基礎作り
晴天の空の下、聖魔の杖を掲げるエルフェリーン。目の前の雑草を取り除いた地面が揺れ始め、ズンという轟音が体の芯に響く。
「ふぅ、これで基礎は固めたよ。ここからはビスチェが地下を掘ってね」
一段低くなった地面はロードローラーを何度も往復したように硬く固まり均一にならされ、手で触れるとつるつるした表面に驚くクロとルビーにアイリーン。
≪重力魔法……すごい……≫
「物が下に落ちる力を増幅して地面に干渉したんだよ。これは意外と凄い魔術なんだぜ~」
天魔の杖をクルクルと回しピタリと止まってポーズを取るエルフェリーン。アイリーンは解説させる前に重力だと気が付き、クロとルビーはポカンとして凄さだけは伝わった。
「土の精霊よ。私の声に耳を貸して」
口にしながら固められた地面を歩き続けると、ビスチェのまわりがキラキラと輝き精霊が集まり始める。ビスチェがしゃがみ地面に手を置くとその場所から土が消え、ビスチェはゆっくりと地面に姿を消してゆく。
「ビスチェは土の精霊にお願いして穴を掘っているんだよ。このまま冷暗所となる場所を確保するからね。それが終わったら硬化岩を柱の場所に合わせて設置したら石をいっぱい撒いて基礎工事の終わりだよ」
エルフェリーンが工程を説明するとルビーが家の設計図と見比べ冷暗所への入り口を確かめ、アイリーンは糸で長さを図りながら棒を立て硬化岩を置く場所を決めてゆく。
「クロ~上に引き上げて~」
穴から響く声にクロが走りシールドを階段状に発生させ下に降りると、魔術で作られた光球が浮かぶ地下室にはビスチェと二本足で立つモグラそっくりな生物が確認できるが、瞬きほどの瞬間に消失し目をこするクロ。
「あれ? いまモグラみたいな生物がいた気がしたけど……」
「あら、良かったじゃない。それは土の精霊よ。新しい家を作るからその事を報告して力を借りたのよ。一瞬でも見られたのなら精霊魔術士になれるかもしれないわね!」
クロへと走り寄り自然と手を握って微笑むビスチェにドキッとするが、足元が急に凹みバランスを崩し転びそうになるが手を引かれ難を逃れる。
「土の精霊が嫉妬したわ。ふふ、精霊魔術士は難しそうね」
「そうみたいだな……」
「土の精霊さんたち、助かったわ」
土の精霊たちにお礼をいうと階段状になったシールドを使い上に登り、入れ替わりでエルフェリーンとルビーが入ると壁や天井を補強する魔術を使い、ルビーはマジックバックから麻袋を取り出すと大量の小石を巻き始める。
これは吸水性が高く水捌けをよくする効果のある岩を粉砕したもので日本建築にも多く使われている技術であり、湿度の多い日本の住居の床下は腐りやすく風通しを少しでも良くして腐敗を防いできたのだ。他にも地面と床を離した建築方法や、置き石の上に柱を設置する方法などで湿度と腐敗を防止している。
「普通ならこんなにも早く地下室はできませんし、よいっしょ、基礎工事だけでも一週間は欲しい所です」
「そうかな? ドランがいた頃は三日であの屋敷を建てたからね。ペースとしては遅いのかと思ったけど」
「三日であの屋敷が建つとか……あり得ませんよ……」
「あははは、あの頃は十人以上ここで暮らしていたからね。あの屋敷の裏にも家が一軒あったし、鍛冶場で寝泊まりする者もいたね」
「うんしょ、うんしょ、って、屋敷の裏の朽ちた小山は家だったのですか!? 前にクロ先輩とビスチェさんがキノコを採っていましたが……」
「人が少なくなって放置していたら崩れたのさ。屋敷に日を遮られているからキノコたちには好物件なのかもしれないね」
