、ラライは止めに入るどころか扇子を持ち飛んでいた白亜を呼び寄せる。


 その行動に二人の母親は娘の前という事を思い出したのか、互いに数歩後退る。


「まったく二人が知り合いだとは知らなかったけど、手伝うのなら仲良くしてくれると僕は嬉しいかな」


 エルフェリーンの言葉にキュロットは頭を下げ、ナナイは頭を搔きながら「すまない」と口にする。


「まずは休憩してからにしようか。クロはキュロットたちにお茶を入れてくれ、ああ、その前に大きなシールドを張って日陰を用意してくれるかな」


「こんな感じですか?」


 頭上に大きな黒いシールドを展開したクロにキュロットは関心の声を上げ、ナナイは近くにあった加工前の丸太を運び近くにあるテーブル席の近くの日陰に下ろす。


「あなたがクロね。美味しいワインをありがとう。みんなが喜んでいたわ」


「喜びすぎて久しぶりに殴り合いの喧嘩になった……」


「ついでに長老までここに来た……」


 フランとクランからもお礼なのかクレームなのか、わからない言葉を送られリアクションに困るクロ。


「まさか来るとは思わなかったけど……」


「あら、美味しい物の前にはすべては平等よ。ただ、それを得る権利は平等ではないけどね」


「相変わらずだね……少しは丸くなったかと思っていたけど……」


「あんたこそ変わっていないだろうに、何よその胸! 少しは垂れなさいよ!」


 そんな二人を無視してクロは魔力創造で新たにジュースを想像するとフランとクランの二人に渡しもう一本はテーブルに置き、アイテムボックスからお茶請けになりそうなお菓子を広げる。


「まったく二人は……僕はクッキーを貰うよ~」


「わぁ~お菓子がいっぱいだ~白亜、一緒に食べよ~」


「キュウ~」


 ラライの隣に白亜が腰を下ろすと大きく口を開けお菓子を待ち受け、オーガやエルフが腰を下ろすと二人はどちらともなく腰を下ろす。


「えっと、自己紹介とかしますか?」


 ルビーの提案にエルフェリーンが大きく手を上げ食べかけていたクッキーを口に入れると素早く咀嚼しジュースで流し込む。


「僕はエルフェリーン! 錬金工房『草原の若葉』の主だよ! この敷地内で喧嘩する奴は、神だろうが魔王だろうが追い出すからね!」


 自己紹介というなの忠告に頭を下げる二人の母親。まわりのオーガとエルフからは拍手が巻き起こる。


「キュロットさまを叱ることができるのはエルフェリーンさまぐらい……」


「それが知れただけでも今日ここに来てよかった……」


「普段の村長はあんな態度を取ることはないが……」


「過去に何があったとか怖くて聞けないな……」


 エルフチームとオーガーチームに分かれ漏れ出る言葉に二人が視線を送り黙らせると、アイリーンが手を上げる。


≪私はエルフェリーンさまの友達かな? 弟子っていうほど教わってないです。強いて言えばクロ先輩の後輩です。あとは、世界初のアラクネ種です≫


 文字を宙に浮かせて自己紹介するアイリーンに驚きの視線を向け、その魔力で生成された糸に軽く手で触れるキュロット。


「魔力を糸に変換させて空間に固定させているわ……ほら、触っても文字が崩れないし風で流されないわ……」


≪えっへん! 神様も凄いと褒めてくれました~≫


 新たな文字が浮かび目を丸めるオーガとエルフたち。


「神様って……」


「簡単に会える存在じゃないと思うのだけど……」


「私だって教会で励みなさいと神託を受けただけなのに……」


 ナナイも知らなかった事なのか驚き、キュロットも神託を受けた事を口にするがその瞳はアイリーンを見つめポカンと口を開けたままである。


≪その神様にお供え物を強要されているのがクロ先輩です!≫


「強要って、間違いではないが……ほら、俺って異世界人だろ。ああ、この事は内緒でお願いします」


 テーブルに両手をつき頭を下げるクロに更に目を見開くキュロット。ナナイたちはその事実は聞いており、誰にも明かすなとオーガ村の住民には村長命令が下っている。


「数百年ぶりに驚かされるわね……ビスチェの婿としては申し分ないかもね~」


 数回瞬きして口に出した言葉にビスチェが一早く反応し頬を染め、クロは椅子から転げ落ちそうになるところをルビーに支えられ難を逃れる。


「なななな、なんでクロが婿なのよ!」


「そうだよ! クロは僕のオモチャだからね! 誰にもあげないよ!」


 ビスチェがあたふたと口にするが、立ち上げって仁王立ちして宣言するエルフェリーンにキュロットは頭を下げ「知らなかった事とはいえ申し訳ありません」と謝罪の言葉を口にすると満足したのか腰を下ろすエルフェリーン。


「ビスチェ……」


 次に立ち上がったビスチェは頬の赤身も取れており、それだけ口にすると口を尖らせ椅子に座ると目の前にあったお菓子を口に放り込む。


「えっと、ルビーです。新しい屋敷の設計を担当しました。ドワーフですが仲良くして下さい」


 一番まともな自己紹介を終えると白亜が立ち上がり、自己紹介という名のポテチ配りをはじめるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