オーガたちと次の訪問者
次の日には柱とそれを支える梁を繋ぎ合わせる作業を開始する。
「クリエイトゴーレム!」
天魔の杖を掲げたエルフェリーンの力ある言葉に反応し土が集まり三メートルほどの人型が出来上がり、最後に魔石を組み込んだ魔道具を翳すと吸い込まれるように胸に張り付き赤く輝く。
これはダンジョンのゴーレムに似せて開発された魔術で遥か昔にエルフェリーンが開発したものである。本来の目的は土木作業用として開発され川の整備や道路整備などであり、家の基礎工事などに使う事はあっても柱を持たせたり梁を組み入れたりするのには向いていない。
「ゴーレムは優しく柱を持って硬化岩の所へ、ルビーとクロが協力してそっちの柱を立ててくれ。アイリーンは糸で吊って梁を組み入れ、ビスチェはそのフォローを頼むね!」
エルフェリーンの指示に従い動き出し二本の柱に梁が組み込まれ、それを支え続けるゴーレム。
「次の柱に行くよ~」
「こりゃ、大変だな……」
「そうですか? 柱の割に軽いと思うのですが……」
二人で柱を持つクロとルビーが協力して柱を起こし、糸で空間に固定した梁をゆっくりと下ろしながら柱に組み入れ、ビスチェが宙に浮きながら柱を支える。
四本の柱と梁が完成する頃にはクロは汗でびっしょりになっていた。ルビーは涼しい顔で次の柱へと向かい、アイリーンは次の梁を糸で持ち上げ、エルフェリーンは設計図を見つめ次の柱を確認する。
「あら? お客さんね。クロ……は無理か、私が向かうわ」
肩で息をするクロにビスチェが走り出し、ゴーレム以外の者たちは日陰へと移動する。
「今日は暑くなりそうだね~水分補給はこまめにしないとだね~」
上から降り注ぐ日差しは強くクロは魔力創造でスポーツドリンクを人数分用意すると開封し、口に入れたまま残りをルビーに渡す。
「冷たいですね! ありがとうございます。師匠とアイリーンさんもどうぞ! ビスチェさんは」
錬金工房の入口へ向かったビスチェへと視線を走らせるルビー。その瞳には多くのオーガの姿を捉えた。
「ク~ロ~手伝いに来たよ~」
「村の事はいいのかしら?」
「あの村はここの錬金工房にお世話になりっぱなしだからな。少しでも音が返せる時には手伝うさ」
ラライが走り出しナナイが慌ててその頭を持ち上げ逃走を阻止すると、仲間のオーガたちからドッと笑いが起きる。
「俺たちも微力ながら手伝いに来たぞ」
「『草原の若葉』にはお世話になっているからな」
「クロの酒が目当てじゃないからな!」
「そうよ。私たちは甘味の方が好みだものね~」
「ね~」
ナナイとラライの他にも五名ほどのオーガの男女が付いてきており笑いながら手伝いを申し出る。
「そこは任せなさい! 私がクロにお酒でも蜂蜜でも交渉して見せるわ!」
「私はクロが欲しい!」
「調子にのるな……ったく、誰に似たのだか……」
ラライの宣言に呆れた顔をするナナイと、微笑ましく見るオーがたち。ビスチェは眉間にしわを寄せるが、風の精霊が新たに捉えた人物をそよ風を頬に当て報告するとそちらへと振り向く。
「ママ!?」
驚きの声を急に上げた事もありオーガたちは臨戦態勢を取るが耳に入った言葉の意味に気が付き手に掛けた武器を放す。見ればまだ小さな影だがこちらに向かってくる大きなカタツムリの姿が三つあり、中でも一回り大きなカタツムリのからの上には三名のエルフの姿が陽炎に浮かぶ。
魔力を目に集中しそれを確認したビスチェは口角を引きつらせ、オーガたちは顔を傾げるが「師匠たちのところへ行って、私が出迎えるわ!」と言葉を残し、可視できるほどの魔力を体に纏わせ飛び上がる。
「飛んでった!?」
ラライが嬉しそうに叫ぶが、ナナイとオーガたちは互いに頷き合いそそくさと足を速めエルフェリーンの元へと向かった。
「ビスチェ!」
「止められなかった! 脅迫された!」
ビスチェが降り立つと、フランとクランが叫び巨大なカタツムリから飛び降り勢いそのままにビスチェへと飛び蹴りを放つ。それを左に躱した勢いを利用し裏拳を放つビスチェ。
「少しだけ強くなったわね」
右手でそれを受け微笑むエルフの女性はエルフらしい緑の髪に整った容姿と平らな胸でビスチェに似た顔立ちをしており、ママと叫んだこともあり母親なのだろう。
「放せ!」
右足を大きく振り抜く勢いで蹴り上げるが、裏拳をした左手を返され転がるビスチェ。それはまるで柔術の小手返しのようにビスチェから転がったように見えた。
「久しぶりに会いに来たのにママは悲しいです。あんなにも美味しいワインを隠して飲んでいたなんて……」
両手を目に当て泣き真似をするビスチェママに、立ち上がり軽く服を叩くビスチェ。
「美味しいから二人に持たせたんじゃない! それなのに出会い頭の飛び蹴り! ママのそういう所が、鉄拳村長とか、暴力村長とか、脳筋村長って言われる原因よ! 魔術や精霊術だって使えるくせに拳を固めて殴ってくるとか、エルフらしさがない! エルフはもっと知的なものだと外では思われているのに! ママのせいで近くの亜人種からは変に一目置かれるのよ!」
ビスチェがびしっと人差し指を向けながら抗議の声を上げる。その後ろでフランとクランは無言で頷くあたり真実なのだろう。
「びえぇぇぇぇん。ビスチェちゃんがママを苛めるよ~」
「何を言っているのだか……私が殴ろうが精霊魔法を使おうが無効かするくせに……はぁ……なんだかクロみたいにため息が出るわ」
「そうそう、そのクロ君にも会いに来たのよ~クロ君がワインを用意してくれたと聞いたし、子供と長老は飴を食べて感激していたわ。是非とも私たちの村に来てほしいわ!」
泣いていたのがウソのように態度を変え、両手を合わせて話し出すビスチェママに顔を引きつらせるビスチェ。後ろの二人も苦笑いをしながら話の成り行きを見守っている。
「あははは、キュロットは相変わらずだね」
空から降り立つエルフェリーンの姿に片膝をつくキュロット。フランとクランは慌ててキュロットを真似して膝をつく。
「エルフェリーン様、我が娘をお預かりしていただき、感謝しかありません」
「そんなのは別にいいからね~僕は尊敬より友愛を大切しているからね~ほら、立って顔を見せておくれよ」
「はい……お久しぶりでございます……」
ゆっくりと顔を上げるキュロットは先ほどとは違い涙を流し、エルフェリーンはコロコロと笑いながらも近づき、その頭を優しく撫でると手を取り立ち上がらせた。
「キュロットはマシュリームの長なんだからね。僕程度に頭を下げることはないからさ~今日は家を建て替えているから暇なら手伝ってくれよ~夕食はごちそうを用意するぜ~」
「はい! お任せください! クランとフランも喜んで手伝わせます!」
立ち上がったキュロットは深く頭を下げ、後ろに控えるフランとクランも更に深く頭を下げる。
「うん、期待しているからね~さあ、行こうか」
エルフェリーンの言葉に三名は立ち上がり足を進め、ビスチェは唇を尖らせながら後を追うのだった。
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