二人で小石を撒きながら昔を思い出すエルフェリーン。少し寂しそうなその姿になんと声を欠けていいかわからないルビーは黙々と作業を続ける。
上ではアイリーンが測量がしながら棒を立ててゆき、クロは硬化岩を柱が建つ場所に設置してゆき、ビスチェは地面に刺さる木の枝に首をかしげていた白亜を抱き上げると口を開く。
「この枝は家の建てるのに必要だから悪さしちゃダメよ」
「キュウ?」
「アイリーンが地面に枝を刺して糸を張っているでしょ。そこには壁ができて、クロが硬化岩を置く所には柱が立つのよ。だから悪戯したらダメ、師匠もさすがに怒ると思うわよ。そうなれば……ね!」
ビスチェの笑わない笑顔に顔を何度もカクカクと上下させる白亜。
「そうだぞ~白亜~悪戯したら本当に怒られるからな~アイリーンが」
≪私は確実に怒ります! ルビーさんに任された仕事ですし、魔力で作った糸の長さを図りながら設置するのは意外と骨が折れますから≫
地面と向かい合っていたアイリーンは顔を上げ白亜へと普段は開いていない六つの目を開き赤く光らせる。
「キュッ!?」
白亜は少しでも遠くに逃げるために暴れるが、ビスチェは確りと抱き留める。
「ほらね。みんな怒るから悪戯はダメよ。クロになら悪戯してもいいけど硬化岩を動かすのはダメだからね」
「キュウキュウキュウ」
先ほどよりも頭をカクカクと高速で上下させる白亜にアイリーンは普段通りに二つの瞳に戻り微笑むと地面に視線を戻し、クロは白亜を手招きする。
「キュウ~」
甘えたような鳴き声を上げビスチェから飛び立つ白亜は、クロへと向かいその胸に収まると額をグリグリと押し付ける。
「少し重いから白亜は応援してくれ。この黒い硬化岩は師匠が一生懸命に斬り出したものだからな。慎重に扱わないとなんだよ。俺も落とさないように頑張るから敷地外から応援してくれるか?」
「キュウ!」
「応援してくれるのか! よし! なら、これをやろう」
クロは魔力創造を使い扇子を二つ創造して開き白亜の手に持たせる。
「これは俺の故郷の応援アイテムだ。これを両手に持って応援すると効果が二倍になる。あとはハチマキと学ランを着れば完璧なんだが、今日は扇子を二つ持って応援してくれ」
クロがイメージした応援団を簡単に説明すると、白亜は力強く頷き飛び上がり敷地の外へと降り立ち両手に持った扇子を振りながら「キュウキュウ」と鳴き声を上げ応援を開始する。
≪ななな、白亜ちゃんが可愛いです!≫
「あれが噂の魔力を吸い取られる踊りかしら?」
「どこの知識だよ……白亜の応援に応えるためにも頑張らないとな」
クロはアイテムボックスに入れた硬化岩を並べる作業へと戻り、アイリーンは棒を刺して糸を伸ばす。
ビスチェは排水場所を確認すると土の精霊に声を掛け地下室を作った時のように土を消失させながら歩き屋敷の方へと向かう。掘った穴には後で陶器製の筒を繋ぎ、今ある屋敷の下水と合流させる為である。下水は少し遠くまで繋がっており、その先にはスライムが多く住む沼があり生活排水を処理しているのだ。
「これなら今日中に基礎工事は終わりそうだな」
「そうですね。あっちの屋敷は三日で建てたそうですよ」
地下から上がってきたルビーがクロの独り言に混じり、その言葉に驚いたクロは硬化岩を手から滑らせ慌てて足を動かし避ける。
「あ、危ねぇ……って、三日であの屋敷を建てたのか?」
「そうだぜ~凄いだろ~」
地下から上がりドヤ顔を向けるエルフェリーン。その後ろでは応援に飽きた白亜が扇子を振って飛び上がるのだった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。