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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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オーガの村へ



 準備を終えた一同はクロの背中にくっ付きながら眠るエルフェリーンに違和感を覚えながらも、王家の試練に挑むべく足を進める。


 先頭をビスチェが歩きその後ろをクロが続き、第二王子とメイドが歩き最後尾を女騎士たちが後ろを気にしながら進む。昨日はではフルプレートの鎧を着ていたが歩いての移動となる今は胸とブーツだけを装備し身軽さを重視している。ただ、手には分厚い盾と腰にはショートソードが輝き、他の者たちよりも重装備である。


 歩きだすとすぐに森が見えビスチェは手を空に翳すと緑の髪が巻き上がり、翳した手には薄らとキラキラした光りが舞い降りると、メイドや女騎士たちから驚きの声が上がる。


「風の精霊よ。ここから先は危険だから魔物がいたら教えてね」


 そう口にするとキラキラとした光りは風と共に広がり森の中を風が駆け抜ける。


「これで森の中の魔物の位置がわかるけど、警戒は続けて頂戴ね」


 後ろへと振り向いたビスチェの瞳は薄らだが金色に輝きクロも含め目を奪われる。


「エルフの精霊使いさま……」


 ぽつりと漏らしたメイドの言葉に誰もが疑う事はなく神秘的な目の前の現象に息を飲む。


「クロはシールドで魔物のお尻を叩いて追っ払ってよね」


「ああ、任せろ……」


「行くわよ!」


 一切の迷いなく森へと足を踏み入れるビスチェ。クロは一度振り返り第二王子のダリルとそのお付きたちに目をくれるとビスチェに続き、後の者たちが続く。


 森に入ると日差しを遮られた事もあり薄暗いが時折キラキラとした風が吹き抜け、風の精霊が遊んでいるのか、それとも警戒をしているのかビスチェの髪を掻きあげる。


「もう、悪戯しないの! それよりも警戒をお願い! みんなも足元には注意しなさいよ!」


「へ~い」


「あんたは大丈夫でしょうけど、王宮育ちには足元が悪いわ。まわりはフォローしてあげてね」


「畏まりました」


 メイドの一人が応えるとビスチェが手を上げ静止する一同。


「クロ、前方にダークウルフが二匹。風下だからまたこちらには気がついてない。横からシールドを当ててこの場から遠ざけて。風の精霊には右から突風を吹かせるわ」


「了解……」


 木々の間から目を凝らし前方を確認するクロは手の平ほどの小さなシールドをゆっくりと飛ばすと、二百メートルほど離れた位置に視認できたダークウルフの横腹を押す様にシールドを当てる。


「きゃん」


 驚くダークウルフに突風が追撃するとその場を飛び退き慌てて逃げて行く二匹に「よし」と小声で喜ぶクロとビスチェ。


「凄い物だな……シールドの魔法をあんなにも遠くへ飛ばし、精密に操作するなど聞いた事がないぞ」


「王都を警備する魔導師でも、できるかどうか……」


 女騎士の二人が小声で称賛し、第二王子ダリルはキラキラした瞳を二人に向けつつも歩きだした二人を追うように足を動かす。

 その後は魔物と出会う事もなく距離を稼ぎ二時間ほど歩き続けると、木々が少なくなるが見上げるほどの木々を積み上げた壁が現れる。


「これは……」


「ああ、ここはオーガの村だよ。ここで少し休んだら、」


「何だと!? オーガの村で休めというのか! 休むどころか襲われるぞ!」


「それは問題ないわよ。それにここら一帯はトレントのテリトリーで、ほら、あの大きな木はここらでは長老と呼ばれているトレントの大樹よ」


 ビスチェが指差す方角には数千年の時を越えて生きているのが窺える巨木があり、木の中央には目と口に見える洞が確認できる。


「あ、あれほど大きなトレント……」


「魔物の中でもおとなしく、時には人を助けると言われていますが……」


「あれではまるで……世界樹……」


 女騎士とメイドが震えながら見つめ声を漏らす。


「世界樹はもっと大きいわよ! それにあのお爺ちゃんは、あらこっちに気が付いたわね」


「こちらから手を出さなければ問題ないです。前に樹木の病気や剪定の方法を教えたら喜んでいましたよ。何というか気の良いお爺さんですよ」


 ビスチェとクロの言葉に視線をトレントから二人へ向け、信じられないという表情を浮かべるメイドと女騎士。


「クロの兄貴はやはり凄いです! ビスチェさまもエルフェリーンさまもそうですが、あんなにも巨大なトレントを前に臆さない胆力! 恐れ入ります!」


 キラキラの瞳から尊敬の眼差しへ変わった第二王子ダリルに対し、頭を掻きながらあからさまに困った瞳を向けるクロ。


「おっ、クロ! お~い、久しぶり~」


 高い木製の壁から声が上がり額にひとつの角がある少女が顔を見せ、真っ赤な髪が印象的な少女はクロの名を叫びながら手を振る。


「ラライか! 久しぶりだな。今からそっちへ行くから門を開けてくれ」


 クロが声を上げるとニッカリと表情を変えると顔が引っ込み走る音が聞こえ、「こっちだ」とクロが先導しながら壁を平行に進むと大きな門が見え、ゆっくりと開くと多くの武器を構えたオーガたちの姿があり、それを飛び越えて先ほどのラライがクロの腰に抱きつき笑顔を向ける。


「ビスチェさまにクロ、よく来たな! 先週以来だが何か欲しい物があるのか?」


「曲がり茸と岩茸に蛙草がよく育っているからな。帰りに取りに来い!」


「ポーションはまだまだあるが、解毒系のポーションが減っているから融通してくれると助かる」


 次々に声を上げるオーガたちの歓迎する声に友好的な商売をしている事が窺える。


「ちょっと待って! 今日は王家の試練なの。五年前にもあったから覚えてないかしら」


 ビスチェの声にオーガたちは頭を傾げるなか、奥から一際大きなオーガが現れ長い赤髪と巨乳を揺らしながら笑顔を向ける。


「あんたたちはまったく。まずは中へ入れてからだ! ビスチェにクロ、それと……まあいい、中へ入ってからだ!」


 その声にビスチェは先に進み、腰にオーガをつけエルフェリーンをおんぶしたまま進むクロ。第二王子ダリルとメイドに女騎士はクロの後ろにピッタリと付き門を抜けるのだった。




 今日はここまでです。

 

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 お読み頂きありがとうございます。


 

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